一年ぶりの招待状
今日はもえと奈央の調子が良い。
「はっ!」
「げぇ!?」
今日は東が練習に来れなかったので、三線速攻の練習は出来ず、いつも通りの練習の後、部活の後のアイスを賭けて二対二を行っていた。
来夏が不用意に下げたボールを、もえが隙を逃さずスティール。一度3Pラインにいる奈央にパスを出して攻守交替をする。
奈央に付いている智代が腰を落とす。ここ最近の練習の成果が見える良いDFだ。
だが――
「なっ! スクリーン!?」
もえが掛けた絶妙なタイミングのスクリーンで智代が阻まれる。すぐにスイッチに来夏が奈央にマッチアップする。
「奈央!」
「ッ!」
そこで、スクリーンを掛けたもえが、間髪なくゴール下に走り込む。ピックアンドロール。スクリーンをしたプレイヤーの有効的なオフェンスプレイ。
「あんなのまだ教えてねーぞ……」
俺のボヤきは、もえのシュートがネットをくぐったタイミングで消える。
なんと今回は、もえと奈央のペアという意外な組み合わせが優勝した。
まだ自分が教えていない事を実践する二人に、俺は自分でも分かるほど声を弾ませながら話しかける。
「よし、今日のチャンピオンはもえと奈央だ。最後のピックアンドロールは上手かったな。スクリーンなんてまだロクに教えてねーのによく出来たな!」
「えへへ、この前ネットで見たプレイなんですけど……上手くできてよかったです」
「うん。もえ、良いタイミングだった」
「奈央も。ナイスパス」
二人はお互いの健闘を称えてハイタッチする。その様子は、仲の良い女の子同士そのものだが、何故かそうとは思わない者もいた。
「なんだ……、あの二人、昨日あんなことがあったってのに、何であんな普通に仲良さげなんだ……」
「今は停戦状態ということか……、まあ今回の二対二については、お互い優勝という利害が一致してましたからなあ」
「……どうしたお前ら」
来夏と真冬が、何か恐ろしい物を見ているかのように遠巻きにもえと奈央を眺めてひそひそ話をしていた。
「負けたのを僻む心意気は悪くないがな、お前ら」
「いや、別に僻んでるとかそういうことじゃないっすよ洋司さん! ただね、洋司さんには見えていない盤上というのが私たちには見えてまして……」
「うんうん。来夏たんの言う通り! この盤面が見えてないのは、むしろお兄たまと智代くらいのモンだよ!」
「ちょっと真冬!? いきなり私を物のついでみたいに悪く言わないでください!」
「? 奈央ともえの間で何かあったのか?」
「それを私たちの口から言わせるのはつらたんという奴でござるよ……」
「……それはそれとして、お前たまにござる口調になるよな……」
結局、真冬と来夏は終始真相を語らなかった。
夕食を終え、9時を回ったころ。おもむろに俺の携帯が鳴った。
着信の表示には、『主人公』の文字。俺は電話に出る。
『野田か? 夜に悪いな?』
「別に悪かねえよ。お前から電話なんて珍しいな.、最近そっちはどうだ、杉崎」
俺は電話の主、杉崎に問うた。
『まああの練試がいい刺激になったのは確かだな。目を見張る勢いで成長してるよ。それで野田、時間も無いし、早速本題に入るんだが、富二中、市内で行われるサマーカップに出ないか?』
杉崎が持ち掛けてきたのは、夏休み中に市内の中学校いくつかが総当たりで試合を行うというサマーカップへの富川第二中の誘いだった。
新チームになってから数ヶ月が経つ頃、新人戦の前にお互いを刺激するという名目で行う強化試合という名目らしい。
三線速攻の練習もし、場数を踏ませたいと思っていた俺は、二もなくその誘いに頷く。
俺が驚いたのは、その次の杉崎の台詞だった。
『それでさ、もう一つ、提案なんだけど、何でもそのサマーカップ。男女中学バスケの他に、オープントーナメント形式で、誰でも参加できる一般の部があるんだ。――それに俺たちで参加して、ちょっと優勝してみないか?』
「……は?」
それは、高体連で部を引退してから約1年ぶりとなる、俺自身の試合の誘いだった。
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