表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
The Sixth Sense  作者: 山井 隆次
第零章 ―終わり、そして始まり―
2/9

幼き少年の冬

この物語を読んでくれている方に感謝。

予め、言っておきますが、よくある神様に会うとか無いです。

さらに言えば、主人公の前世の記憶が関係してくるのはもっと後だと思います。

それでも良ければ読み進めてください。

 とある冬の朝。

 いつものように目を覚ました僕の視界に飛び込んできたのは太陽の光を受け、煌々と輝く雪景色だった。

「わあ! ゆきだ!」

 僕はそれを見ると、布団から抜け出して、窓に近寄る。一年ぶりの降雪に、僕は目を輝かせた。

 窓を開けると、冷えた空気が僕を包み込む。寒さに体を震わせながらも、雪に手を伸ばした。

 冷たくて懐かしい感触。僕のテンションは最高だった。

「かあさん! かあさん! ゆきだよ!」

 僕は思わず叫びながら、リビングへと走った。リビングでは既に母親は朝食を作っている最中だった。

「あらあら、レンがこんなに早く起きてくるなんて。雪に感謝しようかな」

 そう言って、悪戯そうな目で微笑んでくる女性。その女性こそが僕の母親だ。

「ねぇねぇ、そとであそびたいよ!」

「そうね。でもまずは朝食を食べて、暖かい服装に着替えてからね」

 久々の雪で興奮していた僕は、朝食をかきこんで、すぐに準備をした。

 




 そして、僕は母親と一緒に、雪遊びを昼までやっていた。しかし、母親は途中で昼食の買出しに行ってしまい、僕一人だけが残った。

 一人になった僕は、民家のすぐ近くにある山林の入り口に向かった。

 林の中の景色は、いつもよりずっと新鮮に見えて、歩いているだけでも楽しかった。

 しかし、しばらく歩いていると、楽しい気分など一気に吹っ飛んでしまった。

 林の間に何か動くものを見た僕は、目を凝らしよく見てみる。するとそこには、狼型の魔獣が少女を襲っていたのだ。

 しばらく逃げ回っている少女と、チャンスを伺いながら追いかける魔獣。

 僕は恐怖で、腰が抜けてしまい、その場に座り込んでしまった。

 今すぐに逃げ出したい。という感情と、少女を救わなくては。という感情がごちゃごちゃと頭の中を駆け巡る。

 しかし、どちらにしろ、足は動かなかった。

 そんな自分の様子などお構いなしに、そのおいかけっこの展開が変わった。

 雪で足を滑らせ、少女が転んでしまったのだ。それを好機と見た魔獣が一気に間合いを詰めた。

「うごけええええ!!」

 そう叫び、立ち上がる。僕は雪を握り締め魔獣に向かって投げた。

 僕が投げた雪球は魔獣に当たることは無かったが、魔獣は後ろから攻撃をされているとわかったのだろう。

 こちらに気を向けた魔獣。ここまでの展開は予想できていたが、ここからの事は何も考えていなかった。

 多少の距離はあるにしろ、すぐにこちらに向かってくる魔獣に対し、僕は何も出来なかった。

 やっぱり逃げるべきだったんだ。そういう風に考えるも既に後の祭り。魔獣はこちらに来ているのだ。

 もはや後には引けなかった。がむしゃらに雪を掴んでは投げる。しかし、魔獣には全然効果がなく、スピードが落ちる気配は無かった。

 しかし、運が良かったのだろう。僕が投げた雪球が魔獣の目の中に入ったのだ。それによって、怯む魔獣。

 今だとばかりに僕は逃げ出した。だが、魔獣はすぐに追いかけてきた。

 そして魔獣の近くに、魔方陣が出現した。魔法だ。魔法が使える獣、それが魔獣。当然さきほどの魔獣も使えるわけだ。

 魔方陣から氷の礫が飛んできた。その一つが僕の背中に当たる。鋭い痛みと、体が浮く感覚。そして、地面に叩きつけられる。

「うぁっ!?」

 全身の痛みで、集中力がきれ、どうすれば良いのかわからない。

 魔獣は淡々と僕の近くに寄り、牙をむく。

 このまま死んでしまうのだろうか。そんなの嫌だ。生きたい。

 しかし僕の思考とは裏腹に魔獣は僕に噛み付いてきた。思わず目を閉じる。しかし、痛みはやってこない。

 不思議に思い僕は目を開けた。そこにはすぐ真横の地面に齧り付いている魔獣。魔獣が狙いを外したのか? そう思ったが、違うようだ。

 そこには子供の頭ぐらいの大きさの窪みがあったからだ。つまり、僕が移動したのだ。

 目を閉じている間にそんな事ができるのだろうかと、考えたが、今はそれ所ではない。

 僕は痛みを忘れ走り出した。今の僕を突き動かしているのは、生きたいという生存本能のみだ。

 視界の中に少女の姿が見えたような気もしたが、僕はかまわず逃げた。




 ボロボロの姿で家に帰ると、母親にすごく驚かれた。

 その頃になって、やっと体の痛みを思い出し、安心感と疲れもあって、僕は意識をすぐに手放した。

 目を覚ましたときには、体のあちらこちらに包帯が巻かれていたが、不思議と痛みは無かった。

 そして、落ち着いた時に思い出すのは少女の事だ。少女を見捨てた僕が、少女のことを心配するなんてとも思ったが、無事であってほしかった。

 自分を守るためにも……。

 なんの情報もなく、ただただ罪悪感に押しつぶされそうになって、怖かった。

 頭の中で、少女が魔物に食べられている姿が何度も何度も思い浮かんだ。

 そして、次の日のことだった。近所の人が家に訪問しにきた。その内容というのは近くに住んでいた女の子が行方不明になったという事だった。

 それを聞いた瞬間、僕は最悪な気分になった。じっとしていると、怖くなるから僕は家を飛び出した。

 恐る恐る、少女が襲われていた場所に向かった。

 そこに少女の姿はなく、あったのは赤く濡れた雪だけだった。

 僕は何も出来なかった。そう感じた。僕は弱い。そう思った。そんな僕が嫌で嫌でたまらなく僕は部屋に引きこもってしまった。

 後日、勇戦協会(ブレイヴギルド)の人たちが山林の奥にある魔獣の巣の中から、少女の死体が発見された。

 

 


誤字脱字の報告、アドバイスなどをくれると嬉しいです。

お気に入り登録してくださった方、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ