《4話 見えざるもの》
《4話 見えざるもの》
「可愛い~!!あなたどうしてここにいるの?」
多恵の声が弾んだ。
とき以外の妖精に初めて会って、興奮状態。
シャラシャラ、シャラシャラ。
ふんわりツインテールのピンクの髪が、忙しく揺れている。
ハッピーを連呼する、落ち着きのないヤマトも、嬉しさを抑えきれない。
ときの鈴の音より、随分軽い感じがする。
「恵が種を植えてくれたの!」
「え~あなたも!!」
多恵は驚きと感動で、身振り手振りがやけに大きくなっていた。
蓮子は少し離れた場所から、多恵を見ていた。
「ダンス?パントマイム?」
何やら一人で演技をしているようだ。
人前でそんなことも、できるようになったんだな。
「蓮子さん終わりましたよ。どうしました?」
「あれ見てよ。多恵も随分変わったなあと思ってさ」
妖精が見えない三人は、挙動不審の多恵を離れて見ていた。
すると多恵が走ってこちらに向かってくる。
……が、小走りのおばさんにあっさり追い抜かれた。
「まさしく、どん亀」
息を切らしながら、多恵は「メグリン」と呼んだ。
恵は子供の頃のあだ名を呼ばれて、胸がきゅんとした。
忘れていた撫子の、ほのかな香りも思い出した。
「今度、家に来て下さい。次の休みいつですか?」
「えっ、明日だけど、どうして?」
「明日ですね。必ず来てください。
どうしても、見てもらいたいものがあります。
絶対、来てくださいね。それでは」
多恵は言うだけ言うと、物凄い勢いで帰って行った。
「なんだ、あれ?」
あっけにとられた蓮子に、恵は多恵を指差しながら、
「行っちゃった……家知らないんですけど……」
ニヤリとした蓮子は「OK。一緒に行こう」
柳もすかさず。
「了解!」
凄い勢いで帰ってくるなり、
「守、明日、メグリンがくるから」
書類に向かいながら「あっそう」
多恵はその勢いのまま、自分の部屋に入っていった。
丁度メールが守に届いた。蓮子だ。
「明日、11時 香山恵さんと同行する」
「業務連絡かよ」
って事は、柳さんも一緒だな。
守は部屋にいる多恵に聞こえるように、
「明日、11時に来るってよ。俺買い物行ってくるから」
シャラ、シャラ~ン。
「とき~どうすればいいかなあ」
多恵は、胸の奥にわくわくと、
不安が入り交ざって、うまく言葉にできなかった。
「慌てないで、最初から話して」
ときの言葉に、多恵は落ち着きを戻し、順を追った。
「え~!!妖精に会ったの。どんな?どんな?」
シャラシャラ、ぐるぐる、飛び回って、
今度はときが、興奮状態。
「落ち着いて~、とき。気持ちは分かるよ」
質問攻めにあいながらも、
明日ここで、メグリンの誤解を解き、
ヤマトと繋がれるようにするには、までたどり着いた。
「柳もここでなら、私の事見れたしね。
なんとかなるよ」
ときも疲れたのか、大きい葉のストレリチア・オーガスタに座っている。
そんな、ときを眺めて疑問が出た。
「どうしてときは、部屋だけなの?」
「外、臭いモン」
「臭い?」
「石油の匂い、プンプン。あれ嫌い」
多恵は妖精にも個性があるんだ、と感じた。
葉で休んでいた、ときが、”あれ”と手元に降りてきた。
傷を見て、ときが一瞬黙る。
「今年、多くない?」
手を摩りながら、
「そうなんだよね……いつもより剪定早いし、注文増えてる。
今年、害虫が大量発生して、蛾の仲間なんだけど、
大変だったから、早目にやりたいって……でも、
凄いんだよ。葉や枝の奥にも卵がびっしり」
──木が弱ってる──
「来年も実を付けてくれると、いいんだけどね……」
「何かが、かみ合ってないんだね」
シャラ~ン。ときは飛び上がった。
「何それ?」
シャランシャラン。
「さあ、終わり」
ときはどこかに消えて行った。
「もっと聞きたかったのに」
多恵は手の傷を見ながら、
「かみ合ってない、か」と、つぶやいた。
つづく




