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些細な勘違い

「けほっ…けほっ…………? △×○ψд☆∀…?!」


陣を起動した時に発生した爆発の余波で、埃と煙が舞う空間の中から、咳き込みながらも

聞きなれない言葉を呟き、きょろきょろと辺りを確認している。


…何だ、この娘


混乱する心を抑えつつ、同じく混乱しているであろう相手を見る。


見慣れない服装だ。多少、埃がついて汚れてしまっているが、上質な布を使われているであろう事が

一目でわかる。シミひとつない白い肌も相まって、大貴族の令嬢だと公言しても、通用しそうである。


無造作に伸ばされた様な髪だが、癖も無く真っ直ぐに伸びて、余程念入りに手入れされていることがわかる。


平民という事はないだろう。着ている服は奇妙だが、そこらの町の住民では、到底扱えそうにない布を使っている。


異国に住む貴族―――その中でも、身分の高い位置にいるのではないだろうか?


だとしたら、これは国際問題にもなりうる。そこまで考えて、自分の顔から血の気が引いていく


ヤバイ、とてつもなくヤバイ…。


偶然見つけた魔方陣を、興味本位で発動させたらあなたの国の令嬢が出てきちゃった。ごめんね☆じゃ済まされない。


自分の心の中で警告をかき鳴らして、状況を解決するために思考に耽る。そして、思考に潜るのと、騒ぎを聞きつけた兵士達や、護衛件友人であるカルナ達が、見るも無残な有様になった、書庫の中に足を踏み入れたのは、全くの同時だった。



   ※ ※ ※



「姫!何処に行きましたか!?…ウィクトーリア!出てきなさい、もう!」


ちょっと目を離せば、霞のように消える姫―――ウィクトーリアの護衛件友人という名の苦労人のカルナは、思わず素で叫ぶ。


今回も、真面目にしていたかと思って、油断してしまった。


喉が渇いた。という可愛らしい声と、笑顔につい、つい騙されてた。


どこからどう見ても儚げな美姫としか見えないウィクトーリアだが、中身は例えるなら、暴走する馬車といった所だろうか。


好奇心旺盛で、自分が楽しいと思ったことには全力だが、興味のない事になると途端に駄目になる。


頭の回転も速く、今日のように静かにしていると油断させた隙に、脱走など数えるのも馬鹿らしいぐらいだ。


それでも、その笑顔に皆が騙されている。手に負えないとは、彼女の為に在る様な言葉だ。


辺りにいた、兵士やメイド等に姫を知らないか?と尋ねても皆が首を振るのみ。


こんな事で、その才能を惜しみなく発揮するのはどうなのだろうか……。


深い、深い疲れの混じった溜息を吐きながら、しらみ潰しに捜索していた時に、不意に爆発音と、建物全体の揺れを感じた。


「何、今の音は!?状況の確認を急げ!…そこの貴方、念の為に他の兵を集めてください。それ以外の兵は、私と一緒に来なさい。」


素早く周りの人間に指示を出し、音がした方向に駆け出す。またウィクトーリアが何かやらかしたのだろうと

いうのが、この音を聞いた者一同の見解だ。…妙なところで信用がある姫だ。


音がした位置は、あの埃臭い、人の出入りが少ない書庫だろう。


尻拭いをさせられる事は、既に確定している。キリキリと痛む頭を振り、問題児を捕獲することに全力を出す。


使用人達が行きかう廊下を走り続け、長い階段を飛び降りるような速度で駆け降り続ける。


目的地の前にたどり着き、怒りに燃える声で辺りに叫ぶ。


「ウィクトーリア!今度は、何をやったの!?後始末させられる身にもなりなさい!早く出てこないと、陛下達にご報告するわよ!」


ついてきた兵士達に、入り口を固めさせて逃げられないようにする。

そして、辺りを注意深く観察しながら、悲惨な状態にある書庫に入る。本棚は全て倒れ、倒れた拍子に砕かれた木片と

本があたり一面に散乱して、足の踏み場もない。


静かに、此処を掃除することになる自分達の未来に心の中で涙を流しつつ、入り口と反対側にある壁に開いた穴から

小柄な、癖のある金髪の少女が目に入る。


・・・何をやっているんだろう。あんな場所に穴など開いていただろうか?


部屋の全貌は、この位置では確認出来ない。かろうじて、ウィクトーリアの後姿しか見えない。


いつもなら、部屋に入った瞬間にこちらに気がついて逃げ出すはずのウィクトーリアも、こちらに気がつくことなく

俯いたまま思案している様だ。何か、様子がおかしい…?妙に焦っている気がする。身体も小刻みに震えている。


暫らく、様子を見る事にしてみよう。こんなに取り乱した様子を見るのは、本当に久しぶりだ。


どうやら、ウィクトーリア以外にも人がいる気配がする。

こんな場所で、何をやっているのか確認してからでも遅くはないだろう。


決して、焦ってるウィクトーリアが可愛くて、もっと見ていたいという事はない。多分。





  ※ ※ ※




「けほっ…けほっ…………?何、何がおこったの…?!」


わけがわからない。私は、何時もの様に学校から帰って、自室で寝ていた筈だ。


つい、うとうとしてしまったのは覚えている。だが、激しい浮遊感と光、爆発音が響き渡り、飛び起きた。


飛び起きたはいいが、宙を漂う埃と煙が襲い掛かってくる。自分の部屋にこんな埃だらけだったか…?


埃と煙の包囲網をやっとの思いで抜け出し、新鮮な空気を吸い込む。そして、閉じた瞳を開けた瞬間、視界に飛び込んできたのは


ぽかんと口を開けてこちらを除き見る、小柄な少女だった。


癖のある髪は腰元まで伸ばされ、まるで最高級の金糸を連想させる。


くりくりとした大きな瞳は、深い緑。私の行動を、全て見逃すまいと忙しなく動く姿は、小動物を連想させる。


小さい、少し高めの鼻筋、小さい形の良い薄紅色の唇が、キュっと真横に結ばれている。


着ている服は、上品な装飾が施された可愛らしいドレス。素人の私が見ても、高級なものだとわかる代物。


物静かな、儚げな印象を感じさせるその少女は、私が見つめると、ビクリとその身体を揺らした。


あれ、私何かしたのだろうか…?顔色がもの凄く悪い。顔面蒼白という言葉がぴったりだ。


パクパクと、金魚のように口を開けては閉じを繰り返している。


…大丈夫だろうか?この子。いきなり倒れてしまわないだろうか。


内心びびりまくりだが、健気に目の前の少女を怯えさせまいと、ニコリと笑いかける。


ビクッ


笑顔を向けると、何故か少女の身体が跳ねた。そして、一歩後ろに下がる。


「……………ッ!」


目尻には、大粒の涙が、今にも零れ落ちそうになっている。


不味い、不味いぞこれは。小さな女の子を泣かせる女子高生(笑)とか、最悪じゃないか。


敵意がないように笑顔を向け、少女に一歩近づく。


ビクリッ


私が一歩近づいたら、今度は2歩下がった女の子。更に焦りは募る。


私を見つめながら更に下がる。下がる。下がる。顔はもう、泣く一歩手前。涙に潤んだ上目遣いで私を警戒する。


「え、ちょ、ななな何で泣きそうなの!?ま、待って!逃げないで!そんな目で見ないで~!」


彼女は知らない。自分は人の良い笑顔を浮かべてると思い込んでいるが、びびりまくって引き攣った笑顔になっている事を。


その引き攣った笑顔は、持ち前の目つきの悪さと合わさり、絶対零度の微笑になっている事を。



「~~~~~~~~~~~ッ!~~~~ッ!?」



そして、その絶対零度の微笑を勘違いして、聞きなれない言葉を叫びながら逃げ出す少女。


更に、逃げ出した少女の事を、同じく聞きなれない言葉を叫びながら、いきなり物陰から飛び出し追いかける騎士のような格好をした少女。


取り残されたのは、何がおきたのかわからずぽかんと口を開けた目つきの悪い少女一人だけだった。











ここまで読んでくださって、ありがとうございます。

初投稿&初作品ということも相まって、緊張の連続です。

数人の方が、お気に入りに登録してくれて、もの凄く嬉しいです。本当に、ありがとうございます。

若干、脱字や文を修正しました

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