第69話 アンデッドパラダイスです!
無事に魔王もどきを体内へ取り込み、発狂させることに成功したルッタは、少年の手から解放されて地面を転がる。
「め、目が回ります……!」
そして、そう言い残して気絶するのだった。
おそらく異質なものを取り込んだことによる副作用だろう。
「ルッタちゃんっ! しっかりしてぇっ!」
リリアは青ざめた顔で弟の元へと駆け寄り、必死で声をかける。
「うーん……リリア……姉さま……?」
「そうよルッタちゃんっ! 私のことがちゃんと分かるのねっ!」
姉の献身的な呼びかけにより、ルッタはかろうじて意識を取り戻すことができたようだ。
「リリア姉さまが……ぐるぐる回転しています……!」
「良かったわルッタちゃんっ! うえええええんっ!」
会話が噛み合っていないが、それはいつも通りである。
「と、とにかく、怪我人は医務室まで運ばなくてはいけませんわ! グランはこっちの子を運び出すのを手伝ってくださいまし!」
行動不能になったリリアに代わって声を張り上げるイーリス。
「でもそいつ……助けてもいいのか? ルッタが何かしたおかげで、危ない感じは消えてるけど……」
「目が覚めてダメそうだったら、わたくしがもう一度お仕置きいたしますわっ! 教育的指導ですのよっ!」
「…………そうだな! まあいざとなったら殴ればいいか!」
かくしてルッタと魔王もどきに取り憑かれていた少年は、医務室へ運び込まれることとなったのである。
なお、氷漬けにされたままの爺やはそのまま訓練場に放置された。アンデッド化しているので当然の処置である。
*
「みなさんおはようございます! 僕のレベルとステータスが低かったせいでご迷惑をおかけしました! これからは魔王もどきも倒せるように頑張ります!」
夕刻、目を覚まして元気にベッドから飛び起きたルッタは宣言した。
「……もうだいじょうぶなの?」
リリアは心配そうに問いかける。
「はい! HPが完全回復しました! 僕は元気です!」
ちなみに治療を施してくれたのはイーリスである。彼女は最近、治癒魔法を習得することに成功したのだ。
一部例外もあるが、光属性の適性がある者は治癒魔法も得意である場合が多いのである。
「ぐすっ……えっちぴーがかんぜんかいふく? して良かったわルッタちゃん……!」
普段の元気さを取り戻した弟の姿を見て、リリアは安堵のあまり涙ぐむ。
「ひっぐ、爺やに続いて……ルッタまで大変なことになってしまったらわたくし……どうしようかと……っ」
それにつられて、イーリスも同じように涙をこぼした。
「ルッタはあのくらいじゃ死なないだろ」
グランは冷静な意見を述べるが、二人から鋭く睨まれて黙り込んでしまう。とても不憫であった。
「――ところで、魔王もどきが入っていた人はどうなりましたか?」
ルッタが問いかけると、皆は一斉に隣のベッドを指さす。
そこには、気を失ったままの少年が寝かされていた。
「なるほど! 僕と同じく気絶していたのですね」
「殺すってわけにもいかないから……とりあえず寝かせてる。お前は不満かもしれねーけど」
そう説明したのはグランである。
「いえ、おそらくはもうモブキャラなので、そっとしておいてあげるのが一番だと思います! 魔王もどきは僕の中に入ってきて大人しくしているみたいですし!」
「そ、そうか……」
その言葉を聞き、ルッタから一歩だけ後ずさるグラン。
「お前……急に暴れ出したりとかしないよな……?」
「今のところ問題はなさそうです! これにて一件落着ですね!」
ルッタはそう言ってほほ笑んだ。
「いいえ、ルッタちゃん。それが……そうでもないの……」
「はい?」
不穏な姉の発言を聞き、ルッタが首を傾げたその時。
「うぅあぁ……ぁがぁああぁ……」
うめき声と共に、医務室の窓に何かが張り付く。
「ひぃっ!」
イーリスは小さく悲鳴を上げてリリアに抱き着いた。二人の少女は身を寄せ合って怯えている。
「これは……モンスターの鳴き声ですね!」
言いながら窓の方へ目を向けると、そこには無数のアンデッドが張り付いていた。
彼らの額には、怪しく輝くノクト教団の紋章が刻まれている。
「外はアンデッドだらけで……このままだと中に入ってきてしまいますわ……っ」
イーリスは震えた声で言った。何も手を打たなければ、窓ガラスが割られてしまうのも時間の問題だろう。
(あ、あれは……ネクロスアンデッド!)
しかし、ルッタの脳内はそれどころではなかった。
(――ネクロスが召喚する経験値が豊富なアンデッドではありませんか!)
原作において、ノクト教団の司祭であるネクロスが登場するダンジョン――ノクト教団本部には、豊富な経験値を持つ『ネクロスアンデッド』が登場する。
耐久は高いが攻撃力が低いのが特徴で、育っていないキャラのレベルを上げるのには絶好のモンスターなのだ。
(経験値が……向こうからやって来てくれました……! こんな素敵なイベントが追加されていたのですね……っ!)
ルッタの目がきらきらと輝き始める。
「皆さん! ひとまずモブキャラの子を連れて二階へ避難しましょう! そこから魔法でアンデッドを攻撃して経験値にします! ――今日は絶好のレベル上げ日和ですよっ!」
彼の楽しげな声が医務室に響き渡るのだった。




