ロリコンには…
野田洋司は大学生である。大学生には、当たり前だが講義というものが存在する。
それはいつも灯達にバスケを教えている俺だって例外ではない。というわけで、俺は現在授業中だ。
高校までとは打って変わった教授の一方的な講義を、眠気をこらえて板書する。
昨日は練習試合のあと、近くのファミリーレストランでささやかな祝勝会を開き、帰りはけっこう遅い時間になったのも、今襲い掛かってきている睡魔の原因の一つだろう。
ようやく講義が終わり、さて家に帰ろうかなと席を立ったところで、声が掛かる。
「おーい洋司。今日の講義はこれで終わりかよ?」
話しかけてきたのは髪を薄い茶色に染め、軽薄そうな笑みを浮かべる友人、東修平だ。俺と中学からずっと一緒の学校で、しかも同じバスケ部だったこともあり、所謂腐れ縁と言うやつだ。
「ああ、用事もあるし、これから帰るとこだ」
「へー。お前、最近なんか忙しそうだよな。何かバイトでも始めたの?」
「いや、最近、灯の中学の女バスのコーチを任されるようになってな。今日もその関係で行かなきゃいけないんだよ」
「へー、そりゃ大変だなー……ってはぁ!?」
東が素っ頓狂な声を上げる。
「ここは講義室だそ。そういう掛け声の練習は家だけでやれよ」
「掛け声じゃねえよ!? 驚いたんだよ! え、お前、最近やけに付き合い悪いと思ってたらそんなことやってたの? 灯ちゃんって今小学生だっけ?」
「今年で中学だ」
「JCか……ってことはお前JCのコーチやってんの!? なんで俺に教えてくれねえんだよ! それを知ってたら俺も――」
「お前に言ったら確実に付いてくるって言うだろ。お前付いてくるとうるさいだろうし」
「先手打たれたーー!」
東がやかましく騒ぐ。ほんとにうるさい奴だ。一緒にいて友達だと思われたくないタイプだ。
「じゃ、俺急いでるから。お前まだあと一個講義あるだろ? 頑張れよ」
「ちょ、ちょっと待てよ野田! 今日、その練習に俺も連れてってくれよ! 俺もいったら役に立つぜ!」
「講義はどうするつもりだよ?」
「そんなもん、JCとは比べるべくもないぜ!」
「ここマジで講義室だからな」
そろそろほんとに周りの目が痛い。JCと大声で喚く男とかそりゃやばい奴にしか見えないもんな。
俺は東を無視して講義室を出る。東が後から追いかけてくる。
「なあ野田ぁ、俺とお前の仲だろ? 頼むって、週に一回…いや、二回でいいからさぁ」
「何で増やしたんだよ、普通そこは減らすとこだろ。あと、なにちゃっかり毎週来ようとしてるんだよ」
「ほら、僕ってバスケ上手いだろ? いい練習相手になると思うんだよ」
「……」
前半のバスケ上手い発言には正直イラッとしたが、確かにこいつもバスケは結構うまい。特に脚力に物を言わせるこいつのDFは、高校でもちょっとした有名人だった。
そしてもう一つ、昨日の練習試合で感じた富川第二中の弱点。そこを克服する練習には、出来ればもう少し、人数は欲しいと思っていたところではあった。
「……言っておくが、相手は中学生だからな。もし少しでもおかしな素振りを見せたら即職員室に突き出すからな」
「任せろって。視姦は僕の得意分野さ!」
「爽やかな顔でなに最低発言してんだ。あと、灯にも連絡して、許可が下りたら連れてってやるから、ダメなら素直に諦めろよ」
灯と東は面識がある。俺が一応灯に『今日の練習は東を練習相手に連れていくが、構わないか?』とラインを打つと、すぐに返信が帰って来た。時間的には授業中のはずだが……。
「……灯から返事が来たぞ」
「お、何だって?」
「ただ一言、『ロリコンには死を』だってよ」
「……灯ちゃんも、なかなか闇を持ってるよね……」
こうして、今日の練習に東が付いてくることになった。
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