開幕の1対1
バスケのルールとか用語とかは出来るだけ説明するようにします。
分からないことがあれば感想なりにでもどんどん言ってください。
審判は俺と杉崎で行うことになったが如何せんお互いともチームの人数が少ない。ということで、オフィシャルには神楽坂の男子バスケ部に入ってもらった。いやあ、わざわざすみませんね。
「それではこれより、神楽坂中学対富川第二中学の練習試合を始めます。礼!」
『よろしくお願いします!』
俺の号令と共に両チーム選手が礼をする。
さあ、いよいよ初戦だ。お前らの成長を見せてみろ。
ジャンプボール。こちらは勿論来夏が飛ぶ。向こうはチーム唯一の長身で、いかにも争い事が苦手そうな女の子。
ボールが上がり、試合が始まる。ジャンプボールを制したのは、来夏。
「灯!」
「ナイスよ来夏!」
灯にボールが渡り、富川ボールから始まる。
「ディフェンス!」
相手のエース、遥香の掛け声に合わせ、神楽坂はそれぞれのマッチアップに付く。
向こうも定石のマンツースタートか。
灯と3Pラインで相対するのは遥香。腰を低くした良いディフェンスをする。
灯は悠然とドリブルをする。さあ、最初はどうするか。
「フフフ、そんな離れてていいのかしら?」
「――え?」
(あいつ、いきなりそれを選んだか!)
俺も驚いた灯のオフェンスの選択。
それは、持ち前のクイックリリースによる、3Pシュートだった。
シュートはネットを揺らし、富川に3点の得点が入る。
「ナイシュー灯! でもいきなりだったからびっくりしたぜ!」
「フフフ、ディフェンスが下がり気味だったからね」
そう言って灯は、茫然とする遥香にウィンクする。
(釘を刺したな)
俺はホイッスルを咥えながら思う。
今、灯は遥香に対して、警告したのだ。距離を離せばシュートも打てるぞ、と。
それにあの中学生離れしたクイックリリース。これにより、残りの時間、遥香は常に灯との間合いに気を張らなければならない。沢登みたいなプレーだ。
「ドンマイ、切り替えていこう!」
杉崎が笛から口を離し、選手を鼓舞する。あ、審判なのに応援有りかよ。
杉崎の声になんとか切り替えた神楽坂の攻撃。相手のポイントガードに付いているのは真冬。真冬は、ディフェンスはそこそこ上手い。
相手ガードは、迷った様子もなく一人の少女にパスを回す。
やられたらやり返せということか、パスをもらったのは向こうのエース、遥香。
遥香は練習前に見せた表情とは一転、凛とした顔でディフェンスの灯と対峙する。
「――行くよ」
「来なさい」
遥香が動く。まずはシュートフェイクを一つ。しかしこれには灯は引っかからない。
次に左にドライブフェイク。それから一気に右にドライブをかける。
「――ッ!」
「甘いわ」
しかし、それにも灯は苦もなくついて行く。灯の反応速度は超人的だ。あれくらいのスピードならついて行くことは容易い。
俺の脳内に、遥香のシュートを灯がブロックする映像が映し出される。
しかし、現実はそうはならなかった。
「祈!」
「え…?」
遥香はそのまま、ローポストに控えていた相手センターにパスを出したのだ。
そのままシュートに行くと思っていた灯は、その予想外のプレイに対応が遅れる。
灯はパスを出した瞬間、急ストップし逆サイドへ走り込む――V字カットで灯のマークを外し、0℃の3Pラインでリターンパスをもらう。
「ふ――」
迷いなく放たれた遥香のシュートは、小気味良くネットを揺らした。
小さくガッツポーズを作る遥香。その視線には、灯。
無理に1対1で行く必要はない。そう言っているようにも見えた。
「まだ勝負は始まったばかりだよ……!」
「……面白いわ」
その二人の様子を見て、俺と杉崎は一瞬視線を交わし、微笑む。
これはお互い良い刺激になりそうだ…!
第1Q 6:48
神楽坂 3―3 富川第二
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