パーティーの前に…
子供たちが少し早めの休暇をもらって帰ってくるのよ。クリスマスを家族で過ごすのは久しぶりよ。押し入れ中を引っ掻き出してクリスマスツリーを出してみたのだけれど、オーナメントが見当たらないわ。今から買いに行くのもなんだから、身近なもので間に合わせちゃいましょう。ほら、これなんかいいじゃない…。
以前、みんなで伊豆に行ったときに記念で買ったご当地キティちゃんのストラップ。それがきっかけであちこち行く度に集めたものが数十個。ちょっと乙女チックな趣味だけど、役にたったわね。そりゃあ、買うときは少し恥ずかしかったけれど。
こんなのはどうかしら?子供たちが小さいころに描いた似顔絵。写真を捕ってプリントアウトしたわ。セロハンテープで糸をくっつけて…。ほーら!いい感じよ。あとは…。そうだ!さっき買ってきたケーキの箱にリボンが付いていたわね。これをこう切って、こう結んで…。いいじゃない!赤いリボンにしてもらってよかったわ。
即席だけど可愛らしいクリスマスツリーになったわ。
さて、次は料理の支度をしなくちゃ。やっぱり大勢で盛り上がるには鍋よね。最後の〆には中華麺よね。だったら、塩ちゃんこにしましょう。実は先日、東京へ行ったときに日下部さんがちゃんこの美味しいお店を教えてくれたのよ。さっそく次の日に行って来たのだけれど、すっかりハマっちゃったのよ。えっ?クリスマスなのに鍋だなんてらしくないって?いいのよ!クリスマスなんてタダの口実なんだもの。それにチキンならちゃんと用意してあるわ。鶏のから揚げ。いいの!ウチはみんなから揚げが好きなんだから。
さてと、ビールは冷えていたかしら。うん。大丈夫ね。普段は発泡酒なんだけど、今日は奮発して本物のビールを用意したのよ。ちゃんと酒屋さんに届けてもらった瓶のビールよ。あとはこれ!カツオのたたき。
久しぶりに、はりきっちゃったから少し疲れたわ。みんなが帰って来るまで、まだ時間があるから、ちょっとだけ横になっていようかしら。ソファに横になった途端に電話が鳴ったわ。しかも家電よ。誰かしら?
「もしもし…。えっ?警察?…。あ、はい。すぐに伺います」
財布の落し物が届いたらしいけれど、身に覚えがないのよね。自分の財布はちゃんとここにあるし…。まさか、新手の詐欺かしら?でも、それなら交番に来いなんてことはないわよね。とりあえず行くだけ行ってみようかしら。もう、行くって言っちゃったしね。
お巡りさんが差し出したのはきれいにラッピングされた箱に入った財布だったわ。確かに私宛になっているわ。
「どなたかが河さんにプレゼントしようとしていて忘れてしまったのかもしれませんね」
お巡りさんが言うには駅前のお寿司屋さんに置き忘れていたらしいということなのよ。ご主人かお子さんの忘れものではないかといううのだけれど。
「きっと、今頃、失くして困っているかもしれませんから、連絡してみてはいかがですか?」
「そうね…」
一応、主人と子供たちに電話をしてみたわ。
『財布のプレゼント?知らんよ』
そうね、主人がそんな気の利いた事をするわけないものね。
『財布?俺ならもっといいものをプレゼントするよ』
まあ、何かしら?それはとても楽しみだわ。だけど、それは置いといて…。
「みんな違うみたいです」
「じゃあ、念のため中身を確かめてみますか?何か手掛かりになるものが入っているかもしれませんから。たとえば、送り主からのクリスマスカードだとか」
「でも、人違いだったら悪いし」
「なぁに、その時はまた元通りにしておけばいいじゃないですか」
「じゃあ、ちょっと開けてみますね」
まあ!ステキ!これが本当に私へのプレゼントだったら嬉しいわね。開けたついでに財布の中を覗いてみた。あら、何か入っているわ。何かしら?
財布の中には何かカードのようなものが入ってるみたい。
「あのー…」
その時、男の人が交番を訪ねて来たの。
「駅前のお寿司屋さんに忘れ物をしたんですけど、お店の人が交番に届けたというものですから…。あっ!美子さん!」
「えっ?」
突然名前を呼ばれて振り返ってびっくりよ。だって、そこには日下部さんがいたんですもの。
「く、日下部さん!どうされたんですか?」
「いや、美子さんへのクリスマスプレゼントをお届けに来たんですけど、昼飯を食ったお寿司屋さんに置き忘れちゃって、すぐに気が付いて取りに戻ったんですけど、すでに交番へ届けたって聞いたから」
「これ、素敵なお財布ですね」
「あっ!よかった。ちゃんと美子さんに届いたみたいですね」
「そりゃ、そうですよ。私の名前が書かれたタグが付いているんですもの。だから、お巡りさんも落とし主を探すより、受取人に連絡した方が早いと思ったんでしょう。警察から電話があった時にはドキッとしましたよ」
「それはご心配をおかけしましたね。目的が果たせたので、ボクはこれで失礼します」
「ちょっと待って下さいな。今夜、ウチでクリスマスパーティーをやるんですけど、ご一緒しませんか?」
「いえ、それは家族水入らずで楽しんでください」
日下部さんはそう言うと、交番を出て行ったわ。それにしても、日下部さんはわざわざこのために東京から高知まで来てくれたのかしら…。
家に帰って、再び財布の中を覗いてみたわ。さっきのカードが気になったから。取り出してみると、それはクリスマスカードを兼ねた、QUOカードだったわ。オリジナルの200文字小説と“メリークリスマス”の文字がプリントされていたわ…。あっ!いけない。日下部さんに言うのを忘れていたわ…。
「日下部さん、メリークリスマス!」