裏の巻
あるところに浦島太郎という若者が、お母さんと一緒に住んでいました。
浦島・太郎ではありません。
浦・島太郎です。
彼は今の世で言う“ニート”で、スネっかじりの甲斐性無しでした。
島太郎がいつものように浜でナンパをしていると、数人のギャルが海亀にちょっかいをかけているのを発見しました。
「やあやあ、お姉さん達何してるの?」
「ウゼーんだよ。こっち見んな」
ギャル達は去ってしまいました……
島太郎が落ち込んでいると、海亀が話しかけてきました。
「危ない所を助けていただき、ありがとうございます。お礼に竜宮城に案内しましょう」
かくして、亀に竜宮城へと連れていかれた島太郎。
そこには最大限のもてなしが待っていました。
しかし、島太郎はそのことで調子に乗ってしまいます。
「おりゃあ!酒だ女だ肉だ!早くしやがれ」
毎晩毎晩、酒地肉林の宴を要求してくるのです。
これには乙姫も参りました。
「申し訳ないけど島太郎さん。今日という今日は出ていってもらいますよ!」
「なんだと!亀を助けてやったというのに。この恩知らずが」
「どうしても出ていかないと言うのなら、こっちにも考えがあります」
「ほう……」
「竜宮城の外。つまり海の中に放り出します」
これには島太郎も参りました。
しぶしぶ、帰る支度をします。
「島太郎さん。私達も鬼ではありません。お土産にこの玉手箱を差し上げましょう。しかし、この箱は絶対に開けてはなりませんよ。それではさようなら」
島太郎は海亀に連れられ、地上に帰ってきました。
「さーてと。家に帰るかな。母ちゃん心配してるだろうな」
しかし、家に帰っても誰もいません。
当然です。島太郎が竜宮城に行っている間、地上では百年の時が流れていたのですから……
「うわぁ母ちゃん!どうすりゃいいんだ」
島太郎はニートだったので、母親がいなくなって途方にくれました。
その時、島太郎は玉手箱の存在を思い出しました。
「いや、でも開けちゃいかんと言われたのだからやめておこう」
島太郎はこんな時は素直です。
玉手箱を川に捨ててしまいました。
黒の漆塗りの箱は川の上を美しく流れていきました……
その後、島太郎は町をブラブラしていました。
すると、一枚の瓦版を発見しました。
「なになに。鬼ケ島の鬼を退治したものには金500?ずいぶんと景気の良い話だな」
無職の島太郎にとっては魅力的な金額です。
鬼退治に行くことにしました。
島太郎の旅程は順調にいき、すんなりと鬼ケ島に到着しました。
しかし、様子が変です。
門は開いているし、不自然なほど静かなのです。
「やや!なんということだ」
島太郎が驚くのも無理はありません。
鬼は全滅し、それをやったと思われる人と動物も息絶えていたのですから。
「お、旗があるぞ。桃が書いてあるけど彼らのであろうか……」
島太郎がその旗を持ち上げたその時です。
門から役人らしき人々が入ってきました。
「おお、鬼が全滅している!貴殿がやったのか?」
「え、ええ。まあ……」
「素晴らしい!して、貴殿のお名前は?」
「島太郎です」
ここで、役人風の男は圧倒的な聞き間違えをしました。
それは、島太郎の声がボソボソとしていたのと、桃が描かれた旗を持っていたことに原因があるのかもしれません。
「桃太郎殿ですか。良い名前ですな」
………桃太郎の名は後世に語り継がれていったそうな。
おしまい