第94話 シャオメイに告白します!
ハクラン山を下り、同じ名前を持つ麓の町――ハクランへとやって来たシャオメイとルッタ。
二人はおつかいクエストを済ませるため、早速にぎやかな市場の通りへと足を踏み入れる。
「おお、まるでお祭りみたいですね!」
活気ある市場を目の当たりにし、歓声を上げるルッタ。
通りには屋台の煙や香辛料の匂いが立ち込め、人々の活気ある声が飛び交っている。山中の静けさとはまるで正反対であった。
「ここは毎日こんな感じヨ! 人が多いから、師匠からもらったお金を盗まれないように気をつけるネ!」
「なるほど。一定確率で窃盗イベントが発生してしまうのですね! 気を付けます!」
「あと、はぐれないようにちゃんとシャオメイに付いてくるネ!」
彼女はそう言って再びルッタの手を取ると、軽やかな足取りで人混みの中を進んでいく。
(原作よりも人が多すぎます! 処理落ちしてしまわないのでしょうか……!?)
ルッタは周囲をきょろきょろと観察しながら、そんなことを考えていた。
やがて、食材等を売っているお目当ての屋台へと辿り着き、食材を吟味し始めるシャオメイ。
「ええと、師匠が言ってたのは肉と山菜と……それから――」
「……おや?」
そんな彼女の隣で、ルッタはあるものを発見した。
かごに分けられ、ずらりと並んだ様々な野菜や果物の中に、見覚えのある赤いキノコが山積みになっていたのである。
「これは……ハッスルーム!」
思わず叫ぶルッタ。
「ドーピングアイテムがこんなに沢山お店に売られているなんて……一体何が起こっているのですか?!」
予想外の出会いに驚きを隠せない様子である。
「ん? ルッタはキノコが好きなのカ? そのキノコ、確かほどよい辛みがあるから味付けに使うと美味しいらしいネ!」
胸を張って自信満々に答えるシャオメイ。彼女は料理ができないので、知識は全て師匠やロウスーからの受け売りである。
「いくつか買っておくカ?」
「……いいえ」
そんな彼女の問いかけに対し、ルッタは小さく首を振った。
「ハッスルームなら、僕も一口サイズのものを持っているので大丈夫です! 欲しくなったらいつでも言ってくださいね!」
――なお、近頃ユウレンに流通しつつあるハッスルームは、全てアルルネ印の品である。ルッタに敗れて精霊石と尊厳を奪われ、過酷な洗脳の果てにゲーム・ピコピコ教団へ入信したアルルネ。
教団の後ろ盾を得た彼女は、いつの間にやらキノコ農場の経営主として成功を収め、全世界にドーピングアイテムを流通させる存在となったのである。
ちなみに、ユウレンでは特にハッスルームが好まれているようだ。
「……ルッタ。どこにキノコなんか隠し持ってるカ?」
訝し気な表情をしながら首をかしげるシャオメイ。
「マジックポーチの中です! これは見かけよりもずっと沢山のアイテムを収納できる優れものなのですよ!」
対して、ルッタは身につけていたマジックポーチを見せながらそう答えた。
「それ、シャオメイも欲しいネ。どこでどこで売ってるカ?」
「うーん……今のところ、世界に一つしかないので買えませんね。ですが沢山あった方が便利なのは事実ですから、バグで増殖できないか調べてみます!」
「よく分からないけど、お願いするヨ」
そんな他愛のないやり取りをしながら、二人は必要な食材を買い集めていくのだった。
「これ、本当にいくらでも入るネ……!」
「魔法の力です! たぶん!」
買ったものを全てマジックポーチに収め、そろそろ帰ろうかという時。
――シャオメイは、たまたま通りがかった雑貨屋の前でぴたりと足を止めた。
「どうかしましたか?」
ルッタもそれにならって立ち止まり、彼女の視線の先を辿る。すると、店先に飾られた赤い花の髪飾りが目に付いた。
「なるほど、シャオメイはこの装備品が欲しいのですね!」
「えっ、そ、それは、その……」
突然そう言われ、顔をほんのりと赤らめて言葉を濁すシャオメイ。
「確か、この髪飾りは装備することで守備力だけでなく、攻撃力と素早さまで底上げされるのでシャオメイにぴったりだと思います! この町で買えるものの中だと最強装備ですね!」
「ルッタ……!」
――『シャオメイにぴったりだと思います!』という部分だけが彼女の耳に届き、感激で目を潤ませる。
あまりにも純粋すぎる褒め言葉に、どきりと胸が高鳴った。
「師匠の言った通りお金が余ったので、これを買っていきましょう!」
「ずっと……ずっと大切にするネ……っ!」
「もっと強い装備が見つかったら変えてください」
ルッタのあまりにも無情すぎる助言は、今のシャオメイの耳には届かない。
彼女はルッタが購入した髪飾りを両手で受け取り、それを胸の前で嬉しそうにぎゅっと抱きしめた。
「ルッタがくれた……シャオメイだけの……宝物……!」
「僕ではなく師匠のお金なので、実際は師匠からの――」
「さっそく付けてみるネ……っ!」
言いながら、彼女は髪飾りを頭へと装備する。
「に、似合ってる……カ?」
頬を赤く染め、恥ずかしそうにしながら問いかけるシャオメイ。
「はい! とても似合っていますよ! そもそも、原作のシャオメイは元から頭に花飾りをつけていますからね!」
「そ、そうカ……!」
その言葉を噛みしめ、しばらくの間指先をもじもじと動かすシャオメイ。
やがて彼女は意を決した様子で顔を上げ、ゆっくりと口を開いた。
「ルッタ……ひとつ、聞きたいことがあるネ」
「なんでしょうか?」
「その……ルッタには……好きな人とか、いる、カ……?」
「もちろんみんな大好きですよ!」
ルッタはそう答えた。彼が言う『みんな』とは、この世界に生きる全ての経験値――もとい、キャラクターたちのことである。
「そ、そうじゃなくって、その……恋人とか……そういう感じの関係になりたい女の子……いないのカ……?」
「恋人……?」
完全に告白待ちであった。髪飾りまでプレゼントされたので、間違いなく相思相愛であると彼女は確信している。
「――というか、イーリス王女という許婚がいます!」
しかし、現実はあまりにも残酷であった。
「えっ」
衝撃的すぎる告白に、シャオメイの理解が追いついていない。
「い、いいな……ずけ……?」
「許婚というのは、本人の意思に関わらず将来結婚することが約束された相手のことを言います! アルルー家としては、権力目当てのせいりゃくけっこん! ということになりますね!」
――その瞬間、シャオメイの淡い恋心は儚くも砕け散るのだった。




