第44話 みんなのレベル上げをします!
「それでは、タヌキ城とユキマルのことはセレーヌにお任せしますね!」
ひとまず話がまとまり、大広間を後にしたルッタは、後ろから付いてきたセレーヌの方に振り返ってそう告げる。
「ええ……まずは、親を亡くしてしまった子供たちに……心の拠り所として、ピコピコ・ゲーム教を広めていきたいと思いますぅ……!」
「それは良い考えです! ゲームは楽しいので、みんな少しは元気になれるかもしれません!」
「やはり……ルッタ様もそう思うのですねぇ……っ!」
どうやら、手始めに身寄りのない子供達から教義を植え付けるつもりらしい。悪魔のような発想である。
「……それと、実はもう一つこの国の人たちに伝えて欲しいことがあるのですが」
「はい……一体なんでしょうかぁ……?」
「今からおよそ三年後に発生する、星災禍のことです! ……つらい現実かもしれませんが、対策しておかないとより多くの被害が出てしまいます!」
「なるほどぉ……確かに、その予言は多くの人に伝えておくべきですねぇ……! 私にお任せください……!」
言いながら、セレーヌは懐から小さな手帳とペンを取り出し、メモを取り始める。
「おや、いつの間にそんなアイテムを……?」
「以前はここにノクト教団の教えを書き留めていたのですがぁ……これからは、ルッタ様の教えや、この世界の真実をまとめてぇ……いずれ教典にしようと考えているのですよぉ……!」
「つまり、僕の知っている『アルティマ・ファンタジア』の攻略情報をまとめて、攻略本にしようと考えているのですね! それは良いアイデアかもしれません!」
「こうりゃく……ぼん……?」
その瞬間、セレーヌの目が大きく見開かれる。
「なるほどぉ……ゲーム神さまの教えをまとめたものは『攻略本』と呼べばいいのですねぇ……!」
「そうですね! アルティマ・ファンタジア完全攻略ガイドブックです!」
「正式名称はそれにいたしましょう……! やはりルッタ様のお言葉は素晴らしいですぅ……っ!」
このようにして、神であるルッタの適当な言葉が次々と教義等に採用されでいくのであった。
「……そうだ! ユキマルの力についても、一つ教えておきたいことがあります!」
「はい、なんでしょうかぁ……?」
「ユキマルは生き物から活力を奪って新しい命を生み出すことができますが、悪い人間や妖怪から活力を奪うと体内に邪気が溜まります! これを放置しておくと、ユキマルも魔人化して倒すしかなくなってしまうので……定期的に邪気を込めた式神も生み出すように伝えてください! セレーヌであれば、倒して経験値にできます!」
「それは素晴らしいお考えですねぇ……!」
セレーヌは恍惚とした表情でペンを走らせる。
「……それでは、僕はこれから別の場所でレベル上げをしてくるので、後はよろしくお願いします!」
一通り要件を伝え終わった彼は、アステルリンクを取り出しながら言った。
「経験値! 経験値! 経験値ぃ……!」
セレーヌは光に包まれたルッタに対して両手を組み、謎のかけ声――もとい祈りの言葉を口にする。
「あの、セレーヌの他に経験値なんてどこにも見当たりませんが……なぜこのタイミングで――」
ルッタは腑に落ちない表情をしながら消え去った。
「……さてと。私はこれから……この国でしっかりと使命を果たさなければなりませんねぇ……!」
かくして、一人残された宣教師――というよりは実質的な教祖であるセレーヌの、愉快な布教活動が始まったのである。
*
――ルッタが去ってから一週間後。
「さあ、みなさぁーん……集まってくださぁーい……!」
セレーヌはお城の片隅にある祠の近くで、身寄りをなくした子供たちに対する炊き出しを行っていた。
「味噌スープもライスボゥルも、たっぷり用意してありますからぁ……順番に並んでくださいねぇ……!」
ちなみに、食料は近くに住む天狗たちの隠れ家を襲撃して入手したものである。
経験値に慈悲はないのだ。
「せれーぬさん! 今日も『けいけんち』のお話しして!」
「あたいも『けいけんち』のこと、もっとききたい!」
「いつか鬼の奴らも『けいけんち』にしてやるんだ!」
彼女の周りには、ゲーム教の教えに感化された子供たちが群がっている。数日前までは皆虚ろな目をしていたが、今は輝いていた。
「うふふ……、皆さんが食べ終わったら、後でゆっくり教えてあげますよぉ……!」
セレーヌが最初に教えたのは、『レベル』という概念と妖怪を倒すことで手に入る『経験値』についてだった。
鬼の襲撃によって家族を奪われた子供たちは、少なからず妖怪に対する憎しみを抱いている。そんな彼らに強くなる方法を授けたのだ。
「おれ、早くにんじゅつ使いたい!」
「ぼくも! にんじゅつでレベル上げするんだ!」
この国の子供たちは魔術よりも忍術の方が覚えが良いため、基本的にはオボロの協力で簡単な修行をさせている。将来は優秀な忍者軍団が誕生することだろう。
セレーヌは、短期間でタヌキ城の防衛力を飛躍的に向上させたのである。
(そうだ! 今日は子供たちを連れて……妖怪狩りをしてみるのも良いかもしれませんねぇ……!)
子供達に食事をよそいながら、そんな計画を立てる彼女の頬は、わずかに紅潮していた。
「うふふふふ、うふふふふふふ……っ!」
「せれーぬさん、楽しそー!」
一人の少女が笑顔で言う。
(かわいいこの子たちのことは……私がしっかりと守って、強くしなければいけませんねぇ……っ!)
一つだけ確かなことは、彼女が居る限りタヌキ城は安全であり、同時にとても危険であるということだけだ。
「いーえっくすぴー! いーえっくすぴー!」
「けいけんち! けいけんち! けいけんち!」
「どろっぷあいてむっ!」
ルッタをも上回りかねない狂気の芽たちが、この国の中で育ちつつあった。




