第96話 悪いことは基本的にしてはいけません!
「こ、これは……!?」
少し遅れてシャオメイに追いついたルッタは、彼女の目の前に積み上がる経験値と化した男たちの山を見て驚愕する。
「もしや……シャオメイがやったのですか……?!」
呆然と立ち尽くしているシャオメイの元へ駆け寄り、そう問いかけるルッタ。すると彼女は何も言わずにこくりと頷いた。
「いけませんよ! 敵キャラならともかく、見ず知らずの中立っぽいモブキャラを経験値にするなんて……!」
ルッタは体をぷるぷると震わせながら叫ぶ。
「――あまりにも効率が悪すぎますっ!」
どうやら、義憤に駆られていたわけではなかったらしい。
「そんなことをしたら、無駄にカルマ値が溜まってしまいますよ!」
彼はシャオメイに対してそんな忠告をした。
――アルティマ・ファンタジアには、カルマ値の概念が存在している。
これはプレイヤーが悪行をすることで溜まっていく罪の値であり、フィールド上に出現する商人や冒険者などの中立NPCを攻撃すると上昇してしまう厄介なものなのだ。
一応は溜めることによるメリットも存在するのだが、味方キャラの被ダメージが増えたり、クリティカルをもらいやすくなったり、バッドエンドのフラグが立ったりとデメリットの方が大きいので、基本的には低い方が良い。
そのため、明確な意図がない限りは中立NPCを攻撃するのは避けておいた方が無難なのである。
「中立NPCを狙うなら、せめて倒した時のメリットが大きい相手にするべきです! ノルヴァインの雪原にランダムで現れる冒険者――戦乙女のミネルバがおすすめですよ!」
もちろん、経験値やドロップアイテム狙いでプレイヤーから狩られる可哀想な中立NPCも存在している。
ちなみに、友好的なNPCは倒しても好感度が下がるだけであり、カルマ値に影響はない。そのため、アイテムのプレゼント等によってあえて好感度を上げてから倒すという手法も存在している。
アルティマ・ファンタジアにおけるカルマ値は、色々と抜け穴の多い恐るべきシステムなのだ。
「とにかく、こんな非効率な稼ぎ方はしない方がいいです! 師匠の教えを忘れてしまったのですか?!」
少なくとも、師匠は効率よく経験値を稼ぐ方法など一切教えていない。
挙げ句の果てに、ルッタはとあることに気づいてしまう。
「……おや? よく見たら、倒れているのは幻夢流の門下生ではありませんか。山の中ではエンカウントしないはずなので分かりませんでした!」
シャオメイが倒していたのは、原作にも登場する敵の雑魚キャラだったのである。
「僕としたことが、とんでもない思い違いをしていたみたいです! 敵キャラを経験値にするのは当然のことですよね! ごめんなさい、シャオメイ!」
言いながら、ルッタはぺこりと頭を下げた。
(でも、どうしてこんな場所に幻夢流の門下生が……?)
そして、心の中でそんな疑問を抱いた次の瞬間――
「ルッタぁ……ぐすっ、うええええん……っ!」
振り返ったシャオメイが、大声で泣き始めてしまったのである。
「あ、あわわ……! 謝っただけでは許されなかったみたいです……!」
自身の勘違いが原因であると考え、慌てふためくルッタ。
「これぇ……っ!」
「おや?」
しかしよく見てみると、彼女の手にはボロボロになった花の髪飾りが握られていた。先ほど買って装備したばかりなのに、酷い破壊のされ方である。
「なるほど。戦闘中に部位破壊されてしまったのですね。そんなシステムが追加されて……驚きです!」
「ルッタが……ルッタがくれたのにぃ……っ!」
「――泣かないでくださいシャオメイ」
言いながら、ルッタは花の髪飾りに手をかざす。
「修繕」
彼が魔法を唱えると、髪飾りはみるみるうちに元通りとなった。
「えぇ…………っ!」
あまりにも突然のことに、言葉を失うシャオメイ。つい先ほどまで涙で潤んでいたその瞳は、キラキラとした輝きを取り戻している。
「ふむ、原作にない魔法だったので試しに習得してみたのですが……こういう場面で使えば良かったのですね!」
ルッタは元通りになった防具を眺めながら、満足げに頷いた。
「ルッタぁっ!」
「うぐっ」
その時、元気を取り戻したシャオメイが勢いよくルッタに飛びついた。
「ルッタすごいネっ! 大好きネっ!」
彼女は全力で頬擦りする。ぷにぷにとした弾力のある頬っぺた同士がぶつかり合い、非常にむにむにしていた。
「く、苦しい……です……!」
「こんなことができるなんて……ルッタは神様みたいネっ!」
「僕は神様ではありません……!」
ゲーム・ピコピコ教の主神である。
(シャオメイ、許婚がいたって気にしないっ! 例え相手が王女様だったとしても……子供同士の口約束なんて意味ないネっ!)
彼女は何度も何度もルッタに頬を押し当てながら、静かに心を燃え上がらせていた。
――かくして、ルッタに許婚がいたことで始まった二人の痴話喧嘩(?)は一応の終息を見せたのである。
しかし、道場の方では更なる重大事件が発生していた。




