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03



「ヴェン、私はどうせ逃げられない。だから、貴方だけでも逃げて。逃げることで貴方のプライドが傷付くというのなら、一緒に処刑されましょう。でも、私がいるから一緒に死ぬなんて、そんな理由は嫌よ」


私を言い訳に使わないでね、とユノアが力強く真っ直ぐにヴェンへとそう伝えた。

俺も、ヴェンも、息を呑んだ。


女の人って本当にすごい。

俺はしかめっ面をしているヴェンを見ながら、苦笑した。

ユノアという女性はきっとヴェンの好きなようにして欲しいのだろうけど、女性を守りたいヴェンにとってはかなり悔しいだろう。


「いや、どうせ逃げるなら彼に貴方を背負って一緒に逃げてもらおうと思ってるけど」

「貴方、何を言ってるの?私はお荷物よ。そんなことしたらすぐに捕まってしまうわ」


俺の言葉にヴェンが言葉を発する前に、ユノアが返した。


「うん、そうかもしれないけど、一緒に逃げたいでしょ?」


何を言ってるんだとユノアの眉間に皺が寄る。

ヴェンは俺を睨みつけている。


「君達を助けたいんだ。勿論、君達を助ければ俺にとってのメリットもある」

「メリット?私達魔族を助けて貴方にどんなメリットがあるというの?」

「あるよ。あるけど、それを説明するより先にここを出ようか。あんまり長居しちゃうと脱出の難易度が上がっちゃうからさ」


ね?と首を傾げれば、ヴェンもユノアも黙り込んだ。


俺は急かさず答えを待った。

一、二分静かだった二人を見つめていると、ユノアが口を開いた。


「ヴェン、行きましょう」

「ユノア?」

「私が邪魔になったら置いてっていいわ。だから、行きましょう」

「……置いてったりはしないが、わかった」


す、と俺を見据えたヴェンは「本当に俺達の脱出の手助けをしてくれるんだな?」と確認をしてくる。


「ああ」

「その言葉を信じよう。それで俺達はどうすればいい?」


よかった。

二人の答えに俺はほっと息を吐き、牢の扉を鍵で開けた。

ヴェンとユノアの枷も鍵で外す。

枷には魔法が使えない仕組みの術が掛けられていた。

枷を付けられている者にとっては外すのは難しいが、外部から外すのは案外簡単だ。

鍵と魔法でようやく外せる枷を俺が外してやれば、二人は驚いているようだった。

まぁ、簡単といっても八歳の人間のガキが使うには難しい魔法だ。

驚くのも仕方ないけど、こんなことも出来ずに二人を脱出させようなんて持ち掛ける筈がないだろう、とも思う。


二人には俺が持ってきた黒いローブを羽織ってもらい、さっき言った通り、ヴェンにはユノアを背負ってもらった。


俺が先導しつつ、来た時に眠らせておいた看守の懐に鍵を戻す。

牢の見張りの騎士達にも催眠の魔法を掛けているため、そのまま脇を通り過ぎた。


ある程度、離れたところで術を解く。

倒れる程の催眠を掛ければ魔法を疑われるものだが、立ったまま微睡む程度の睡眠ならば、人間自分の過失を考えるものだ。


何事もなかったかのように、明日の朝になって二人がいないことに気付くことだろう。


見回りの騎士に会わないよう、廊下を走る。

いくつか廊下を曲がったところで、巡回の騎士を発見した。

二人に手で制し、様子を伺う。


通り過ぎるのを待つがなかなかその場から離れようとしない。

どうしようかと考えを巡らせ、俺は二人を振り返った。


「巡回の騎士を撒いてくる。そこの窓を開けて置くから俺達がいなくなったらそこから出て、隠れてて。すぐに合流するつもりだけど、十分経っても俺が現れなかったり、もし騎士に見つかるようであれば、北東に進めば小さな森林があるからとりあえずそこで隠れてて」


小さな声で早口に捲し立てれば、頷きを確認したので、俺は羽織っているローブをユノアに預け、廊下に姿を現した。


「何者だ!」

「俺だけど」


誰何を問われたので、俺は不機嫌そうに言葉を返す。

俺の姿を捉えた騎士は慌てて膝を折って頭を下げた。


「も、申し訳ございません、殿下。このような夜更けにどうなされたのですか?」

「寝付きが悪かったから散歩だよ、散歩」

「散歩でございますか。しかしこのような時間にお一人で歩かれるのは不用心でございます。お部屋までご案内します」


わかったと頷いて、俺はその騎士に付いていく。

付いていきながら、彼らは俺の言葉をしっかりと聞いていてくれるだろうかと心配になる。


部屋まで案内され、騎士が頭を下げ出て行くのを確認してから、俺は部屋の窓から飛び降りた。


がさり、と音がした方を見れば警戒をしているヴェンがいた。


「俺だよ。よかった。ちゃんと隠れててくれたんだね」


顔を顰めているヴェンを尻目にユノアから受け取った黒いローブを羽織り、辺りを見回しながら、走る。

俺の庭である森林を通り、目的の場所に辿り着いた。


木が三本生えている場所の真ん中に少しだけ不自然に雑草が生えている。

不自然な場所の切れ目に手を入れ、触れた取手を掴み引き上げれば。


「隠し通路ってやつだね。さぁ、入って」


俺と隠し通路の先を交互に見て、ヴェンは警戒しながら先へ進んだ。

そうして俺もその後に続く。




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