01
どうやら、一歳を迎えたらしい。
玩具に囲まれた俺のところへ様々な侍女や騎士が訪れ、傅いて祝いの言葉を述べ、出て行く。
人間だ。
そんな感想が頭に浮かぶ。
魔族は総じてオッドアイだ。
だが、彼らの両目の色は揃っている。
どうやら俺は高貴な身分らしいことがわかった。
いや、それよりも重要なことがある。
これは一体どうなっているんだ?
自分の置かれた状況に困惑しつつ、俺は最期の時を思い出していた。
あの日は、なんてタイミングが悪かったのだろう。
悪いことは重なる、と迷信じみた言葉は存在していたのだ、と思わざるをえない。
俺は魔族だった。
魔王陛下とは父のことで、俺は第二王子だった。
父は賢く、強く、人望が厚い人だ。
俺はそんな父を尊敬している。
そんな父に俺より兄の方が似ていた。
少し脳筋なところもあるが、勇ましく強い。
戦いの最中の獰猛な笑い方をする時、父より兄の方が人間でいう【魔王】にぴったりだと思う。
母は巫女であった。
特殊な力を持つ母は、大地に力を与えることが出来た。
あまり体が丈夫でない母は儚く、優しい、おっとりとした女性だ。
母の役目は枯れないよう大地に力を与え、人々に恵みをもたらすことだそうだ。
母は優しい人だから、そんなことを思ったのだろう。
対して俺は、そこまで人の役に立とうとは思っていなかったのだけれど、父よりも母の血を受け継いだのか、俺にも特殊な力があった。
母より丈夫な分、大地に力を与えることが出来た。
力があるのであれば、見よう見まねで母と同じことをした。
この特殊な力は、精霊が好む力だったのか、母や俺はよく精霊と共にいた。
自然を愛する精霊は、大地に力を与える度、木や花が生き生きとするのを見ては喜んだ。
そんな幸せな日々を傍らに、人間との戦争は激化していった。
偶々日照りがよく続いた。
人間は物を腐らせる悪物である、ザジスを大量に戦いに持ち込んだ。
土を耕す者は戦いに重きを置き、土を耕せないでいた。
戦争の負の感情が濃くなった。
色々な要因があったのだろう。
大地はみるみる枯れていく。
母の体調が悪い日も続き、力を使えるのは俺だけだった。
今まで見た事がない程飢えていく大地に、これではまずいと俺は力を注いだ。
その時は必死で後先を考えていなかった。
今思えばもう少し余力を残すべきだったと反省している。
戦争中なのだから、用心するに越したことはない。
力を注ぎ終わると、遠くで人々の叫びが聞こえる。
力を使ってふらふらだったが、魔王城に人間達を入れるわけにはいかないと、俺は叫びのする方へ向かった。
そうして運悪く、勇者達と呼ばれる一人の魔術士と対峙することになる。
まあ、結論を言えば殺された。
上級の広範囲魔法をぶつけられそうになり、俺はその魔法を防いだ。
人々がホッと安堵した表情を見たのは覚えているが、すぐに魔術士からの殺気に振り返り、氷の魔法で体を貫かれた。
人間も、魔族も弱点は同じ。
心臓を刺されれば、死ぬ。
そしてその魔法は確実に俺の心臓を刺したのだろう。
通常であれば、回避するか、魔法で対抗しただろうが、大地にギリギリまで力を与えていた俺は満身創痍だった。
上に立つものとして、冷酷な判断をする父。
実際は愛情深い。
俺の死を悼むだろう。
兄もあれで可愛がってくれていた。
母はただただ心配だ。
同じ力を有していただけあって、母が体調を悪くし、俺だけが力を使っていると申し訳なさそうにしていた。
そんな母だ。
今回俺が大地に莫大な力を注いだことにすぐ気付くだろう。
当分大地に力を注がなくてもいいくらいは注いだつもりだ。
そうしてきっと俺の死とそれを連結させて、自分を責めるのだろう。
ごめん。
申し訳なさと、人間への憎しみを抱え、俺は絶命した。