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打倒ロウきゅーぶを目指してみる  作者: 無道
躍動のサマーカップ
16/36

チームのスタイル

「というわけで、今日は助っ人を連れてきた」

「東修平でっす! いやあ、皆可愛いねえ!」


体育館に東を招き入れ、こうして東を富川第二中バスケ部の面々と顔合わせした時、東がだらしない笑みを浮かべて放った、この第一声で、智代たちはドン引きだった。


「……洋司コーチ。昨日の練習試合で、あなたを少しは信用できる人間なのかと思いましたが、どうやら見誤ったかもしれません」

「このチャラ男、既に隠し切れない下衆のオーラを放っているでござるよ……。流石に私もこれは引くわー……」

「これがコーチの友達なんだろ? じゃあつまりコーチもこれと似たような本性を持ってるってわけだ」

「いやいやいや! 来夏、それは断じて違うから!」

「ていうか、初対面でいきなりこの娘たち辛辣過ぎませんか!?」

「流石に今のは東さんが悪いと思うのだけど……」


灯の言い分は最もだ。中学生に下心丸出しで挨拶する大学生がどこにいるか。

何事にも真摯に取り組む智代が不快感を隠そうともせず、非難するような口調で言う。


「洋司コーチ。この男、本当に練習相手として呼ぶに相応しい男なのですか? 見た所、明らかに軽薄そうで礼がなく、節操が無さそうだし頭悪そうだし馬鹿そうだしで、正直同じ空気を吸うだけでも嫌なのですが」

「流石にボロクソ言い過ぎじゃないですか!?」

「確かに智代が今言ったように、こいつは軽薄で失礼で節操がなくて馬鹿で、おまけに頭がウ○コみたいな色をしてるが、バスケの実力は確かだ。そこは中学からずっと一緒にプレーしていた俺が保証する」

「あれえ、最後なんか悪口が一個増えてた気がするぞお!?」

「……まあ、あなたはこのチームのコーチですし、そのあなたが言うのなら、ひとまずは信じましょう。とりあえず、練習はいつものでいいのですか?」

「ああ、スクエアパスまで終わったら一度集合をかける」

「わかりました。――さあ、それでは練習を始めますよ!」


智代の掛け声と共にコートへと散らばっていく智代たち。

それから始まった練習を、東は「ほー」とか「おおー」とか言いながら見ていたが、やがてぽつりと呟いた。


「うーん……なんというか、さっき来る前に聞いた、部員の過半数が初心者って言うのを疑いたくなるようなレベルだよねえ。全員がチームにおいての自分の役割を理解したうえで練習をこなしてる」

「ああ、そしてこれからお前に手伝ってもらう練習が、このチームのスタイルを確立させるための練習だ。――全員集合!」

『はいっ!』


灯達が一斉にこちらに走ってくる。自分たちに向かって走ってくるJCを見て、東がおお、と感嘆の声を漏らす。ふふ、やはりお前にもこの愉悦が分かるか。


「これから新しい練習を説明する。昨日の練習試合で、お前らのチームスタイルが大体まとまった。それは、DFからの三線速攻だ」

「三線速攻?」


もえが聞き慣れない言葉に首をかしげる。

「そうだ。三線速攻ってのは、簡単に言うとOFが三人走り込んで速攻をすることだ。それの詳しい概要については、今日漫画なり本なりを持って来たから、練習の後にでも読んでくれ。とりあえず今は、理論をざっくり説明して練習を優先するぞ」


全員の意識が俺に向かっているのを確認する。ここまでで、不満や話についていけてない者はいないか、周りをぐるりと見渡す。


「……よし。それじゃあ練習について説明する。と言っても簡単だ。俺と東、そしてもえでOFをする。残りの奴らでDFだ。まあ攻撃が3人しかいないから、そこはお前らでどうDFするか好きに決めていい。ただし、ゾーンDFは禁止で、来夏はゴール下付近でDFすることが条件だ。んで、俺たちの攻撃を止めたら、そのまま速攻をする。以上」

「え、ほんとにそれだけかよ?」


来夏が驚いたように目を丸くする。「もっと難しいことをするかと思った」


「小難しい所はまだお前らには早いだろう。勿論、少しずつは教えていくが、まずは点数を重ねられるパターンを作らないとな。対神楽坂戦で、お前らの取った得点は68点だが、そのうち速攻での得点が半分を占めている。これは灯や智代、来夏の走力の高さと、速攻崩れからの遅れて走り込んできた真冬たちのミドルシュートによる得点率の高さが起因している」

「確かに、そんな感じで私もシュートを決めた気がする」


奈央がこくりと頷き、周りも同様の納得を見せる。東もうんうん頷いているが、あの顔は多分分かっていない。


「しかし、後半の第4Qだけ見ると、得点を取った数は負けているのが分かる。気付いていたか? これは神楽坂の意地っていうのもあるが、お前らがへばって速攻の機会をなくしたのと、シュート率がぐんと下がったせいだ。ということで、今日からそこの補強をする」

「……フフフ、なるほどね」


灯が意味深に頷いたのを見て、来夏が問う。


「灯、つまりはどういうことだ?」

「来夏、この練習、やることは簡単よ。兄さんたちの攻撃を止めて、速攻で点を取る。けれどこれ、私たちは攻撃するごとに相手コートまで走って、更にDFを振り切ってシュートするってことを何回もするの。つまり簡単に言うとね、――めっちゃ疲れるわ」






灯の言った通り、この練習は走りっぱなしになるため、灯達はかなり消耗する。


「おらっ、疲れたからって膝に手ぇ付いてDFする奴があるか!」


俺のパスがインサイドに走り込んできた東に渡り、そのままレイアップが決まる。


「智代と真冬はボールばっかりに目がいって東から目を離し過ぎだ! 来夏はカバーが遅い! はい、シュートを決められたからダッシュ1本!」

「ッッッ!!」

「返事!」

『はいっ!』


バッシュの靴底を減らし、走っていく灯達。かつてないほどハードな練習だ。


「ッ!」


もえが外したシュートを来夏が拾う。すぐさま灯にパスを出して速攻を狙うが、神楽坂のように俺と東は甘くない。


「東は智代をマーク、もえは遅れて走り込んでくる真冬と奈央に注意しろ!」

「は、はいっ!」

「任せとけ!」

「――ッ!」


パターンを作るということは、相手も対策を取ってくる可能性が高いということ。ということで俺たち3人はガチガチに速攻対策を講じ、大学生の力をいかんなく発揮して本気でDFする。

俺はパスを出すと、あらかじめ自陣に下がり気味に後退し、セーフティという役割をする。俺が深めに守ってロングパスをけん制しつつボールマンにマッチアップして少しでもOFを阻害する。そのうちに東ともえでDFを立て直す。


「くっ、相変わらずなんて嫌らしい間取りをするのかしら!」


ボールを運ぶ灯が苛立だしげに毒づく。広めに守りつつ少し先を先行する智代へのパスにも対応できる間合いを保っているため、灯は思うように攻撃を作れない。


「こっちだ!」

「ッ!」


間髪入れずに走り込んできた来夏にボールは渡るが、その行く手には既に東がいた。

来夏はドリブルはお世辞にも上手とは言えず、パスコースを探すが、灯へのリターンパスは俺が許さない。そこで智代にボールが回るが、東がスライドしてそのまま智代につく。


「ッ!」


ここで智代がフリーになった来夏にリターンパスをしようとして、さっきから何度も東にパスカットをされている。東の瞬発力は灯並みに早い。それに加えてバレバレのパスではいくら早くリターンを出しても東は必ず反応出来るだろう。


「ヘイヘイ智代ちゃん、降参ですかい!?」

「ッ! 舐めた真似を……ッ!」

「待ちなさい智代!」


灯の静止するより早く、智代はゴール下へと切り込む。東はそれに悠々とついていく。

しかし次の瞬間智代は急ストップ。そのままシュートモーションに入る。ストップ&ジャンプシュート。灯の得意とするパターンだが――。


「――!」

「なっ!?」


東はそれにも平然と反応し、綺麗に智代のシュートをブロックする。ボールはその先にいたもえが拾い、攻撃が途切れる。


「智代、攻める気持ちは悪くないが、相手との力量差も考えたほうが良いな。今のは速攻に拘らないで、走り込んできた真冬と奈央に合わせてセカンドブレイクを待っても良かった」

「はい……」


悔しそうに歯噛みする智代。肩にかかったポニーテールを背中に流し、手の甲で汗を拭う。

周りを見渡せば、他のメンバーもかなり疲弊していた。体力があるとはいえ、こうも何度も走らされれば辛いだろう。

俺は大きめの声を出し、手を叩く。


「よし、それじゃあ奈央ともえを交代。奈央が俺と東のチーム、もえが奈央のポジションだ。あと2本! 決めたらそこで今日の練習は終わりだ。全員気合い出せ!」

『応ッ!』


7月も中盤に差し掛かり、体育館は悶々とした熱気が籠り、それによっても体力は削られていく。それでも皆は最後まで走り、点を取ろうと頑張った。

だが結局、それからも俺たちから点を取ることは出来ず、時間の為、今日の練習は終了した。


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