表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
緋色の月を愛でる夜は――  作者: 二上 ヨシ
第一章  ~ポエニクスの涙を探す~
1/34

序章

「まだか……まだこの連合帝国第三皇子の病名が分からぬのか」

 帝国の中心にある城市の中央に、小山と見紛うほどに高く、周囲を睥睨(へいげい)して(そび)え立つ宮廷があった。数千年、数万年とも言われる歴史を誇る巨城のとある一室は、粛然とした趣に満ちる。

 神妙な面持ちで大理石の真円テーブルを囲む十三名の誰もが、時を感じさせる眉間に、ますます深いしわを刻んでいた。

 髑髏(どくろ)族出身の元老院議長はひとつため息をつくと、己の長い白髯(はくぜん)を撫でながらゆっくりと着座する議員の面々を一望する。

 しかし、亡者族の口煩い老人も、豪勇の士と言われた獅頭(しず)族の元英雄も、魔神族の博識高い尊老も、誰もが意見を求められるのを拒むんでそっぽ向いたり、何か懸命に書いているふりをしてこの現実から逃避している。

 何たることだ、と議長はまたため息を漏らした。

 このメンバーは隣国との大戦の渦中であろうと、国家を二分しかねない内紛の瀬戸際であろうと、史上最大の飢饉の真っ只中であろうと、血気盛んな猛牛の如く高見を噴出させ、勇躍(ゆうやく)として働いた優秀な国の頭脳である。それが、この問題に関しては、まるで臆病な羊の如く大人しく収まっているのだ。

 この元老院を二世紀に渡って(まと)め上げてきた議長も、すでに期待するのを半ば諦めていた。

 今日だけでもかれこれ二時間は話し合っているが、結局行きつく先は『どこかに良い医者はいないのか』で、それより先が見つかる気配すらなかったのだ。

「最近、余命のことに気付かれた三の皇子のご乱心ぶりは目に余る」

「この間も家臣を剣で脅して踊らせたり、我々の胸像を破壊したり。……わしのが一番酷かった……」

「このままでは、皇帝閣下のお怒りが我々元老院に向かうのも、そう遠い日の話ではない」

「そうなれば全員牢獄行きだぞ」

「しかし何人の有名な医術師を呼んだと思っている。その全てが匙を投げたではないか」

「ならばせめてどこかの姫と結婚していただき、御子だけでも授かれば閣下も……」

 新しい意見の登場に、皆一瞬ハッとしたように面を上げる。だがすぐさま、

「いやいや、中々良い視点だがそれもダメだ。三の皇子は元より女を対等な話し相手として見ておいでではない。従前より女を蛇蝎(だかつ)の如く嫌い、隣国の姫とすら口を聞こうともなさらない有様ではないか。無理に成婚いただいても、御子が授かる望みは薄い」

 広間は元老議員たちのため息で満たされ、大きな混沌が渦巻く。議長が行き場のない指を、美髯(びぜん)を撫でて遊ばせた。

「三の皇子の結婚相手に相応しい家柄の、医術師の資格を持つ令嬢さえいれば方法はあるのだが……」

 議長らには何かしらの腹案があるようであった。しかしその為の条件が高すぎる。

「ならば、今日のところはこれにて……」

 最近お決まりになった幕引きの文言を口にしかけたその時、乾いたノック音が鳴り響いた。

「お伝えします、元老院様宛の伝言を受領いたしました」扉越しにくぐもった声。

「そんなものは後でよい!」

「いえ、ですが……医術師の資格を持つ名家の令嬢を紹介したいとのことで」

 元老院議員たちは一人残らず、年を忘れて跳ねるように立ち上がった。


 誤字脱字等ございましたら、ご報告お願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ