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こんな夢を観た

こんな夢を観た「懐かしい町」

作者: 夢野彼方
掲載日:2014/06/25

 積み木を並べたようにカラフルな家々、リノリウムのようなつるっとした道路、なんだかとても懐かしい。

「どこかで見たような町なんだけどなぁ」クルマ1台来ない辻の真ん中に立って、わたしはうーんと考えた。


 等間隔に並ぶ電柱の上には、もれなく水色のポリバケツが載せられている。けれど、電線だけはどこにも見当たらない。

「ははあ、すべて地中ケーブルか、それとも無線送信式電源を使っているんだな。新興の電力会社はやることが進んでる」


 不思議なことに、路地という路地をすべて見知っていた。のぞかなくとも、1軒1軒の家の間取りまで、すっかりわかっていた。

 それなのに、ここがどこなのか思い出せない。

「おかしいなあ、よく知っている町のはずなのに……」


 ふらっと、小さな公園に寄る。水飲み場では、出しっ放しの水が、噴水のようにちょろちょろと吹き上がっていた。

 隅に掲示板が置かれている。何か貼り紙がしてあるので、近寄って確かめてみた。


 〔もうまもなく みんなが たのしみにしている、「きゃんでぃまつり」が はじまります。おうちのひとに きゃんでぃがたくさんはいる、おおきくて すてきな「きゃんでぃぶくろ」を つくってもらいましょうね。〕


「ああ、もうそんな季節なんだ。今年も袋いっぱいにもらうぞっ」わたしはうきうきと胸を弾ませながら、そう独りごちた。

 毎年、5月の終わりには、町内でキャンディを配るというイベントがあった。今の今まで、なぜだかそのことを忘れていたのだが。

 すると、ここはわたしが子供に頃に住んでいた町なのだろうか?


 もう1度辺りをじっくりと見渡してみる。まるで、自分の部屋にでもいるように、隅々まで把握できる。その気になりさえすれば、落ちている小石の位置までも思い出せるほどだった。

 


 公園を出て、表通りをぶらりと歩いてみる。行き交う人たちの顔にも、何となく見覚えがあった。知り合いというのではなく、テレビ・ドラマのエキストラでも眺めている感覚である。


 道端に、小さな運動靴が落ちているのを見つけた。しゃがんで調べてみると、かすれたマジックで「さくら幼稚園 もも組 むぅにぃ」とある。

「これって、幼稚園の時の……」

 道の先を見れば、他にもハンカチ、おもちゃの指輪、半分に折れたクレヨンなど、点々と続いていた。

 それらをいちいち拾いながら、わたしは道を進んでいく。


 赤いリボンを結んだ麦わら帽子を拾ったところで、空き地に出た。

 家と家とで囲まれた、小さな空間だ。


 空き地いっぱいに、切り取られたノートのページや画用紙が散らかっている。

 ノートには、書きかけの物語が鉛筆で綴られていた。画用紙にはクレヨンで、色とりどりの稚拙な絵が描かれている。そうした「作品」が、積み上げられるようにして、ここに集まっていた。

 すぐに思い出した。これらはすべて、わたしのものだ。


 夢中になって、絵を見て回った。どれを手に取っても、当時の真剣な思いが蘇ってくる。たった今、描き上げたばかりのように。


 何百枚目かを取り上げたとき、とりわけ感慨深い気持ちになった。

 俯瞰で見た町だ。どこにもない、自分だけの町。こんなところに住んでみたい、そうした思いから作られた地図だった。


「ああ、そうか……」わたしはようやく気がついた。

 幼い日、父に叱られたわたしは、せめて空想の中で家出をしてやろう、そう考えてこの絵を描いた。

 わたしは、再びその町へとやって来ていたのだ。 

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