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第42話 タヌキ城の宝箱を漁りたいです!


「到着しました!」


 自身の分身をエルナ先生の元に縛り付けて屋敷を抜け出したルッタが訪れたのは、ユキマルたちの居るタヌキ城――の片隅にある、小さな祠の前であった。


 鬼による襲撃を受けた城は酷く損壊しているが、天守閣やその他の主要な防衛機能はまだ生きている様子だった。


 もしかすると、赤蔵はこの場所を乗っ取って鬼の根城として使う算段を立てていたのかもしれない。


 だが、城下町の方は酷い有様であった。崩れた家屋や焼け跡が連なり、城には避難してきたと思しき町人たちが身を寄せ合っている。


 戦える大人はほとんど全滅し、残されたのは親を失った子供たちばかりだ。


「ユキマルー! オボロー! どこに居るのですかー?」


 そんな場所へ堂々と不法侵入したルッタは、大きな声で呼びかけながら城内を歩き回る。やっていることだけを見れば、即日捕らえらえて打ち首になる案件だ。


「ほ、本当に来たでござる……! 昨日の今日で……!」


 すると、いつの間にか彼の背後に立っていたオボロが、困惑気味に呟くのだった。


「あ、こんにちはオボロ! 約束通り宝箱を開けに来ましたよ!」


「……それは許されていないはずでござるが?」


「あう……」


 さりげなく城内のアイテムをゲットする許可を貰おうとしたルッタだったが、一瞬で却下される。


「――別のお礼だったら、きっとユキマル様がしてくれるでござる。このまま歩き回られても迷惑だから、案内するでござるよ!」


「はい、よろしくお願いします!」


 かくしてルッタはオボロに連れられ、タヌキ城の大広間へと通されたのだった。


「……ここでござる」


「失礼します!」


 広間に足を踏み入れると、最奥には大座布団に正座するユキマルの姿がある。


 昨日よりは顔に血色が戻っているが、目の下には薄く隈ができていた。


「るっ太……!」


 予想外の訪問者に、目を見開くユキマル。


「……歓迎するとは言ったが、まさか目の前で消えた翌日に現れるとはな。私はそなたのことを、心優しい妖怪か何かのたぐいだと思っていたぞ」


「心外です! 僕は妖怪ではありません!」


 ルッタは即座に抗議する。


「……ふふっ、すまぬな。だが――来てくれて嬉しいぞ」


 ユキマルが柔らかく笑う。


 しかし、その後で申し訳なさそうに続けた。


「お礼をしたいところだが……見ての通り、この城に渡せるような物は何も残っておらぬ。全て鬼どもに奪われてしまったからな……」


「………………」


 タヌキ城の宝を奪った鬼たちを屋敷ごと焼き払った張本人であるルッタは、無言で視線を逸らす。


「もう少し……待ってもらえるか?」


「いいえ、お礼は、いりません……」


 どうやら、珍しく気まずさを感じているらしい。


「……そうだ。あの場所の焼け跡を探せば、何か残っているやも知れぬ。全てそなたが持って行ってよいぞ」


「……わかりました。後で探してみます」


 彼はそう答えたが、特殊な空間であるダンジョン内で焼失した物を見つけるのは、ほぼ不可能であると理解していた。


(タヌキ城は……便利なアイテムや装備品があって……お金も沢山見つかるボーナスマップなのに……残念です……)


 心の中で落胆するルッタ。


 ――しかしその時、彼はあることに気づく。


(……いえ、よく考えたら……原作で主人公たちがタヌキ城を探索するのはもっと後の話です。……ということはつまり、ユキマルはこれから神子の力でお城を復興するのでは……!)


 刹那、彼の瞳がきらきらと輝き始める。


(そうです! 今、僕がお城の復興を手伝えば……アイテムの復活も早まるかもしれません! おまけに恩人扱いになって、宝箱の開封許可も出してくれるのでは……!?)


 どうやら、ルッタはタヌキ城の新しい攻略ルートを見出したらしい。


「――ところで、ユキマル! 何か困っていることはありませんか?」


 いきなり元気を取り戻し、前のめりでユキマルに詰め寄るルッタ。


「そ、そなたは……なぜ見ず知らずの私たちに協力してくれるのだ……?」


 一方、ユキマルの方はあまりにも積極的な態度に、動揺を隠せていない様子である。


「あまりユキマル様を困らせないで欲しいでござるよ、るっ太。……困っているも何も……この城に戦える者はほとんどおらぬので、ユキマル様のお力がなければあっという間に他の妖怪やら敵国やらに攻め込まれて滅んでしまうでござる。……今はユキマル様が一匹の鬼から奪った活力で生み出した式神を使役して、かろうじて周辺の警備を成り立たせている状況でござるからね」


 オボロは一息でこの城の状況を説明した。


「お、オボロ……いくら相手がるっ太だからとはいえ、外部の者にそのような話をするのは……」


 ユキマルに諫められるオボロ。


「――――っ!?」


 彼女は、はっとして口を塞ぎ、懐から短刀を抜き放った。


「も、申し訳ございませんユキマル様ッ! 忍びが情報を漏らすなんて、一生の不覚ッ! この場で腹を切るでござるッ!」


「や、やめろオボロ! よくよく考えてみれば、命の恩人になら話しても良い……! そなたの判断は間違っておらぬ!」


 暴走する家臣を慌ててなだめるユキマル。


「――なるほど! つまり、町とお城を守れる人手が欲しいのですね!」


 対して、ルッタは話の流れなどお構いなしに立ち上がる。


「え……?」


 ユキマルとオボロはその場で動きを止め、きょとんとした表情でルッタを見た。


 彼の手には、いつの間にかアステルリンクが握られている。


「ちょうどいい人が居るので、僕が連れてきます!」


 そう言い残し、ルッタは再び光と共に姿を消すのだった。


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