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打倒ロウきゅーぶを目指してみる  作者: 無道
躍動のサマーカップ
17/36

口癖は雑種

「はぁ……」

「どうしたのさ来夏、朝から大きなため息なんて吐いて」


三線速攻の練習を始めた翌日、来夏は朝から机に突っ伏してた所、クラスメイトの女子に話しかけられた。

来夏は鉛のように重い体を無理やり起こす。動かした途端全身に走った鈍痛に顔を思わず顰めた。


「いてて……。いや、昨日の部活が想像以上にハードで、今日は朝から全身筋肉痛なんだよー……」

「ああ……なるほどね。そういえば女バスって顧問は産休した井上先生だったよね? 今は誰が顧問やってるの?」

「ああ……それな。実は今の顧問、てか監督は灯の兄ちゃんの洋司って人がやってんだ」

「ええっ!」


クラスメイトは大げさに驚く。


「灯ってあの『ミス中身が残念な美少女コンテスト』でぶっちぎりで三年連続優勝を果たしそうなあの野田灯!?」

「フフフ、笹宮さん、呼んだかしら?」

「ひっ」


笹宮が振り返ると、そこには灯が両手を腰に当てて立っていた。


「あ、灯……。いつから、そこに?」

「あなたが私という人間についての感想を喋っていた時からよ。なによその誰も得しなさそうなコンテスト。連載漫画の短編集にも出てこないレベルよ」

「いやぁ、ごめんごめん」


笹宮は苦笑いして謝ると、でも、と言葉を続けた。


「灯のお兄さんってどんな人なの? 灯が大概吹っ飛んでるから、兄は兄で相当やばそうなイメージだけど。やっぱ妹が唯我独尊系だし、兄の方も『図に乗るな雑種』とかが口癖だったりするの?」

「どんな兄妹よそれ……」

「てか笹宮も本人を目の前にして容赦ねえな……」


灯と来夏が突っ込むと笹宮はいつものように誤魔化すような笑みを浮かべる。


「でもそうねえ、私は自分でもなかなか変わってるとは思っているけど、そのせいとまでは言わないにせよ、兄はかなり普通よ」

「え、ほんとに?」


驚く笹宮に来夏も頷く。


「ああ、常人の普通さを10道力で表すとするだろ?」

「何故手合スタイル」

「そしたら洋司さんはせいぜい100道力くらいだろうな」

「けっこう高くない!? 普通の人の十倍変わってるって事になるけど!?」

「だってこの私の兄なのよ? 53万道力を誇る私とは比べるにも及ばないわ」

「べらぼうな数字ね! 確かにそれに比べたら兄の方はすごい普通だわ!」

「まあ兄さんはJS好きっていう性癖以外はかなりノーマルだからね」

「待て、それはあたしも初耳だぞ」


そこでタイミングよくチャイムが鳴る。灯の最後の発言を来夏は追及したかったが、諦める。笹宮と灯も黙って自分の席に戻っていく。

そのときに来夏は気づいた。灯の歩き方がどこかぎこちないことに。

出来るだけ体を動かす部位を減らそうとするようなその歩き方は、今日の来夏とそっくりだった。


ああ、やっぱり昨日の練習はきつかったんだな。


改めてそんな事を想いながら、来夏は机の中から教科書を取り出すのだった。






放課後、全身を苛む筋肉痛など、最初のダッシュで全く気にならなくなった。それに、今はそんなことを気にしている場合ではない。


「野田!」


今日も当たり前のように練習に来た東からハイポストで張っていた洋司へとボールが通る。マッチアップする来夏が警戒をマックスにして洋司の広い背中を腕で抑える。


「ッ!」


東が右手からインサイドへと走り出す。洋司はそこにパスを入れようと首を右へと向ける。


(違う。これは(フェイク)だ!)


しかし、来夏は釣られる体を必死に御し、次の瞬間左手にスピンムーブをしてきた洋司に必死に食い下がる。

洋司の眼が僅かに見開かれる。そして口元を少し歪めた。


(来る!)


来夏が直感的にそう思った直後、洋司はドリブルする右手首を返して、左にロールをする。しかし、ロールなど灯に散々やられるうえに、ターンスピードは灯や智代よりも遅い。来夏は、ロール直後にシュートモーションに入った洋司に飛んだ。

だが――


「まあお前なら追いつくだろうな」

「しまっ――」


シュートがフェイクだと分かった瞬間、洋司がわざとロールを遅くしたのだと来夏は悟る。そして次の洋司のプレーも。

来夏の体が流れる方向に洋司も飛ぶ。覆いかぶさるように来夏の体が接触したところで洋司はひょいとボールを放る。

ボールはリングに吸い込まれ、その後に来夏と洋司は落下。3Pプレーが成立する。

来夏は悔し気に唸った。


「うああーー! またやられたー! 今回は初めて洋司さん止められると思ったのにーー!」

「まあフェイクを見破ったのは良かったぜ。後はそのすぐポンポン飛んじゃう癖を直さないとな」


立ち上がった洋司は、走ってコートの外に出て、モップで私たちが倒れた部分の床を拭く。そのままにすると、汗で床が滑って怪我をするかもしれないからだ。


「あ、洋司さん。それは私たちが……」

「いいよ、お前らだってプレイしてるんだし。これくらいは俺がやるさ」


もえが進んでモップ掛けを代わろうとするが、洋司はそれをやんわりと断る。

こういう所、洋司さんは気が利くんだよなー、とボーっとしながら眺める。

すると偶然、それは来夏の目に入った。


「……はぅ」


もえが何やらぽーっとしながらモップ掛けをする洋司を眺めていた。

呆けているとも、惚けているとも見えるその様子に、来夏は目をキラリと光らせた。


ほほぅ、もしかして…?


御意見御感想お待ちしております。

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