第73話 悲劇に見舞われてしまいました!
リリアたちは訓練場内へ雪崩れ込んできたアンデッドの群れから逃れ、二階の広間に立てこもっていた。
時々扉が強く叩かれるが、グランの土魔法で生成した大岩で塞いでいるので、しばらく突破されることはないだろう。
しかし、外を徘徊するアンデッドたちのうめき声は、時間を追うごとに大きくなっていた。
このままでは、最終的に全員アンデッドの餌食になってしまうだろう。
――だが、今はそれどころではなかった。
「ああ……ルッタちゃん……私のせいでっ……うぅぅぅっ……!」
リリアは部屋の隅で膝を抱えてすすり泣く。
今この場にルッタの姿はない。
彼はアンデッドから逃げる途中、転んで足を怪我してしまったリリアを安全に避難させるため、自ら進んで囮になったのだ。
命からがらこの部屋へ逃げ込んだリリアは、そこでようやくルッタがついて来ていないことに気づいたのである。
「ルッタちゃんは……こんな時でもずっと励ましてくれていたのに……私っ、自分のことばっかりで……ううぅっ!」
悲しみに暮れる彼女のことを、イーリスがそっと抱き締める。
「ルッタは……生きていますわっ! わたくしの選んだ男の子が……そんな簡単に死んでしまうなんて……ありえませんもの……っ! ……ぐすっ」
そして、必死に涙を堪えながら言うのだった。
「そ、そうよね……! ルッタちゃんは生きているわよね……っ! 今すぐ……助けに行かないと……っ!」
リリアは言いながら立ち上がり、扉を塞ぐ岩を魔法で破壊しようとする。
「リリアっ!」
――ぱちん、と乾いた音が鳴り響く。
イーリスが彼女の頬を叩いたのである。
「今あなたが早まったことをすれば……ルッタの想いが全て無駄になってしまいますわっ! あなたはっ、ルッタのお姉様なのでしょうっ! しっかりしてくださいましっ!」
「イーリス……」
王女は、再びリリアのことを抱きしめた。
「だいじょうぶ……きっと大丈夫ですわ……っ」
「……ごめんなさい……私……ここに居るみんなのことを……ちゃんと考えていなかったわ……。本当にごめんなさい……」
「分かってくれれば……いいんですの……っ」
「王女様は……立派ね……」
それから、イーリスとリリアは再び嗚咽を漏らし始める。
「…………」
そんな二人のことを、グランは何も言わずに見ていた。
「ルッタって子……死んじゃったの……?」
隣に座っていたベルは、彼に対して小さな声で問いかける。
「あいつのことだ。そのうち……戻ってくる……」
そう話すグランの声は震えていた。
「でも――」
「俺は認めない……ッ!」
グランは拳で強く床を叩きつける。
「絶対に認めないぞ……っ!」
彼の瞳から、ぽたぽたと数滴の涙が落ちるのだった。
*
一方その頃。
「えいやっ!」
「ゔあああああああああああああッ!」
姉とはぐれ、アンデッドの群れにのみ込まれたルッタは、目をキラキラと輝かせながらレベル上げに勤しんでいた。
「火球!」
「ぐおおおおおおおおおおおおおッ!」
ルッタの拳や魔法で次々と経験値に変えられていくアンデッドたち。
「リリア姉さま達とはぐれてしまいました! 早く部屋を見つけなければいけません!」
口ではそう言いつつも、その足はよりアンデッドの多い一階へと向かっていた。
「お、おかしいです……一階には経験値しかないのに……体が言うことを聞きません……! これはもしや……魔王もどきの仕業……っ!?」
己の欲望の結果である。今の彼を止められる者はどこにもいないのだ。
「そうですっ! きっと魔王もどきの仕業に違いありませんっ!」
「あがあああああああああああッ!」
他者に罪をなすりつけながら、その手で何度もアンデッドたちを経験値にしていくルッタ。
ちなみに、休む間もなく経験値の多いネクロスアンデッドを狩り続けた彼のレベルは急速に上昇し、九十に到達していた。
元のステータスが低いとはいえ、キノコによるドーピングと合わせると、王国騎士団の隊長を上回る実力に至っている可能性が高い。
「もしかしたら……このままレベル上限に到達してしまうかもしれませんっ! レベル上限に到達したら……試したいことがあるのですっ!」
高みへと至りつつある彼の表情は、希望に満ち溢れていた。
しかし次の瞬間、思わぬ悲劇が襲いかかる。
「ぐっ、ぐあああああああッ!」
「おや?」
突如としてアンデッドたちが苦しみ、次々と消滅し始めたのだ。
「わーーーーっ?!」
「やっと……解放される……」
アンデッドの肉体に閉じ込められていた死者の魂たちは、本来の姿を取り戻して安らかな表情で天へと昇っていく。
「ま、まだ消えてはいけませんっ! 待ってくださいっ!」
慌てふためくルッタだったが、彼の声は誰にも届いていない。
「せめて……せめて一人だけでも残ってくださいっ!」
そう言って、一番近くにいたアンデッドの腕を引っ張るルッタ。
女性の姿をしていたそのアンデッドは、ルッタに優しく微笑みかけると、そっと頭をなでた。
「泣かないで……ア……レン……」
そして、光に包まれゆっくりと消えていくのだった。
「そ、そんな……制限時間があるイベントだったなんて……!」
訓練場に静寂が訪れ、ルッタはひとりぼっちになる。
どうやら、騎士団の皆様の尽力によって、一連の事件が解決してしまったようだ。
「こんな……こんなことって……おーいおいおいおいっ!」
彼は声を上げて泣いた。
もうじき、子供たちは無事に保護されることになるだろう。




