修羅場や
「もえ。ちょっといい?」
その日の練習終わり、灯たちが更衣室で着替えをする中で、来夏はもえに訊ねてみることにした。
「ん? どうしたの来夏?」
「もえってさー……。ぶっちゃけ、洋司さんに惚れてるだろ!」
「……ッ! な、なぁ…!」
「え! え! そうなのもえたん!? いやぁ、恋愛マスターの真冬お姉さんも気づかなかったなあ!」
来夏の問いに顔を赤くしたもえに、真冬が興味深そうに詰め寄る。
「そ、そんなこと……!」
「隠さなくたっていいぜ。さっきの練習中にも洋司さんを呆けた表情で見てたじゃねえか」
「そうなの!? いやあ、練習がキツ過ぎて周りを気にする余裕無かったからなあ……。くっ、惜しいことをした」
「ま、待ってよ二人とも! 私、別に野田コーチのことを好きだなんて――」
「じゃあ違うのか?」
その来夏の直球な問いに、必死に言い繕うとしていたもえは再び赤面、持っていたタオルを顔にぎゅうっと押しやり、やがて蚊の鳴くような声で言った。
「……ううん……、野田コーチは、運動も苦手だった私に、バスケの楽しさを教えてくれて……それにいつも優しかったから……。……だから……」
「ぶぼっ!」
「真冬先輩!?」
突如もえの話を聞いていた真冬が大仰な仕草で床に倒れる。
「もえたん、カワい過ぎでござるよ……。もえたん……もえ」
「真冬先輩ならそれ言うとは思ってたけど!」
「あら、随分面白い話をしてるのね」
「ッ!」
そこにやってきたのは着替えをしていた残りのメンバー。奈央、智代、そして灯だ。
偉そうに仁王立ちする灯を見て、もえはおどろくように目を見開く。それは決して灯の恰好がイチゴパンツにスポーツブラだけの状態だから、というわけではないだろう。
「もえ、あなた、兄さんの事が好きなの?」
下着姿のまま圧倒的プレッシャーを放ってくる灯に、もえは気後れしながらも、力強く頷いた。
「……そう。まあ年齢差とか色々壁はあるでしょうけど頑張りなさい」
『え?』
そのあっさりとした態度に、もえだけでなく、来夏達も間抜けな声を上げる。
灯は着替えを再開しながら、不思議そうに言う。
「なに皆して鳩に尾○玉でも当たったような顔をしているの? 私何かおかしなこと言ったかしら?」
「いや、灯のその毎度意味不明な例えは置いておくとして……。てっきり灯なら『兄さんが欲しければ私を倒してからにしなさい!』とかって言って、修羅場にでもするのかと思ってたから……」
「私ってブラコンキャラって認識だったのかしら……」
そこで着替えを終えた奈央がもえへと歩み寄る。
「もえ、野田さんの事が好きなんだ」
「う……うん!」
「そう。頑張って。……でも、負けないよ」
「え?」
そう言った奈央は、もえの疑問の声には答えず、「じゃあお先に」と言葉を残して更衣室を後にした。奈央ともえの会話を聞いていた来夏と真冬は顔を合わし、やがて同時に言った。
「「修羅場や」」
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次回こそはバスケを。




