第87話 気の力について学ぼう!
「……さてと、やっと二人きりになれたネ!」
やっとの思いで門下生たちからルッタを引きはがすことに成功したシャオメイは、やや呆れ気味に呟いた。
彼女がやって来たのは、山の中にある竹林の奥――木で作られた打ち込み練習用の人形が立ち並ぶ静かな広場だ。
ちなみに、これらの人形は師範お手製である。
「師匠からルッタのことを任されてるのはシャオメイなのに……兄貴もロウスーも出しゃばりすぎネっ!」
ぶつぶつと文句を言いながら、準備運動がてら人形に連続蹴りを叩き込むシャオメイ。
するとその一撃に連動して人形も動き始め、彼女に向かって拳を突き出す。
「はぁッ!」
シャオメイはそれを片手で受け流し、反撃の回し蹴りを食らわせて人形を吹き飛ばした。
(気合の入った攻撃モーションです……!)
その動きを見て心の中で感激するルッタ。
「カッコいいです! シャオメイ!」
「ふふん! このくらいは練習すればルッタもできるようになるヨ!」
そう言いつつも彼女は得意げである。
「最初はこのお人形と殴り合う修行をするのですか?」
「いいや、違うネ」
シャオメイは短く返事をした後、真剣な眼差しでルッタのことを見つめた。
「まずは全ての基本である気功――即ち気について知ってもらうネ。大変だと思うけど……その覚悟はあるカ?」
そして意志の再確認をする。
「はい! 早く師匠に認めてもらわなければいけないので、頑張ります!」
もちろん即答であった。全ては更なるレベルアップのためである。
「いい返事ヨ……! 流石はルッタ! シャオメイが見込んだ男の子ネ!」
「なるほど、いつの間にやら見込まれていたのですね……!」
その時、ルッタの脳裏にふとある疑問がよぎる。
「ですが、気というのは確か……原作では魔力と同じMP扱いだったと思います」
「げんさく?」
「魔力と気は違うのですか?」
そう問いかけられたシャオメイは、小さく首を傾げる。
「うーん……魔力についてはよく知らないけど、たぶん違うものヨ!」
言いながらルッタの手を取り、自身の胸へと押し当てるシャオメイ。
「今からシャオメイが気を練るから、まずは実際に感じてみてほしいネ」
彼女はそう告げると、目を閉じてゆっくりと深呼吸を始めた。
「すー……はー……」
「……すごくドキドキしています。つまり、心拍数を上げることが気を操る上では重要ということですね!」
「ど、ドキドキしてるのは緊張してるだけだから……あまり関係ないネ……っ!」
「なるほど」
一瞬だけシャオメイの呼吸が乱れたが、それからは再び安定し始める。
(魔力の時は上手く行った記憶がありますが……果たして気も感じ取ることができるでしょうか……?)
――彼がそう思った次の瞬間、魔力とは明らかに別種のエネルギーが全身を包み込んだ。
「……おお、おおおおおおおおっ!?」
突然の新感覚に、思わず叫び声を上げるルッタ。
「はぁ、はぁ……感じた……カ? これ、けっこう疲れるネ……」
シャオメイは肩で息をしながら問いかける。
どうやら、自分以外の人間を包み込めるほどの気を練るとかなりの体力を消耗するようだ。
「す、すごいですよシャオメイ! 何だか温かい感じがします!」
ルッタは大喜びで伝える。
「魔力を纏うときは少し冷たい感じがするのですが、気の場合は反対なのですね! 治癒魔法や強化魔法を使用した時と感覚が近いかもしれません!」
「わ、分かってくれたみたいで嬉しいネ……シャオメイ、魔法のこと分からないけど……」
そう話すシャオメイの顔は赤く、額にはじっとりと汗が滲んでいた。
「魔法というものは、大気を循環する魔力を取り込み、イメージによってそれを変換することで発動します! しかし、気功というのは見たところ、主に体の中にあるエネルギーを増幅させて使用しているみたいです! 魔法を使って疲労するのは主に精神ですが、気は肉体の疲労の方が大きそうです!」
「今の一回でそこまで分かるなんて、ルッタは賢いネ……!」
呼吸を整えたシャオメイは、感心した様子で呟いた。
「イメージとしては魔法の逆をする感じでしょうか? コツを掴むのは中々難しそうですね……!」
「シャオメイも気を扱えるようになるのに一年くらいかかったし、普通はそれよりももっと時間がかかるらしいネ。ルッタはまだ修行を始めたばかりだから、焦らず気長にやると――」
「はぁーーーーーっ!」
刹那、ルッタは唐突に大声で叫ぶ。
「――へ?」
周囲の風の流れが変わり、困惑し始めるシャオメイ。
「うおーーーーーーーーーっ!」
次の瞬間、自分ルッタの体から物凄い量の気が放出され、その衝撃波でシャオメイの体がよろめいた。
「え……ええええええええええっ?!」
あまりにも当然のことに理解が追いつかず、驚きの声を上げるシャオメイ。
彼女はそのまま地面へ尻もちをつき、ぽかんと口を開ける。
「そ、そんな……滅茶苦茶すぎるヨ……!」
そして、震える声で呟いた。
「シャオメイの……一年の努力がぁ……っ!」
悔しさに目を潤ませる彼女だったが、強くなる努力(?)をしてきた時間に関してはルッタの方が圧倒的に上であった。
簡単に気の力を引き出せたのは、日頃から積み重ねてきた過酷なレベル上げとドーピングのおかげである。
「はー……はー……っ!」
やがて気の放出が終わり、大きく息を乱すルッタ。
「す、すごいネ……! ぜ、ぜひ師匠と呼ばせてくださいっ!」
衝撃のあまり自身が師事していることを忘れ、そんなことを口走るシャオメイ。
「つ、つかれました……」
一方、ルッタはそう言って力なく地面に倒れ込むのだった。
「ルッタっ?! しっかりするネっ! ルッタ! ルッターーーーーーっ!」
かくして、ついに魔は滅んだのである。
めでたしめでたし。




