表の巻
むかしむかしあるところに、お兄さんとお姉さんが住んでいました。
お兄さんは山へ芝刈りに、お姉さんは川へ洗濯に行きました。
お姉さんが川で洗濯をしていると、黒い漆塗りの綺麗な箱が『どんぶらこ、どんぶらこ』と流れてきました。
「まあ、なんて綺麗な箱でしょう。帰ってお兄さんに見せてあげましょう」
お家に帰ってきた2人。
「お兄さん、これを見てくださいな。川に流れていたのよ」
「おやおや、なんと綺麗な箱だろう。開けてみようじゃないか」
「何が入っているのでしょうね」
お姉さんは箱に巻かれている美しい紐をほどき、フタを開けました。
すると、箱の中から白い煙がモワモワと……
「うわぁ、なんだこの煙は」
その煙が晴れた後、2人は愕然としました。
なんと、お兄さんはおジイさんに、お姉さんはおバアさんになったしまったのです。
「なんということだ」
「どうしましょう、お兄さん」
「お兄さんではない。もうおジイさんだ。そしてお前はおバアさん……」
2人は落ち込みました。
もうお互い乳繰り合うことも、子作りに励むこともできなくなってしまったのです。
「お、おバアさん。死ぬ前に子作りを……」
「こんな時まで何を言っているのですか、おジイさん。そんなことより現状を打開しなくては」
「どうするというのだい?」
「今日、瓦版にこんなことが載っていたわ。『鬼ケ島の鬼を退治した者には金500。さらに、鬼ケ島には“若返りの桃”という秘宝があるそうだ』、と」
「そんな。鬼なんて怖い」
「ぐだぐた言ってないで行くのよ」
おバアさんは沢山のきび団子をこしらえ、おジイさんは桃が描かれた旗を作りました。
旗に桃を書いたのは『若返りの桃を手に入れるぞ』という決意の表れでしょう。
そして、鬼ケ島を目指し出発です。
途中で犬と猿とキジに会い、きび団子をあげると家来になってくれました。
家来ができた2人はご機嫌です。
たとえ、動物の家来だとしても……
そして、2人と3匹はなんとか鬼ケ島にたどり着きました。
おバアさんが鬼のお家の門を蹴破り、突入です。
すると強そうな鬼がわんさかいます。
「なんだお前達は!」
「お前ら鬼を退治するために来た。若返りの桃をわたしな!」
おジイさんとおバアさんはそう言って、鬼達に攻撃をしかけました。
鬼はとても強いのですが、おジイさんとおバアさんは気合いが入っているので互角の戦いを繰り広げました。
それはまさに“死闘”と呼べるものでしょう……
ちなみに犬と猿とキジは何も出来ずにヤられてしまいました。
当然です。敵うわけがありません。
頑張って闘った甲斐もあって、鬼も後1匹。
ですが、おジイさんもおバアさんもボロボロです。
「おジイさん!若返って子作りよ!諦めてはダメ」
「おバアさん……うおおお!」
おジイさんの正拳付きが炸裂しました。
とうとう鬼達をやっつけたのです。
「桃。おバアさん、桃はどこだ……」
おジイさんもおバアさんも大怪我をしていました。
なので、早く桃を食べないと2人共死んでしまいます。
「おジイさん!あったわよ」
2人は“若返りの桃”を食べました。
そして、おジイさんはお兄さんに、おバアさんはお姉さんになりました。
しかし、桃は2人の年齢は若返らせても、ダメージは消してくれませんでした。
「おバアさん。やったなぁ」
「もうおバアさんではなくて、お姉さんよ。そして貴方はお兄さん。でも子作りは出来そうにないわね」
「まあいいではないか。最期に美しいお姉さんの姿を見れてよかった」
2人は手を繋ぎ、幸せそうに息絶えたのでした……