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05



そろそろいいかと、俺はゆっくりとユノアから離れ、息を吐き出した。

何をしているのかわからず、ユノアを心配そうに見ているヴェンが視界に映るが、俺はユノアに声を掛けた。


「ユノアさん、どう?」

「えっと、何か変な感じだわ」


戸惑いを見せるユノアに、ヴェンが少し焦りの声で問い掛ける。


「大丈夫なのか?」

「ええ、なんて言ったらいいのか。感覚が鮮明になったというか鋭くなったというか。目は相変わらず見えないけれど、少しだけ視えるようになった気がするわ」


ユノアの言葉にヴェンは困惑した表情を見せる。

俺はユノアの言ってる意味がわかるので、ユノアの様子にほっと胸を撫で下ろした。


目が見えないユノアの為、少しだけ魔力を感じ取りやすくさせたのだ。

俺は前世で特殊な力を保持していたためか、普通の魔力と巫女の力の区別がついていたし、操作にも長けていた。

転生してもその感覚は失われていなかったらしく、魔力の緻密な操作もお手の物。

本来であれば人の魔力に干渉するなど、危険極まりないのだが、どうやら上手くいったようだ。


「あの、ありがとう。とても楽になったわ」


俺の方を向いてふわりと笑うユノア。

俺も自然と笑顔になった。


「これから一緒に旅をするんだから当たり前だよ」


俺の言葉にユノアはきょとん、とし、ヴェンはギョッとした表情でこちらを振り向いた。


「おい、どういうことだ?」

「二人ともディスタジアに帰るんでしょ?」


ディスタジア。

魔族の住む国だ。

人間の国一つ分より国の規模はでかいが、人間達の国の方が数がある。

大陸の最北端にある魔族の国だ。


「そうだが……」

「さっき俺、言ったよね?魔王城に行きたいって」

「人間のお前がディスタジアに行くのか?人間が簡単に魔王城に入れると本気で思っているのか?」

「難しいとは思うけど、頑張るよ」


俺の返答に二人は呆れた表情をしている。


「お前をディスタジアに引き入れたとなると俺達の立場が危うくなるだろ」

「そこは、ほら。命の恩人の頼みだと思ってさ」


お願い!と手を合わせて頼めば、ヴェンは毒気が抜かれたような間抜けづらを晒した。


「ふっ……ふぐっ、ふふふふふふふふ!」


その後ろでお腹を抱え笑い始めるユノア。

最初こそ堪えていたようだけど、だんだんと堪えきれなくなったのか、最後には「あはははははは!」とユノアらしくない笑い方をしている。


そのことにもヴェンは呆気に取られているようで、ますます間抜けづらに磨きがかかる。

イケメンなのに残念な表情である。


「あはっ、はっ……ふふふ、はぁ……」


やっと笑いが治まったユノアは「面白い子!」と俺を見て笑う。


「そうね、命の恩人のお願いだもの。私達もそれくらい命掛けなきゃね」

「ユノア……」

「ヴェンだってそう思ってるんでしょう?」


片手で顔を覆いながら、はあ、と盛大な溜め息を吐くヴェン。


「わかったよ。仕方無い。だが、これだけは言わせてくれ。魔族を無闇に傷付けるようであれば俺は容赦しない」


真剣な表情で此方を射抜くヴェン。

当たり前だ。

魔族の同族を想う気持ちに、俺はほっこりとした気持ちになる。

前世は他人などあまり気にしない性格であったが、それでも魔族を誇りに思っていた。

人間の醜悪さが余計にそれを浮き立たせている気もするが。


「ヴェンさん、安心して。俺は魔族の味方だよ」


そう微笑む俺に、ヴェンは顔を顰めた。

俺の言葉が本音かどうか測りかねているのだろう。


さて、まずは旅に必要なものを調達するところから始めるかな。


「そういえば、貴方のお名前を聞いてなかったわね。教えてくれる?」


ユノアが指を顎に当てながら首を傾げて尋ねてくる。

ああ、そういえば。

ユノアの言葉に一つ頷いて、俺は一瞬だけ迷い、そして名を口にした。


「ユーディリス、だよ。ユディって呼んで」


それは前世で呼ばれていた名。

懐かしい名だ。

人間の王子の名前など、俺にとって価値はないに等しい。


「ユディ、ね。よろしくね」


笑って握手を求める仕草に俺は応える。

ヴェンはなんとも言えない表情をしていたが、俺に反論することは諦めたようだ。


「こっちこそ、よろしく」





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