第51話 賑わいを取り戻しました!
深夜、ルッタはベッドから抜け出し、アステルリンクを使って再びアルルネの隠れ家に訪れた。
目的はもちろん、この場所を好き放題荒らしまわった分身に代わってアイテムを回収するためである。
「まったく……僕は僕の言うことを聞かないので困りますね……」
彼はため息混じりにそう呟きながら、ダンジョンの中へと侵入していくのだった。
そうして何事もなく宝物庫へ辿り着き、お目当ての『マジックポーチ』を手に入れたのである。
「やりました! これでアイテムもお金も好きなだけゲットし放題ですね! もう隠し場所に困ることもありません!」
宝物庫内に落ちていたアイテムやお金を一通りそこに納めつつ、意気揚々とその場を後にするルッタ。
「グオオオオオオオッ!」
「とうっ!」
「ゴフッ!」
徘徊するグリーンオーガたちを蹴散らし、経験値にしながら探索を続けていると、いつの間にかアルルネが居たボス部屋の前に辿り着いていた。
「……そういえば、分身の僕が先に倒れたのでアルルネの経験値が手に入っていません!」
唐突にそんなことを思い出したルッタは、慌てて扉を開けて部屋に突入する。
「これは……!」
そこには凄惨な戦いの跡が残っていた。
壊された家具の破片が散乱し、中央には血を吐いて意識を失ったアルルネが倒れている。
「むごいです……!」
ルッタは思わず呟いた。
ひとまず足元に落ちていたフロナの精霊石を回収し、それから倒れているアルルネの元へ近づく。
「よかった……まだ息があるみたいですね!」
言いながら、彼女のドロップアイテムである『耐毒のポーション』や『魔力のハーブ』を詰め込むルッタ。
ちなみに、アルルネは自身の放った呪毒による毒で体力が尽きても仮死状態にしかならず、時間経過で復活できる特殊な体質である。
加えて高い毒耐性を有しているため、基本的には他者からの攻撃で毒状態になるようなことはほとんどない。
――そのせいでこれから先の地獄を味わうことになるのだ。
「これでセレーヌの穴埋めができそうです!」
ルッタは笑顔で言いながら、瀕死のアルルネの治療を始めるのだった。
*
ルッタによるダンジョンの攻略が終わってからしばらく後。
「あ……あは……は……っ」
アルルネは、真っ暗闇の中で何者かが笑うような声を聞いた。
「ん……?」
彼女は驚いて目を覚ます。そこは薄暗い地下室のような場所であった。
周囲は石の壁で囲まれ、天井からは切れかけの魔導灯が吊り下げられている。
そして、アルルネは部屋の中央で椅子に縛りつけられていた。
「な、なによこれ……っ?!」
あまりにも突然のことに状況が呑み込めず、軽い錯乱状態に陥って悲鳴に近い声を上げる。
ここへ来るまでの記憶が曖昧で、自身に何が起きたのかすぐには理解できなかった。
「げーむ……げー……む……ぴこ、ぴこ……げーむ……」
その時、隣からうわ言を呟くような声がする。
アルルネが思わずそちらへ顔を向けると、そこに居たのは――
「ら、ラヴェルナ……?!」
行方不明になっていたはずのラヴェルナであった。
「どっ、どうして……あなたがっ!? ここはどこなのっ!?」
彼女は必死に身をよじりながら、虚な目をしたラヴェルナに向かって問いかける。
「けいけんち! けいけんち! あー、へへっ……あひゃひゃひゃっ! ゲーム神さまぁ……! ひひっ、ひひひひひ!」
しかし、返ってきたのは意味の分からない支離滅裂な答えだった。
「あなた……一体誰に何をされたのっ! 答えなさいッ!」
見るも無惨に変わり果てたラヴェルナの姿を目の当たりにし、激しく取り乱すアルルネ。
(こんなの……普通じゃないっ! 普通のやり方じゃラヴェルナはここまで壊れないわ……ッ!)
彼女の脳裏に、ありとあらゆる最悪な想像がよぎる。
――その時、突如として正面の扉が勢いよく開け放たれた。
外からのまぶしい光が差し込み、中へ一人の人間が入ってくる。
「みなさんおはようございます!」
その正体はもちろんルッタであった。
「あ、あんたは――ッ!」
彼の姿を見たアルルネは、真っ青な顔で叫ぶ。
「どうして生きてるのっ!? フロナは……フロナはどこッ!」
「ドロップアイテムは、精霊石を含めて僕がちゃんとゲットしましたよ!」
「返しなさいッ!」
次の瞬間、アルルネは魔力を高める。
「呪毒!」
そうして、再び全てを毒状態にする魔法を発動した。
「ぐっ!」
彼女は口から血を吐き出しながら、目の前のルッタをにらみ続ける。
しかし、一向に毒が効いている様子はなかった。
「う……そ……」
「今は耐毒のポーションを飲んでいるので、僕とラヴェルナはしばらく平気ですよ!」
ルッタは絶望するアルルネに対し残酷な事実を告げる。
「それでは、さっそく今日のレベル上げを始めましょう!」
言いながら彼が足元に落としたのは、一匹のスライムであった。
「アルルネは毒の攻撃でワームを全滅させてしまうと思うので、毒に耐性のあるスライムを連れてきました! 今日からはスライムでレベルアップです!」
そんな説明をしながら、慣れた手つきでスライムを引き裂いて分裂させ始めるルッタ。
「は……?!」
拘束されたアルルネの足元に、不気味に蠢く粘液の塊たちがずるずると押し寄せてくる。
「いっ、いや……」
ちなみに、アルルネはモンスターの中でスライムが一番苦手だ。
「い、いやああああああっ!」
かくして、人員が補充された秘密基地は、再び以前のような賑やかさを取り戻したのだった。
「怖がらないであげてください! このゲームのスライムは、経験値として優秀な素晴らしいモンスターなので!」
「来ないでっ! 助けてぇっ! ああああああああああああッ!」
果たして、アルルネは心を強く保ち続けることができるのだろうか。
「……おっと、縄を解くのを忘れていました! ごめんなさい!」
「経験値経験値経験値経験値ィ!」
「ラヴェルナさんはやる気満々ですね! 僕も嬉しいです!」
それとも、ラヴェルナのように向こう側へ行ってしまうのか。
――答えはおそらく後者である。
*
「リリア姉さま! 新しい精霊石を見つけて来ました!」
「る、ルッタちゃん……いくらなんでも見つけすぎよ……っ!」
ちなみに、フロナの精霊石はまたリリアに押し付けたようだ。
「リリア姉さまなら、三体同時契約もできます! メインヒロインなので!」
「ま、まだ……最初に貰った精霊石の子とも契約できてないのに……っ」
「頑張ってくださいリリア姉さま!」
「うっ……ルッタちゃんの期待のおめめがまぶしすぎる……っ!」
弟からお姉さまに寄せられた謎の信頼は、あまりにも絶大であった。
第二章 『ルッタ・アルルー冒険の日々』 完




