04
下へと続く通路は最初梯子で降りるが三メートルしかなく、その後は階段を降りることになる。
洞穴のようなその通路を十五分程進めば、最初に入った時と同じように階段があり、梯子がある。
そこを出れば、森へと辿り着く。
「よし、脱出成功!だね」
よしよしと頷く俺に突如横からすごい勢いで蹴りを入れられる。
反応に少し遅れたものの、腕でガードし後ろへ飛び、蹴りの威力を減らした。
まあ少し後ろに飛んでしまったけど。
「ヴェン!」
ユノアの責めるような声にはヴェンは反応せず、俺を見据えていた。
「お前、何が目的だ」
「まあ、そうなるよね。でもさ、まだここ安全って程じゃないんだよね。もうちょっと遠くまで行ってからにしない?」
ヴェンの攻撃は非難せず、俺はヴェンを睨みつけた。
「ここまでで充分だ。目的を言え」
「充分かどうかは俺が決めるよ。君達じゃここまで辿り付けなかったんだから、それぐらい俺が決めていいよね?」
俺とヴェンの睨み合い。
ユノアはその間、じっとヴェンの答えを待っているようだった。
先に折れたのは俺だった。
「わかったよ。目的を言えばいいんでしょ?とりあえず走りながらでもいいかな?ほら、着いてきて」
とにかくここまで来たなら大丈夫だろうというところまで行きたい。
もう少し待てばヴェンが折れそうではあったけど、その待ち時間すら俺には無駄に思えた。
だったら早く話してしまおう。
警戒されるのは目に見えているが、今話しても後で話しても一緒な気がする。
「俺は魔王城に行きたいんだ」
「な!?行ってどうするつもりだ!」
「会いたい人がいるから行くだけだけど」
「会いたい人だと?」
やはり警戒心を全開にし、俺の目的を聞き出そうでする。
当然である。
自分達を処刑しようとし、魔族は殲滅すべき敵であると思っている人間を自国のしかも最も守らなければならない魔王城に入れるわけにはいかない。
「うん。会いたい人達、が正しいかな」
その後色々と聞き出そうとしてくるが、とにかく安全なところまで行こうと話をかわした。
それから三時間ほど走り続けた。
「さて、こんなところでいいかな。多分まだ二人がいなくなったことは気が付いていないだろうし」
流石に疲れたなぁと木の根に座り込む。
ヴェンは俺を警戒しつつ、ユノアを俺から離れた木の根に座らせた。
「おい、お前。目的は」
「うん、それさっき言ったじゃん。というか、ユノアさんだっけ?目を怪我したの?先天的なものじゃなくて?」
「おい!」
「ええ、怪我よ」
俺がユノアに近付くのを牽制しようとしているヴェンとは逆で、ユノアは落ち着いた様子で俺に言葉を返した。
「痛むの?」
「そうね、でも大丈夫」
それが強がりだということはすぐにわかった。
こめかみがピクピクと動いている。
痛みを我慢しているからだろう。
「ヴェンさん、ちょっとどいて」
「何をするつもりだ」
「ユノアさんの目を治すことは出来ないけど、痛みを取り除くことは出来るから」
ね?宥めるように言えば、ヴェンはぐっと眉間に皺を寄せた。
「本当?そんなことが出来るの?すごいのね」
くすり、と笑うユノアにヴェンは目を瞠り、渋々とユノアの前から体を横にずらす。
「目もと、触るけどいいかな?」
「ええ、大丈夫よ」
何か少しでもユノアを傷付けたらいつでも殺してやると言いたげに、ヴェンは此方を鋭く睨み付けている。
俺はその視線を気にせず、ユノアの目元に触れる。
治癒魔法。
大した魔法でないが、闇属性の魔法で麻痺させながら使えば、痛みはとれるだろう。
俺もそこまで治癒魔法が得意ではないが、方法によっては効果的に治癒を施すことが出来る。
「どう?」
「とても楽になったわ」
ほう、と息を吐くユノアに、俺は少し休憩を挟むとすぐに次の段階に取り掛かる。
「次。ユノアさんが全く周りの状況がわからないのはやっぱりフォローも大変だし、ユノアさん自身も辛いと思うんだよね。だからさ、ちょっと不思議な感覚がすると思うんだけど、抵抗しないで受け止めて欲しいんだよね」
「ユノアに何をするつもりだ」
低く唸るヴェン。
「わかったわ」
「ユノア!」
こくりと頷くユノアにヴェンが叱責の声を上げる。
それでも、ユノアは俺に身を委ねるようにじっとしている。
そんなユノアにヴェンは小さく息を吐き出すと、俺に「大丈夫なんだろうな?」と確認する。
勿論、と答えれば、ヴェンもそれ以上口を挟むことはなかった。
再びユノアの目元に触れ、俺は目を瞑り、意識を集中させる。
ユノアの魔力を感じ取り、それ目元にぐるぐると流すように、流れを促す。
人の魔力に干渉するのは、かなり神経を使う。
無理に動かそうとするとお互いの魔力が反発し、お互い苦痛を伴うため、俺は慎重に魔力の流れを作る。