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《第1話 信じざる者》

香山恵かやま・めぐみは卒業式後、担任からお祝いで貰った種を母親に見せた。


「お母さん、この種なあに?」


「分かるわけないでしょ。先生も何の種かくらい書いてくれればいいのに。面倒な物くれたねぇ」


母は私のために休んだ会社へ電話を掛けている。

恵はこれ以上聞いても、怒られるだけだと分かっているので、

ゴミ箱にある、椎茸が入っていた容器を取り出し、

シャベルを持って、団地の階段を降りると、花壇がある。

恵はその土を容器に入れ、種を植えた。


「どんな花が咲くんだろう」


夏休みに植えた朝顔が咲いた時も嬉しかった。

恵は、自分の机にその容器を置いた。


小さい芽が出てきたと思ったら、グンと大きくなり、丈夫そうな葉が伸び、

先端にヒゲに似たひょろっとしたものが出て来て、

ぽっと塊の中に沢山のつぼみができた。

紫のつぼみが開くと、薄いピンクや、ショッキングピンクの花が咲いた。


(うわ〜可愛い!)恵はとても嬉しくなった。


「お母さん、これなんて花?」

「あっ、咲いたんだ。これは、撫子かな。花壇で見るよ」


恵も、花壇に植え替えた。


「ほら、これで広くなったよ。もっと大きくなっても大丈夫。

撫子なら、大和撫子だよね。あなたの名前はヤマトね!」


花はふんわり揺れた。


「おはよう、ヤマト、行って来まーす」

通るたび、少ししゃがんで声を掛けてくれた。


でも、花が枯れると、恵はすっかり忘れてしまったが、撫子は自生して次の花を咲かせた。


そんな頃、恵に変わった事が起きる様になった。

シャラ〜ン、シャンシャン。鈴の音。

(鈴の音?……どこかの小学生かな)恵は読んでいた小説に目を戻した。


急に、ガラッと開いた襖。母が立っている。


「やっぱり! 本ばっかり読んでないで、勉強しなさい。もうすぐテストでしょ」

全くしょうがないんだから、と言いながら襖を閉めた。


(テストか〜。緊張するな……)


頬を生暖かいものが触れた気がした。

えっ、何? 顔をあげると、窓に映った驚いている自分の顔。

そして、細く束になった髪がふわりと浮いているのを見た。


「ギャー!」


恵は襖を勢いよく開け、転がるように居間にいる母に抱きついた。


「びっくりした〜。何よ、怖い本でも読んでたの?」

「か、か、髪が……」恵は指で毛を持ち上げ、「こう、浮いてた」


ある時は、団地の階段を上っていると──

──シャラ〜ン。

(えっ、鈴の音?)

この音が聞こえると嫌なことが多い。三階の家まで駆けあがることにした。


シャンシャンシャンシャンシャン──

一緒に上がってくるではないですか。


「ギャー!」

「鍵、鍵、こわいよ、鍵!」


家に入ると、ドアをものすごい勢いで閉めたので、残響が団地中に残った。


また、寝ていると遠くから鈴の音がする。

音は近づいたり遠ざかったりして、夢の中へ誘うようだ。

いい匂いがしてきて、甘い香りに包まれた瞬間、鼻を塞がれたようになり息ができない。

耳元で聞こえる鈴の音。


「ギャー!」


襖を開け電気をつける母。

「もう、いい加減にしてよ。こっちまでおかしくなる」

「恵! 大きい声を出すんじゃない!」父の大きな声がまた怖い。


「近所からも苦情が来てるんだよ!」

「病院で診てもらうか、お祓いでもしてもらえ!」


お祓いって……悪霊ってこと? 私が変なの……?


「本ばっかり読んでないで、友達でも作りなさい」


ぴしゃりと襖が閉められた。怖いよ、どうして分かってくれないの……。

かすかに甘い香りが残っている。


恵は唇を噛んだ。

それからはもう、何も言わなくなった。

ページをめくるたび、鈴の音が遠ざかっていく、本は前にも増して手放せなくなった。


変人扱いされないよう、恐怖を表に出さず、ぐっと心に押さえ込む癖をつけた。

すると、怪奇現象は無くなった。


つづく

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