第57話 騎士団は変な人が多いみたいです!
一度訓練場の外に出たルッタだったが、残念ながら同伴していた両親に一瞬で捕まえられてしまい、しっかりと手を引かれて連れ戻されることとなった。
(まさか、お父さまとお母さまに逃走コマンドを阻止されるとは思いませんでした……)
ルッタはしょんぼりとしながら、魔導騎士団の人たちと退屈な話を始めた両親や姉の元を離れ、特に意味もなく周囲をうろつき始める。
(今戦闘を始めたらみんな敵対してしまうでしょうし……大人しくするしかありませんね)
――そんな彼の元へ歩み寄って来る一人の人物がいた。
「久しぶりだな、ルッタ君」
辺境騎士団総長、豪拳のヴォルスである。
「……お久しぶりです! グランのお父さま!」
観念したルッタはひとまずレベル上げを諦め、各キャラクターの好感度を上げておくことにした。
原作においては、星災禍の発生後、それぞれの騎士団が独自に動き始める。騎士団の者達はクロードを含め、主人公の選択や好感度次第で敵にも味方にもなる存在なのだ。
その中でも総長たちは特に重要なキャラであり、一人敵に回すだけでシナリオ攻略の難易度が一気に跳ね上がることで有名である。
ヴォルスは魔人化した息子を手にかける決断ができるかどうかで行く末が分岐し、敵対するルートではあまりの強さに負けイベントだと勘違いするプレイヤーが続出した凶悪なボスキャラだ。
つまり、現在のルッタが正面から挑めば、数千回は軽くゲームオーバーにされてしまう強者である。
搦め手を使わなければ経験値にすることはまず不可能であるため、友好的に接しておくことが得策である。
「ふッ、元気の良い挨拶だ。……グランも向こうに居るから、仲良くしてやってくれ」
「分かりました! 後でレベル上げに誘いますね!」
「うむ!」
そう返事をしたヴォルスだったが、レベル上げの意味はもちろん理解していない。子供の間で流行っている遊びか何かだと、勝手に解釈して頷いていた。
「困るなぁ……そっちの大きいのより先に、アタシに挨拶するべきだろう?」
そんな時、魔導騎士団総長――天賢のロゼッタが横から口を挟んでくる。
「あんたの父親と母親の上が誰だか、ちゃんと理解してるのかい?」
彼女はじろりとルッタの顔を覗き込みながら問いかけた。
「うえ? 王様のことですか?」
「違うよ、魔道騎士団の一番上はアタシだって話さ」
「…………。はい! もちろん理解していますよ、ロゼッタさん! よろしくお願いします!」
あまり分かっていなかったが、とりあえず一礼しておくルッタ。
「……ふん、まあ良しとしてやろうじゃないか」
どうやら、彼女との会話も正しい選択肢を選ぶことができたようだ。
ロゼッタは火、氷、雷の大規模魔法を自在に操る存在であり、そのどれもが天候すら変えてしまうほどの威力を有している。
おまけに治癒魔法にも長け、さらには眼帯の下に隠された魔眼で睨まれた者は魔力を吸い取られてしまう。全ての対策を万全にしていない状態で敵対すれば、敗北は免れないのだ。
もし今のルッタが彼女に挑むのであれば、猛毒を盛って弱り切ったところに完璧な不意打ちを決めることでしか勝ち目はないだろう。
比較的体力が少ないところが唯一の弱点である。
「これからは……せいぜいあたしを敬うことだねぇ」
「分かりました! せいぜい敬いますロゼッタさん!」
ルッタは笑顔で答えた。
「ふん……面白いガキだ。覚悟しときな」
「はい! せいぜい覚悟してくださいロゼッタさ――」
次の瞬間、ルッタの横を目に見えない魔力の塊が掠めた。
――ドオォーンッ!
轟音と共に背後の壁に穴が空き、訓練場がざわめきに包まれる。
「――口には気を付けな、お坊ちゃん」
誰がやったかは一目瞭然だが、証拠もなしに彼女を咎められるような者はいない。
「おっと、気難しい妖精が訓練場の壁に穴を空けてしまったようですな。まったく困ったものだ。――すぐに私が直しておきましょう」
ヴォルスはわざとらしくそう言いながら、大穴の方へと歩いていくのだった。
「……ほら、どうした? あんたも、レオンに挨拶しておかないとダメだろう? ……もう行っていいよ」
「い、行ってきます!」
ロゼッタが原作通りの恐ろしいおばあさんであることを確認したルッタは、そそくさと彼女の元を離れるのだった。
「――というわけで、レオン王子に挨拶をしに来ました! よろしくお願いします!」
「あっはっはっ! ……災難だったね! あのおばあさんはこの国で一番恐ろしい人だから気を付けた方がいいよ」
近衛騎士団総長、聖剣のレオンは朗らかに笑いながらそんな忠告をする。
「ああ……かわいそうなルッタ! わたくしも先ほど、恐ろしい目に遭わされましたわっ!」
そんな彼の背後から飛び出したイーリスは、勢いよくルッタに抱き着く。
「すっごく怖かったですわーっ! うえーんっ!」
「く、苦しいです……イーリス王女……」
どこへ行こうと、ルッタに逃げ場はないのだ。
「……そうだ。君は妹の――イーリスの婚約者なんだから、僕のことはこれから『レオンお義兄さま』と呼びなよ。いいかい?」
「レオンお義兄さま……ですか?」
「よろしい! 妹が増えたみたいで何だか嬉しいよ」
「……あの、僕は男ですが」
「もちろん知ってるよ! そういうのもいいよね!」
そう言って、満足げにほほ笑むレオン。
「…………?」
どうやら、彼には妙な趣味があるらしい。
この国の行く末が危ぶまれる。
「王女様……ルッタちゃんは苦しがっているわ。手を退けてくださらないかしら」
するとその時、いつの間にか近くに来ていたリリアがルッタと王女の間に割って入った。
「あら、リリアお義姉さま。お久しぶりですわね!」
「ええ……お久しぶり……です」
因縁の顔合わせだ。
「わたくし、夫婦が愛を深め合うのは当然のことだと思いますわ!」
「けれど……確か、国王様も……子供同士の約束だからそんなにすぐ決める必要はないと手紙で――」
「あら、お父様がルッタへ宛てて書いた手紙を覗き見するだなんて……はしたないですわよお義姉さま!」
「た、たまたま目についてしまっただけよっ! 王女様だって、人前でルッタちゃんに遠慮なく抱き着くのは……はしたないと思いますわっ!」
「ふーん。お子様ですのね!」
「ええと……自己紹介かしら……?」
「なんですってッ!?」
二人の間に、見えない火花が散る。
「イーリス王女とリリア姉さまは、一度木剣で決闘した方が良いと思います」
「僕も同感だな。――あと、リリアちゃんも僕のことはレオンお義兄さまって呼んでくれ」
「「お断りしますわっ!!」」
ルッタとレオンの提案は、同時に却下されてしまうのだった。




