第91話 選択肢が狭すぎます!
「おお、やっぱりシャオメイも混ざりたくなったのか! 素直じゃないやつめ!」
「うるさいネ」
シャオメイは兄の言葉を一蹴した後、ゆっくりと皆の元へ近づいて来る。
「師匠に認められることが大事だと言いましたが……そのためには戦って勝つ必要があるのではないですか? 堂々巡りです!」
ルッタは首を傾げながら彼女に向かって問いかけた。
「大事なのは勝ち負けじゃなくて、強くなってどうしたいのか……ということネ」
シャオメイはそう答える。まるで師範のような風格であった。
「僕が強くなりたい理由は、自分が死なないようにするためですよ?」
「本当にそれだけカ?」
「うーん……? それだけだと、思います……?」
ルッタは明らかに困惑していた。
「師匠が言ってたけど……ルッタはとても優しい子ネ」
「はい! 僕はとても心優しいです!」
「…………。でも、それを言葉にするの上手くない。まずは自分の本当の気持ち、知る必要ある」
「なるほど。……そんなことを言われても分かりません! 困ってしまいますよ!」
「分かってるネ」
シャオメイは彼の言葉に理解を示しつつ、兄であるハオランの方へ目を向ける。
「……兄貴は、どうして強くなりたいと思ったカ?」
そう聞かれたハオランは腕を組んでしばらく考え込み、やがて大きく目を見開いて言った。
「強い方がいいからだッ!」
「……もっと詳しく。ルッタにも分かるように説明するネ」
ハオランは再びしばらく黙り込み、思考を重ねてから口を開く。
「生きるためには強くなければいけないからだッ!」
彼の言葉が虚しく木霊した。
シャオメイは特に何も言わずにルッタの方へ目線を戻し、静かに語り始める。
「……昔のことはあまり覚えてないけど、兄貴と私は親に捨てられて大変だったネ。欲しいものは全部盗んで生きてきたヨ」
そう話す彼女の表情は、どこか悲しげであった。
「……弱いと生きる方法が少なくて苦労する! だからこそ、オレが鍛えて強くなれば問題は全て解決するということだッ!」
「人の話に割り込んでくるんだったら、最初から全部自分で話すネ」
唐突に割り込んできた兄に冷ややかな目を向けるシャオメイ。
「オレは自分だけでなく、ついでにシャオメイのことも強くしてやれば一石二鳥だと思った! だから二人で師匠に弟子入りしたんだ! 我ながらいい判断だったと思うッ!」
「か弱い乙女の私が、こんな場所で修行させられてる理由もそれネ……」
彼女はがくりと肩を落として続ける。
「シャオメイはすごい嫌がったのに、兄貴に引きずられて無理やりここに連れて来られたヨ……」
「それは災難でしたね。……ですが、なぜその話を僕に?」
ルッタは不思議そうに問いかけた。
「……要するに、兄貴は独りよがりで話が通じないけど……強くなろうとする理由の一つにはシャオメイのことも含まれてるってことネ」
「当然だ! 兄は妹を守ってやるものだからなッ!」
「うるさいヨ」
彼女は少しだけ恥ずかしそうにした後、今度はロウスーの方を見る。
「……ロウスーが強くなりたい理由も教えるネ。隠したところで、どうせ明日になったら師匠に聞かれるヨ」
「オ、オイラは……難しいことは分かんないけど、師匠のことは裏切りたくないんだナ!」
「つまりは師匠のためネ。……それはどうしてカ?」
「だって……人よりもよく食うオイラのこと、ちゃんと面倒見てくれるのは師匠だけなんだナ。よく無茶なことも言ってくるけど……とにかく恩返しがしたいんだナ!」
「いい答えヨ。師匠泣かせな奴ネ」
彼女は深々と頷き、それからルッタの目をじっと見つめた。
「たぶん、師匠は二人のこと認めるヨ」
「――なるほど! つまり、人のためという理由でなければ師匠は納得してくれないのですね! ひどいです!」
「……まあ、そういうことヨ」
シャオメイは少しだけ言葉に詰まりつつも、改めてルッタに問いかけ直す。
「ルッタは……本当に自分のためだけに強くなりたいカ?」
「はい!」
即答であった。
「も、もう少し考えるネっ!」
(これは……正しい答えを言うまで同じ選択肢がループし続けるやつです!)
そこでようやく、ルッタは真剣に考え込む。全てはこの会話のループを抜け出すために。
「……強いて言うのであれば、お父さまやお母さまや、お姉さま……あと、お世話をしてくれるエルナさんも生存させたいです! 当然ですね!」
「じゃあ、家族を守るために強くなろうとしてるってことヨ。最初からそう言うネ」
「否定はしませんが……いまいち腑に落ちません! 家族の中で一番死ぬ可能性が高いのは、おそらく僕なのですよ?」
「それは知らないネ。……とにかく、後は明日までに自分で考えて答えを出すことヨ」
シャオメイはそれだけ言って皆に背を向ける。
「うーん……分かりました! 教えてくれてありがとうございます、シャオメイ!」
「れ、礼には及ばないネ」
ルッタにお礼を言われて恥ずかしそうにしながら、そそくさと場を離れるのだった。
「ご苦労じゃったな、シャオメイ」
――その後、道の途中で声がかかり、近くの岩陰から師範が姿を現す。
「……ルッタの為ネ。それに、シャオメイだって自分のために強くなりたい思ってるヨ」
シャオメイは後ろで手を組み、もじもじしながら答えた。
「それで良い。お主はルッタと違って、単に素直でないだけじゃからのう」
「う、うるさいネっ!」
そうして夜はふけていくのであった。




