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【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する  作者: ariya


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3/9

2.

 離婚しよう。



 その文字が頭に出たのは父の葬儀だった。


 同時にその後押しとなったのは父がジュリアに残した事業であった。


 葬儀の後、兄に執務室へ呼ばれて見せられたのは父の事業であった。


 学者としての名が強い父には別の顔があった。広大な茶園を持つ、お茶の男爵という異名を持っていた。

 お茶を飲むと集中力が出るからと父はあらゆるお茶の開発に専念していた。そのうちいくつかがヒットして、資産を築いた。


 他にも南大陸の修道院の飲み物、コーヒーにも関心を抱き研究しながら試飲をしていた。


 そして父は密かに投資していた事業、コーヒーショップに力を入れていた。


 都市部の憩いの場、紳士たちのサロンとして経営し、それは人気を博して大成功に至った。


「俺はこういう商売は不向きでな。ジュリアの方が向いていると思った」


 生前、財産分与について何度か話し合っていた父と兄はジュリアに向いている資産を整備していった。


「お前がよければだが、もし興味がないなら代理をたてて運用してもいいと思う」


 資料を見る限り、なかなかの売り上げだ。税金に関してもしっかり管理されていて役所に睨まれる必要もない。


「ありがとう! 兄上。こんな素晴らしいものをいただいていいの? 後から寄越せと言っても知らないわよ」


 ジュリアの瞳が輝き出して兄は思わず笑った。

 妹のこんな表情を見たのは久々に感じた。


「さっきも言ったが、俺には向かない。茶園の管理だけでも手一杯だ」

「そうよね! 兄上には向かないわね!」


 ジュリアは興奮して父からの財産を抱きしめた。


 ジュリアには大した経歴はない。

 あるのはこの国の騎士、アガリア伯爵の妻という肩書きのみ。


 学者であった父から様々な知識を与えられても女子である故に学校には通えず、職歴もなかった。


 どうせ、アガリア伯爵夫人として生きていくしかない。それ以外の生き方もできない。アガリア伯爵がどんなに妻に興味を示さなくても我慢するしかない。


 陰で言われていた日々を、ぐるぐるに丸めてポイ捨てできるような爽快感だった。


 早速、父の事業を引き継いで働き始めた。

 元々伯爵家も最低限の仕事さえすれば、誰もジュリアに興味を示さない。


 実家から連れてきたメイドのニーナを伴い事業展開をする日々であった。ニーナもメイドの仕事をしながら大変だろうにジュリアの事業について必死に勉強してくれた。


 こうしてコーヒーショップ、サロン経営は多少の苦労はありながらもジュリアの資産を生み出してくれた。


 ジュリアの独り立ちの基盤に、離婚のための費用は5年で稼げた。


 8年の結婚生活をようやく終わらせた。


 馬車には荷物はほとんどない。

 最低限の着替えと日用雑貨くらい。それもジュリアが稼いだ金で手に入れたものだ。

 伯爵夫人として得たものは全てあの部屋に置き去りにした。

 使用人に配るなりなんなり自由にしろ。

 不要であれば買取処分してくれる店も案内済み、その金銭は全て伯爵家に置き去りにすると言った。


 馬車に揺られながらジュリアは涙ぐんだ。


「おめでとうございます。奥様……いえ、社長」


 ニーナは改めてジュリアに言った。


「ありがとう。あなたがいなかったら私はきっと病んでいたわ」


「まさか、社長ならその前に伯爵家を飛び出してましたよ」



 どちらにせよ、自分の道を切り開くとニーナは信じていた。

 この8年、不満があったのはニーナも同じである。

 少しでも証拠になればと1日1日日記を書き続けていた。


 ジュリアの伯爵夫人としても日々がいかに虚しいものだったか。


 裁判になれば提出予定だったが、その必要もなかった。


 馬車を乗り換えて、ジュリアは目的地へと進んだ。


 たどり着いたのは富裕層が暮らすアパルトマンが並ぶ通り。モーリス通り。


 ジュリアが第二の人生の為に用意した部屋があった。


 今日からここがジュリアの家だ。


 兄からは実家に帰ってきてもいいと言われていたが、新婚生活に水をさしたくない。


 私のことはいいから兄嫁を大事にしてください。


 そう手紙に書いて送ったのを思い出した。


 部屋の中はすでに整えられていて、ジュリアはお気に入りのソファに腰をかけた。


 ニーナはキッチンでコーヒー豆を挽いて、コーヒーをいれてくれる。


 酸味のある爽やかな香りがジュリアは好きだった。伯爵家ではコーヒーは男の飲み物という認識が強く、表だって飲むことはできずアロマで楽しむ程度に制限されていた。


 使用人からの評価など今になれば些細なことだったのに、何を怯えていたのやら。


 一口飲むと口に広がり、目が冴えていく。

 結婚する前は父とよく飲んで、詩集についての談義を交わしたものだ。


「私はこの香りは女性も楽しむべきだと思うわ」


 しかし、まだまだ世間の目は厳しいだろう。

 家のしがらみに縛られている女性、周りの認識を変えるには時間がかかる。


 それをジュリアは変えようとしていた。


 エリザベス学園。2年前に設立された貴族令嬢のための学園。そこには学問を求める淑女たちが通っている。


 学園前通りの一角の不動産物件を取り押さえることに成功し、ジュリアは淑女用の喫茶店を設立した。


 はじめからコーヒーを提供するのではなく、まずは香りから楽しんでもらう。


 令嬢たちが好むお茶とジュース、スイーツを提供していく。


 時々感じるコーヒーの香りに令嬢は興味を示していた。


 もう少ししてからコーヒーを利用したメニューを出す予定だ。


 メニューの試作品も口にしたがどれも美味しかった。きっと受け入れてもらえる。


 ダメだったら、また考えればいい。


 自分はまだ若い。自分の時間はいくらでもあるのだ。


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― 新着の感想 ―
お茶の子爵?男爵じゃなくてですか?
アフォガードとかなら男性にも女性にもウケるし、ついでに紅茶やコーヒーのリキュールを生み出すのも有りかと
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