《 7話 見える世界と、見えない世界 》
《 7話 見える世界と、見えない世界 》
恵が働いている本屋の正面にある花壇。
以前、花壇荒らしで騒ぎがあり、ネキリムシが犯人と、突き止めた多恵のお陰から、
季節ごとの花を、多恵に依頼することになった。
二人と妖精、三人?の話題はもっぱら、
ヤマトがこんなことした。
メグミとこんな事がつうじた。
二人の合図はこんなことにした。
「合ってる?」
”伝わってる?”
多恵をとおして、答え合わせになる。
すごーいだの、それいいだの……よくしゃべるなあ。
守は次の依頼を気にしながら、時計ばかりを見ている。
「じゃあ、そろそろ本の整理に戻るね。
後はよろしくお願いします」
守は無言で多恵に、腕時計を人差し指で、何度か叩いた。
「は~い」多恵も少し手を速めた。
恵は脚立にのって、高い場所に本を並べていた。
二階には文具用品と、漫画コーナーがある。
階段を上っていく、母と子が見えた。
「何が欲しい?」
なにか男の子が言っている。
「いいよー。買ってあげる」
「うわー嬉しい」
たわいもない、普通の会話。
恵は次の本を手に取り、棚に手を伸ばしたら、
「あっ!」
バランスを崩し、そして、スローモーションになった。
視界に入って来たのは、階段の上で、母と子が向かい合って立っている。
母親の口元がなにか囁いた。
微かに微笑んだ子供。
次の瞬間、母親は、突き飛ばし、男の子は転がり落ちていった。
恵も脚立と共に倒れ、はずみで跳ね上がった次には、
倒れている自分の姿を、見下ろしていた。
店内のあちらこちらから悲鳴が上がった。
”……あれ、私?”
”メグミ!メグミ!大変だ。どうしよう”
パタパタ、パタパタ。
あっち行ったり、こっち戻ったり、
キラキラした羽根が、ピンクの髪やワンピースを透かしている。
”……ヤマト?”
声に反応したヤマトが、勢いよく振り向き、メグミと叫ぶと、猛スピードで飛びついてきた。
”うわーヤマトだ!髪の毛までピンク!可愛いすぎる~”
二人は一緒にクルクル回っては、喜んだ。
”メグミ良かった!大丈夫だったんだね”
”大丈夫なのかなあ……私、抜けちゃったみたい”
倒れている恵を眺めた。
”ヤバ!ダイジョブじゃないよ”
”えっ、どうなるの?”
”魂が戻らなきゃ、死んじゃう”
そうか、抜けたって感じ……私、魂なんだ……。
とても軽くて、ふわふわして、空中に浮いてるし、ヤマトも見える。
肉体と魂の世界。
見える世界と見えない世界。
——こうして、重なってるんだ。
倒れてる自分の横で、多恵や守が必死に声を掛けている。
「あっ、男の子は?」
意識体となっている魂は、思った瞬間に、その場所へ移動した。
階段下に倒れている男の子の横で、母親が大声で泣いている。
店長が「今、救急車が来ますから、もう少しですよ」などと、声を掛けている。
「気の毒にねえ」
「目を離した隙に、ふざけて、階段、踏み外したみたいよ」
「子供はねえ、あるよねえ」
店内のお客さんの話声も聞こえる。
"違う……そんなんじゃない。
知ってるのは、私だけなんだ……どうしよう……"
"メグミ、早く肉体に戻らないと"
あ~そうだった。自分を意識したら、多恵が泣いているのが見えた。
救急車とパトカーのサイレンが近づいている。
多恵は妖精も見えるから、私の事も見えるんじゃないか、
多恵の正面に立ち、
”大事な事なの、聞いて”
全く気付かず、倒れてる私の名を、呼び続けている。
”心配してくれて、ありがとう……
でも、死んでないから、ちょっとこっち見て~”
勢いをつけて、多恵にぶつかっていった。
魂は、多恵の中に入り、すくっと、直立不動となった。
突然の変化に、守は驚き、
「ど、どうした?」
多恵を見ると、瞳孔が開いている。
「姉ちゃん、しっかりしろ、姉ちゃん」
肩に手を掛け揺らすと、硬直している。
”——何が起こってるんだよ”
救急隊が店内に到着し、入口近くの階段下に倒れている、男の子へ駆け寄った。
その後ろに柳の姿が見えた。
守は大声で、柳を呼んだ。
柳は倒れている恵を見つけ、救急隊を呼び寄せる。
「姉ちゃんが変なんだよ」
今にも泣きそうな守。
「えっ、多恵さん?」
柳が見たと同時に、多恵の身体は少し弓なりになり、その反動で、前かがみになった。
ヒューっと息を吸う音がした後、
ガバッと、柳に向き、
「あの母親、嘘ついてます!!」
真直ぐ力強いまなざしで、訴える多恵を見て、
柳は店長を呼び、監視カメラを確認しにいった。
「おい、大丈夫か?」
「うん。大丈夫」
恵が痛い、痛いと意識を取り戻した。
つづく




