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06




それから俺達は一緒に旅をした。

ある時は人間に魔族だとバレ、追いかけ回されたり。

ある時は森の中に住むドラゴンと話しをしたり。

ある時は小さな人間の少女を助けてお礼を言われたり。


そうして、三ヶ月の時が過ぎ、とうとうディスタジアに辿り着いた。


「ようやく着いたなー」

「ああ、帰ってきたのね」

「まさか人間を連れてくることになるとは思わなかったがな」


嬉しそうに頬を綻ばせる三人だが、ヴェンは俺を見ると不安そうな顔をした。


「ユディ、本当にディスタジアに入るつもりか?」

「勿論。何の為にここまで来たと思ってんの」


当然とばかりに返せば、ユノアがくすくすと笑い出す。


「では、お待ちかねの入国をしましょうか」


三人は気合いを入れ直し、ディスタジアへと足を踏み入れた。

門にいる兵士はあっさりと俺らを通した。

ヴェンという魔族がいたことで、人間を連れ歩いているとは思わなかったのだろう。

ユノアは両目を瞑っているし、俺もフードを深めに被っていただけなのにだ。

危うくなったら、幻覚魔法で目元を隠せばいいと考えていた。


とはいえ、そこまで深刻に考えていたわけでもない。

人間と魔族の容姿はとても似ている。

魔族の国に人間が入ることも、その逆も実は容易なのだ。


目を合わせればバレてしまうため、片目を隠したりしなければならないが。

高位魔術が使えれば、幻覚魔法を使い、人間に成りすますことは簡単だが、相手に怪しまれずに幻覚魔法を使うことは容易ではない。

幻覚魔法を使っているとバレれば大抵がそいつを魔族だと思われてしまうからだ。

そうして幻覚魔法が扱えるのは闇属性の強い魔族であり、人間では人握りしかいない。


俺は人間だが、前世で闇属性の魔法を使っていたためか、扱うのに何の問題もなかった。

使い方さえわかっていれば案外出来てしまうものらしい。



「あっさり通ったなー」

「こっちは結構ドキドキしているんだけどね」


ユノアがふう、と息を吐きながら弱々し気に此方を見る。

実際は顔を向けているだけで見えてはいないのだろうけど。


「まぁ、まだ入口に入ったばかりだし、魔王城までまだまだあるからね」


のんびり行こうか。


そんな俺の言葉に、二人は苦笑しながらも頷いた。


町から町へとどんどん進む。

俺達は人間がいることなどバレずに進む。


あっちもこっちも魔族だ。

そのことに安堵し、懐かしいとさえ思う。


人間の王族としての暮らしは息苦しかった。

両親に関心を持たれず、放っておかれたのは幸いだったとしても、やはり王族のすぐそばにお供を連れる、護衛が常にいる、というのは俺にとって苦痛でしかなかった。


俺は一歳の誕生日を迎えてから前世の記憶が思い出されたせいで、子どもらしからぬ振る舞いをしていたことはわかっている。

そのせいで気味悪がる奴らも少なくなかった。

直接それを言うことはなかったが、気味が悪いと言いたげな視線を受けるのは俺としても気分がいいものではない。


それを思うと魔族として王族であったことはとても心地良いものだと改めて思うし、こんな俺にヴェンもユノアも良くしてくれていると思う。

まぁ、俺が人間である以上、魔族からは嫌悪されるだろうが、それは理解出来るところなのであまり文句は言えない。


「おい、そこの三人組止まれ」


ある程度、魔王城に近付いた大きな街で呼び止められ、俺達は相手に気付かれないよう警戒心を強めた。


声を掛けられた方を振り向けば、兵士の男が二人立っていた。

呼び止めたのはそのどちらかだろう。

それよりも後ろに三、四人身なりのいい兵士がいた。

その一人に俺は釘付けになった。


が、すぐに俺の前に人が立つことによって視界が閉ざされる。

ヴェンだ。


「なんでしょうか」

「そこの女性と、子どもの顔を見せてもらいたい」

「彼女らを人間と疑っているのですか?」

「目を見なければ判断が出来ないんだ。仕方無いだろ」


肩を竦める兵士に、ヴェンは仕方無いと同じように肩を竦め、此方を振り向いた。

俺が幻覚魔法を使えることは知っている為、見せてやれ、と兵士のへ顎で示す。


だけど。


「ううん、必要ないよ。多分、あの人にはすぐバレちゃうから」


俺は指をさす。

それに周りが怪訝な表情を見せた。

それはそうだろう。

俺が指をさしたのは、この国の第一魔王子。

ダンテリオ・ジオグラス。

俺の兄だ。


普段から街の中を歩く気さくな兄ちゃん風な魔王子だが、だからこそ周りは敬愛を込めて丁寧に話す。

ある程度仲良くなれば気さくに話し掛けられるが、流石に知り合いでもない子どもに指をさされるというのは国民にとって気持ちのいいものではない。


そして、ヴェンがギョッとした反応を見せたことを俺は見逃さなかった。


その間にダンテリオは俺達の前にやってきていた。


「人間のガキか」

「人間のガキだよ」


ダンテリオが冷たい表情で呟くように言う。

それは問いというよりも断定で、確認の為の言葉だ。

今更誤魔化すことも出来ないし、するつもりもさらさらない。

事実を口にすれば、周りの兵士は剣に手を掛け、ヴェンとユノアは緊迫した雰囲気で身構えている。




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