《 5話 答え合わせ 》
《 5話 答え合わせ 》
「こんにちは。あがるよ」
自分の家のように、振舞う蓮子。
”えっ、そんな感じ”と、恵。
「よく、寄らせて貰ってるんですよ」と柳。
奥から多恵が走ってやって来ると、挨拶もそっちのけで、
恵の手を取り、「こっち、こっち」と部屋に連れて行った。
守が顔を出し、
「いきなり、そっちかよ」蓮子達に「こっち、どうぞ」と、
リビング兼事務所へ通す。
「うわー!パーティー」
「すごいですね。守さんが作ったんですか?」
照れながらも、まんざらでない守。
「昼休憩でしょ、先食べよう」
「チラシ寿司好きなんだよ、頂きます」
「いり卵は甘くするのが、うちの味なんだ」
「頂きます」とほうばると、美味しい!蓮子の目が大きくなった。
「僕はまず、そうめんを頂きます」
氷で冷やされていた麺は、秋口だというのにまだ暑い日に有難い。
「この喉ごし、たまらない」
「唐揚げもニンニクばっちり効かせてるよ。
この冷しゃぶもミョウガとシソ、ショウガの薬味たっぷりで食べて」
守は、二人の食べっぷりが何より嬉しかった。
”賑やかな食事はやっぱりいいなあ”
「守さん、本当に旨いです。店出せますよ」
「いいね、それ。夜も来る」
守も唐揚げを口に放り込み、麦茶を注ぐ。
「どんどん食べて」
コップを二人の前に置き、
「そう言えば、メグリンも同級生なんだって?」
ほっぺたがこれ以上ないほど、膨らんでる蓮子が、
「驚いたよ!通報受けて行ったら、これだもん」
粗方そうめんを食べ終え、肉系に手を動かしている柳が、
「多恵さん、慌ててますね。何か聞いてます?」
「妖精関係みたい」
少し笑って、
「俺には、全く分からないからさ」
「私も」
柳は麦茶をグイっと飲み干し、
「ご馳走様でした。おいしかったです。
俺、ちょっと見えるんで、行って来ます」
取り残された感の二人。
「ほあ、残すと、勿体ないだろう」
相変わらず目一杯、頬張る蓮子は、聞き取りにくい。
「お前なあ、姉ちゃんもメグリンも、これから食べるんだぞ」
そう言いながら、残ったそうめんを食べる。
”新しくゆでた方が良さそう”
蓮子がぼそりと、
「なんで、見えないんだろう……私も、見たい」
守も昔、同じように思った。
姉ちゃんがほらここ、ほらこっちって教えてくれるけど、
全く分からなかった。
でも、あるんだろう。
姉ちゃんの目の先に、何かあることは感じる。
「蓮子、UFO見たことある?」
「無いよ」
「そういうことだ」
「ムズイ。食べる」
「おう。」
多恵がメグリンの手を引き、
「さあ、開けますよ」
多恵の部屋らしいドアノブを押し開いた。
正面は一面窓で、庭に降りていける。
光が差し込みとても明るく、部屋中に置いてある植物で、
緑色に染まっているようだ。
「きれい」
思わず恵は声が出た。
「どう?こっちは?どう?」
多恵が手のひらをあっちに向けたり、こっちへ向けたり、
「……」
やけに目がキラキラしている多恵が、
「そうだよね、どっちか分からないよね。
それでは、こちらが、トキです」
チリン
音の方に手を向けながら、
「そして、こちらが、ヤマトです」
チリリン
「ヤマト?」
「えっ、見える?見えるの?そうだよ、ヤマトだよ。
良かった~。見えなかったら、どうしようかと思った」
一斉に鈴の音が鳴り響いた。
逃げ場がない、という感覚だけが、先に来た。
恵は怖くて耳を押さえしゃがみ込んだ。
「メグリンどうしたの?」
「やだ!なにこれ、怖いんだけど」
シャラン~。
ヤマトは嬉しくって、飛び回り、一斉に鈴を鳴らしていた。
”また、怖がらせちゃった”
トキは、ヤマトに寄り添いながら、
”タエも落ち着いて、ゆっくり、説明してあげて。
メグリン、見えてないよ”
トキに言われて、多恵も大きく深呼吸した。
不安そうなメグリンを一旦座らせ、
「怖がらせちゃってごめんなさい。葉に鈴をつけてたから、鳴ったの」
あちらこちらの葉に、小さい鈴がつけられていた。
「本当だ……」なんのために?って目が言っていた。
「この前、会ったの」
「あっ、お店の花壇の件、ありがとうございました。
あの後、検索しました。まさにネキリソウでしたね」
「じゃなくて、ヤマト。あなたのヤマト」
「言ってる事が、良く分からない……んですけど」
シャラ。
”ほら、タエ。順番に”
「そうだ、そうだね……」
胸に手を当て、目を閉じ、静かに息を整える。
真っ直ぐに恵を見つめ、
「順番に言いますね。まず、卒業式で先生から種貰いましたよね。
私の種は、トルコ桔梗の花が咲き、名前をトキとつけ、大切にしました。
花が終わると種を採り、また花が咲きました。
その頃です。トキが、現れたんです。
妖精のトキが」
「妖精?」
「先日会った時、すぐに私は思い出せなかった。メグリンだよっと、教えてくれたのは、
あなたのヤマトです。
あなたが種から花を咲かせ、撫子にヤマトと名前を付けた。ヤマトが教えてくれたんです」
「ちょっと待って……」
シャラン、シャラン
多恵は上の方を見て、頷いている。
「メグリン、これ見て」
多恵の前髪が少し束になって飛び出した。
「同じような経験あるでしょ。窓に映った自分を見て、凄く驚いちゃったって」
また、視線を上げて、話を聞いているようだ。
「あまりにも恵が怖がるから、しばらく出るの辞めたって。
それで、就職もして大人になったから、久しぶりに会いに行ったら、
嬉しくってめぐみ~って、匂いを沢山出して、はしゃぎすぎて、
え~そんなことあるの……フフフ。
ごめんね、笑っちゃいけないよね。
鼻の近くで振りまいてたら、羽根が鼻に吸い込まれて、動けなくなった。
恵は息が吸えなくってパニックになり、結局移動になり今ここにいる」
「どうしてそんなことまで知ってるの……」
「ヤマトが教えてくれるからだよ。あなたを怖がらせたいんじゃない。
あなたと喜び合いたいだけ」
「だって私は……悪霊に取りつかれてるとか、変人扱いされて……」
「ほら、見てて。ヤマト、ここの葉を鳴らして」
チリン
「ヤマトはとってもチャーミング。ピンクに白い模様が入ってる妖精。
きゃぴきゃぴしてる感じ」
「悪い霊とか、嫌がらせされてたんじゃないの?」
「そんな事ないよ!ヤマトは近くで感じてほしいだけ。
どうして見えないの。感じてくれないのって」
多恵はテーブルに肘を載せ、てのひらを眺めながら、
「ほら、人懐っこい……あなたは見えないから、怖かったよね」
手のひらを、ほんの少し動かした。合図のように。
「それで、相談されたの。私、この前、ヤマトに会って、
あなたと仲良くしたい。怖がらないで、私の事、分かってほしいって」
これまで怖かったこと、一つずつ確認していった。
髪を持ち上げる、音を鳴らす、匂いを出す、鉛筆を落とす。
「全部……だ」
点と点が、一本の線になった気がした。
「私、一人じゃなかったんだね」
恵は胸がキューっと温かくなって、涙が溢れた。
「……髪の毛、触られてる感じがする」
「そうだよ!ヤマトが泣いていいよ。よしよしって」
「あは、は」笑うのと声を上げて泣くのが一緒になった。
シャラ~ン。
”カチカチがユルユルだ。タエも良々”
髪を撫でてくれたトキ。
「ありがとう」
ノックが鳴り
「入りますよ」と柳がドアを開けた。
「こりゃ、たまげた」
チリン チリン
”うわーこの人も見えるの!凄い。凄い。
私、ヤマトです。よろしくね」
顔を近づけて、
「柳です。よろしく」
”うわーイケメ~ン”
クルクル チリンチリン
「柳さんも見えるんですか?」
「僕はね、この部屋だと見えるんです」
「解説しますね。今、ヤマトは柳さんが見える事と、
イケメンだと言う事に、テンションが上がっています」
「それで、チリンチリン鳴ってるの?」
「そうです。飛び回っています」
「分かりやすい」
言ってから、恵は、噴き出した。
部屋は笑いに包まれ、キラキラと金粉が舞っていた。
「おーい、入るぞ」
ドアがあくと、守と蓮子がやってきた。
「楽しそうだけど、休憩終わり、行くよ」
「じゃあまたね。トキちゃん、ヤマトちゃん」
「さあ、奴らは勤務に戻ったし、乾杯でもするか」
「いいねえ。メグリン、お酒大丈夫?」
「今日は頂きますよ!」
「そう来なくっちゃ。最初はビールだな」
つづく




