《2話 ヤマトの想い》
2話 《ヤマトの想い》
「あなたの名前は、ヤマトね」
恵の声がふわりと響き、その温かさが胸いっぱいに広がる。
(うれしいなぁ……)
そのポカポカが芽になり、
やがて“ヤマト”は生まれた。
ピンクの髪、ピンクの羽根。
花びらのようなワンピースをまとった、
いつもスキップをしているような妖精。
“恵、一緒にたくさん笑おうね。シャラ、シャラ~”
恵が学校から帰る時間になると、
ヤマトは団地の階段の入り口で待ち、一緒に上がる。
(また鈴の音だ……やだ)
恵は一段飛ばしで階段を駆け上がる。
“よーし、競争だ~!”
シャララ~ン!
ヤマトも負けずに追いかける。
けれど恵にはその姿が見えない。
ヤマトは何とか気付いてほしくて、できることを試す。
“そうだ、音はどうかな? シャラン、シャラン”
鉛筆を落としてみたり、
“私はここよ~”と耳元に息を吹きかけたり。
そのうち、恵はスマホの通知音にさえ驚くようになってしまった。
ヤマトの胸に、締め付けられるような歯がゆさが生まれる。
“じゃあ……触ってみよう。シャラ、シャラ”
「ウギャー!? なに!? キモッ……怖い~!」
そのたびに両親に怒られ、
部屋の空気はどんどん重くなってゆく。
“恵を怖がらせたくて、ここにいるんじゃないのに……”
ヤマトの香りは薄れ、姿を消した。
やがて恵も落ち着きを取り戻し、
無事に大学を卒業して、本屋へ就職した。
穏やかな毎日。
ヤマトがいないことに、気づくこともなく。
***
“シャラ~ン……。恵も大人になったし、そろそろ大丈夫かな”
ヤマトが戻ってきた。
――相変わらず張り切りすぎている。
“今日は花の香りも届けちゃお~。シャラ~ン♪”
だが、近づきすぎた。
”あっ、やば……羽根が鼻の穴に吸い込まれた!”
甘い香りが漂ったと思った瞬間、
恵は息ができなくなった。
「ギャーー!!」
接客中だったため、お客様のすぐ目の前に、
目をひんむいた恵の、どアップの顔が迫った。
「ギャーー!!」
お客様は腰を抜かし、その拍子に手首を捻挫。
店内は一気にパニックへ。
「どうしました!」と店長が飛んできて、
「痛い痛い!」とお客様は涙目。
店長が救急車を呼びながら怒鳴る。
「香山! 何があったんだ!」
その結果――
恵は、新しくできた地方店舗へ転勤することになった。
つづく




