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07





「ガキ。ここはお前が来ていい場所じゃない。痛い目にあう前に帰れ」

「そんなの決めつけられたくないな。俺がいたいからここにいるんだよ」


だんだんと逼迫していく状況に俺とダンテリオ以外は俺達を囲みながら、いつでも動ける状態だ。

ダンテリオが命令を下せば、すぐさま動くのだろう。

俺の言葉遣いや、態度が気に食わないのか、兵士達が此方に殺気を飛ばしてきている。

勿論、俺が人間だからというのもあるだろう。


「へえ?なかなか生意気なガキだな。しかも魔族に取り入ってここまで来るとは恐れ入る」


ちらり、とダンテリオがヴェンとユノアに視線を向ける。

俺より後ろにいる二人の様子はわからないが、それでもかなり居心地の悪い思いをしているだろう。


「人間の国で処刑されそうになっていたから、脱出の手伝いをした見返りにここへの道案内をお願いしたんだ」

「ガキのくせにそんなことが出来たのか?そりゃすげぇな」


はん、と鼻で笑うダンテリオ。


「うん。俺は二人が捕まっていた国の王子だからね」


警戒心と殺気がぐんと強まる。

ダンテリオは怪訝な表情で此方を見ている。


「で?王子様がこんなところに何の用だ?」

「俺の用は貴方に会うことだよ」


眉間に皺を寄せるダンテリオ。


「俺に?」

「うん。後、魔王陛下と魔王妃様」


突如膨れ上がる怒気。

ダンテリオは俺を強く睨み付けた。


「人間の王子が何の為に?交渉にでも来たのか?」

「まさか。個人的に会いに来ただけだよ。特に魔王妃様は心配してる。あの人にはどうしても会いたい」

「何故?」

「魔王城へ近付くにつれ、思ってたことだけど。随分と環境が良くないね。作物も枯れかけているし、植物に元気がない」


ダンテリオは目を瞠り、鋭い視線を向けてきた。

言外に何故知っていると目が訴えている。

母や俺の巫子としての力は極一部のものしか知らない。

だからこそ、人間である俺が知っているのは有り得ない。

そう思ったからこそ、ダンテリオは目で促している。


「俺の力じゃ一、二年しか持たなかったみたいだね。ごめんね、兄さん」


その瞬間、俺は横へと吹っ飛んだ。


「ユディ!」


ヴェンとユノアが俺の名を呼ぶ。

兵士達は突然のダンテリオの行動に驚いたようだが、すぐに吹っ飛んだ俺やヴェン、ユノアに剣を突き付けた。


「ユディ?ユディだと?ふざけるな!人間がその名を使うな!」


激高するダンテリオは俺の元へと瞬時に移動する。

急な蹴りにヴェンに蹴られた時のことを思い出しながら、どうにか壁への激突は免れた。

とにかく、蹴られた横腹に手を当てながら、守りの体勢に入ろうとしたころにはダンテリオに胸倉を掴まれていた。

驚異のスピードだ。

まだガキであり、人間である俺がダンテリオに勝てるわけがない。

更に言えば体術では、前世で兄に勝ったことなどない。

魔術で勝ったことならあるが。

それでも兄は俺より強かった。


「はは、すっげえ怖いよその顔。やっぱり父さんより兄さんの方が魔王に相応しいね」


憎悪を滲ませ、悔しげな表情をしている兄の顔は恐ろしく、そして俺にとっては悲しいものだった。

つい、前世と同じように憎まれ口を叩いたのは久しぶりに会えたことへの喜び故か。


更に驚異のスピードで頬に拳をぶち噛まされた俺はそのまま意識を飛ばした。




「殿下!お願いします!ユディを殺さないでやって下さい!」

「どうかどうかお願いします!彼をここまで連れてきたのは私達なのです!」


動かなくなったユディを見て、ヴェンとユノアは慌ててダンテリオに頭を下げる。

ここまで上手く立ち回ってきたユディが倒れているのを二人は初めて見た。

魔族のしかもあのダンテリオ様に立ち向かうなんて強行に出るとは思わなかったし、実際に倒れたユディを見て思った以上に不安を覚えた。

この少年がこのまま動かなくなってしまったらどうしよう、と。

ダンテリオは意識を失ったユディを見て、それから二人へと視線を向けた。


「何故こいつを庇う?」

「私達は一度処刑されそうになった身です。それを助けてくれたのは彼であり、彼は魔族に対してとても友好的でした。この通り私は目が見えませんが、傷を癒してくれたのも彼です」

「こいつは一体何者だ?」

「それは、私達には人間の国の王族だということしか」


ユディがただの王子じゃないことは知っている。

魔族より闇属性の魔法を使いこなすことや、他の魔法も自分達より余程上手く扱う。戦闘においても魔法頼りというだけではなく、きちんと接近戦も行える。

更に街では王族とは思えないほど、庶民と言葉を交わすのだ。買い物の時にそれを知り、本当に王族なのだろうかと疑ったが、城で彼が殿下と呼ばれていたことを覚えている。

明らかに普通ではないことはわかっているが、それをそのままダンテリオに伝えていいものかと、自分達の疑問は伏せることにした。


先程の、ダンテリオとユディの会話も気になる。

今それをツッコむことなど出来るはずもないが。


「こいつは俺が預かる。お前達も一緒に城へ来い」


ダンテリオはユディを肩に担ぐと、周りの兵士に指示を飛ばす。

そのうち二人の兵士がヴェンとユノアを連行するような形で、一行は魔王城へと向かった。





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