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コメント頂いたので投稿します。


「陛下、この者が例の話の者です」

「……そうか」


魔王陛下の前まできた俺達は、玉座に座る魔王陛下の前で膝をついて頭を下げる。


その間に見た父は昔のように威圧感たっぷりで、流石は魔王といった風で。

しかも年齢を重ねた為か貫禄が昔より出ている気がした。


「面を上げよ」


言われた通り顔を上げれば懐かしい父と目が合った。


「…………」


何も言わない魔王陛下。

視線を交わしてはいるが、陛下の表情は何も映しておらず何を考えているのかわからない。

何も言わない陛下に俺はどうすればいいのかわからず、ただ逸らされることのない瞳を見続けた。


「……地下牢へ放り込め」

「御意」


憎悪を見せず、淡々と業務命令のように言う陛下に、俺は痛む心を抑え、大人しく地下牢へと連行された。






「……ユディ、私はどうすればいい」


俺が連行された後、先程の冷淡な表情が苦々しいものに変わり、手で顔を覆う陛下がいたことを、俺は知らない。








「とりあえず当分ここで過ごせ」


地下牢の鉄格子越しに、ダンテリオがこちらをじっと見ていた。


「不便だ」

「陛下のご命令だ」

「……不便だ」


むう、と唸りたい気持ちでダンテリオを見上げる。

そんな俺を見下ろし、笑う。


「だが、俺はお前と過ごす中で判断すると言ったからな。暇な時は顔を出してやろう」

「なんか本とかないの?」

「お前な……」


こんな黴臭いところで過ごせと言うんだ。

少しくらい暇潰しが出来るものが欲しい。


苛立つというよりは呆れた表情のダンテリオにせがむようにじっと見つめる。


「……大人しくしてろよ」


くるり、と背を向けダンテリオは立ち去ってしまった。


もう少しくらい話に付き合ってくれたっていいじゃないか。

不貞腐れながら、俺は壁に背を預け、考え込む。


そもそも人間だってだけで地下牢へ放り込むか?

いや、それなら陛下もダンテリオもしないだろう。

恐らく俺がユディを名乗っているのがいけないんだろうな。


せっかく魔王城に帰ってきたというのに罪人扱いとは。


思わず苦笑してしまう。




……黴臭い。


つん、と鼻につくこの臭いは、どこか懐かしく感じた。

何故だろうか、と考えて。

ああ、あれだ、と思い出す。


いつだったか、まだ小さな子どもだった頃。

魔族は戦闘能力が高いとはいえ、子どもの時は人間の子と同じような能力しかもたない、まだまだ半人前もいいとこなくらいの年の頃。

山の中で迷ってしまった俺は、泣きながら歩いていた。

最初は迷子なんかになっていないと躍起になって歩き回って、自分がどこを歩いているのかわからず、辺りも暗くなってきて。

堪らず、泣き出して、怖い思いをしつつ、目に入った洞窟でグズグズ泣きながらそこに留まることにした。


黴臭い洞窟の中は、ジメジメしていて泣いてる自分にはぴったりの場所だと嫌でも思わされて、無理矢理涙を引っ込めた覚えがある。

泣きまくったら、逆に落ち着いてきて。

その日はそこで過ごして、朝、捜索隊に見つけてもらったんだっけ。


もう少し早く巫女の力を上手く使いこなせていたら、精霊達を視ることが出来ただろうし、術を使って気を紛らせることが出来ただろうに。


冷たく、鼻につく臭いを漂わせる、暗く、惨めで、孤独な牢屋はどこかあの洞窟を思い出させた。

それでも俺がここにいることを知っている人がいて、近くに人の気配を感じさせるあの洞窟よりは、マシなような気がした。


のそのそと、固くてザラザラするベッドへと横たわる。


ヴェンとユノアは大丈夫だろうか。

恐らく彼ら、少なくともヴェンはダンテリオの部下だろう。

諜報員だろうとあたりをつけているが、部下であることは確信している。


そもそも彼らが人間の国に足を踏み入れてる時点でそれだろう。


彼らが手荒い扱いを受けてなければいいが。



そんなことを考えながら、俺は固いベッドの上で眠った。







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