第95話 シャオメイがとても大変です!
ルッタは何故か放心状態となってしまったシャオメイの手を引っ張り、帰り道を進んでいた。
「ちょうちょ……ちょうちょがいっぱい、とんでるネ……!」
「そんなものは見当たりませんが……」
周囲を見回しながら、不思議そうに呟くルッタ。
「ことりさんもいるヨ……! みんな仲よく飛んでるネ……!」
「蝶々が獲物として狙われているだけではありませんか?」
どうやら、今のシャオメイの視界には色々と見えてはいけないものが写っているようだ。
「……とにかく、気を確かに持ってください! 一体何があったというのですか?!」
「いいなずけ……せいりゃくけっこん……」
うわごとのように答えるシャオメイ。
それを聞いたルッタは、ハッとした様子で言った。
「そういえば、イーリス王女の話をしてから様子が変です! もしや、二人の間には何か因縁があるのですか?! 原作にはない裏設定というやつですね!」
当たらずとも遠からずといったところである。彼にしては鋭い指摘であった。これも修行の成果なのかもしれない。
「ルッタ……ひどいネ……っ! シャオメイのこと……もてあそんでたカ……!」
一方、シャオメイは目を潤ませながら問いかける。
「……よく分かりませんが、ゲームは楽しんで遊ぶものだと思います!」
あまりにも適当すぎる返事だったが、会話が噛み合っていないのはいつものことであった。
「やっぱり、やっぱり遊びだったネ……っ! ぐすっ、えっぐ……うえええええんっ!」
乙女心を深く傷つけられ滅茶苦茶にされたシャオメイは、とうとう道の途中に座り込んで泣き出してしまう。
「一体どうしてしまったのですか?! どこか痛いのですか?! 治癒魔法が必要ですか?!」
師範から人を思いやる心を学んだルッタは、横から彼女の顔を覗き込みながら様々な質問を投げかけた。
他者を思いやるという師範の教えの実践である。
「ルッタが……ルッタが悪いネっ! うええええええんっ!」
「うーん……僕が原因なのですか……」
しかし、彼女から返ってきたのは予想だにしない答えであった。
(どうやら……僕が原因でイベントが先に進まなくなってしまったみたいです。何か回収し忘れているフラグがあるのでしょうか……?)
どちらかといえばフラグを回収した結果としてこうなっているのだが、それは本人の知るところではない。
(これは……詰みというやつですね!)
どうやら、彼はおつかいクエストで詰まされてしまったらしい。
「ぐすっ……ルッタは、それでいいのカ?」
やがて、シャオメイは涙でぐちょぐちょになった顔を上げて言った。
「ずっとこのままは嫌です。どうにかなりませんか?」
即答するルッタ。もちろん、イベント進行のことを言っている。
「だったらどうして……っ! 何も言わずに受け入れてるカ……っ!」
そしておそらく、シャオメイは王女との政略結婚の話をしていた。
「ですが……こうなってしまうと、僕にできることはなさそうです!」
「それが嫌だからっ! ルッタは家出してこんなトコに来たんじゃないのカっ?!」
「……? それは関係のない話だと思います」
その言葉を聞いたシャオメイは、目を大きな見開く。
「…………っ! ルッタのことなんか……もう知らないネーーーーーーっ!」
そして泣きながら走り去ってしまったのである。
その場に取り残されたルッタは、遠ざかっていく失恋少女の背中を見送りながらこう呟く。
「……良かった。ちゃんとイベント進行はしているみたいですね!」
そして、嬉々とした表情で彼女の後を追いかけていくのだった。
*
「ルッタの……ばかーーーーっ!」
言いながら、全力疾走で道場へと続く山道を駆け抜けていくシャオメイ。
――しかしその時。
「おっと」
「ぐえっ!」
道の途中に立っていた何者かにぶつかり、弾き飛ばされてしまう。
「い、いたた……」
彼女が顔を上げると、そこには見知らぬ拳法着を身にまとった三人組の男が居た。
「……ほう、貴様も真元流の門下生か?」
そのうちの一人――シャオメイがぶつかった男が前に歩み出て問いかける。
彼らは、最近町にできた幻夢流という流派を教える道場の門下生であった。
「まさか、こんなガキばかり弟子にしているとはなァ……!」
彼らはそう言って、シャオメイに対し侮蔑の表情を向ける。
「前を見てなかったシャオメイも悪いけど……人にぶつかったら謝るべき思うネ!」
彼女はムッとした表情で言った。先ほどから踏んだり蹴ったりである。
「謝るべきなのは貴様だけだろう、小娘」
言いながら、花の髪飾りを見せつける男。
「あ……!」
どうやら、ぶつかった拍子に取られてしまったらしい。
「武術を学ぶ者がこんな花など付けおって……」
「時代錯誤ネっ!」
「真元流は随分と軟弱な鍛え方をしているようだなァ?」
「は、早く返すネっ! それはルッタが――」
「フン!」
シャオメイの言葉を無視し、躊躇なく髪飾りを地面へ叩きつけ、踏み躙る男。
「あ……ああぁっ!」
シャオメイは悲痛な叫び声を上げる。
「ふははははははははっ!」
一方、男たちはその様子を見て高笑いした。あまりにも大人げない所業である。
「そんな……っ! シャオメイの……宝物……っ!」
髪飾りを踏み躙られたことで未練が断ち切られる――ということはなく、ルッタに対する情がまだ残っていたシャオメイは悲嘆に暮れる。
「なんだ? そんなに大切なものだったのか?」
「ひうっ……うぇぇ……っ……!」
「それなら、取られないように気をつけるべきだったなァ?」
「う、うわああああああああッ!」
叫びながら拳を振り上げ、男たちに向かっていくシャオメイ。
「なんだ? 俺たちに歯向かう気か? ――いいだろう、貴様に武術の真髄を教えてやるッ!」
――数秒後、そこにはシャオメイによって武術の真髄を教えられ、血祭りに上げられた男たちの姿があった。




