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第33話 鬼だって経験値にします!


 屋敷の中から突如として出現した鬼を前に、オボロは素早くその場から離れて身を隠そうとする。


「おーーーーーーーーーーっ!」


 だが、ルッタは反対に雄叫びを上げながら一直線に突撃した。


「えーーーーーーーーーっ?!」


 騒ぎを起こすなと忠告してからすぐの蛮行に、絶叫するオボロ。


「あァ? 随分と威勢のいいガキだなぁ」


 突進してくるルッタに気づいた異形の鬼は、手に持っていた大きな棍棒を構えて舌なめずりする。


「まァいい、擦り潰して食ってや――」


 鬼が言い終わる前に、ルッタは音もなく懐に潜り込んで強烈な一撃をお見舞いした。


「とうっ!」


「ぐッ、かはァッ!?」


 吐血しながら吹き飛び、茂みの中に突っ込んで木の幹に激突する鬼。


「うっ、あぁ……?」


 彼は最初、何が起きたのか分からなかった。


 腹部に激痛が走り、気がつくと吐いた血で両手が真っ赤に染まっていたのである。


(な、なんだこれ……? ガキはどうなった? なぜ俺の体が動かない……っ!)


 困惑する彼の前に、まんまるの瞳を大きく見開いた少年が近づいてくる。


「いーえっくすぴー! いーえっくすぴー!」


 楽しそうに歌う彼は、いつの間にか鬼が手放していた大きな棍棒を引きずっていた。


「ま、待て……やめろ……っ!」


「いーえっくすぴーはー! けいけんちのことなんですよー!」


 ルッタは鬼の前に立つと、謎の歌を口ずさみながらゆっくりと棍棒を振り上げる。


「お、オレはまだ……そんなに殺してないっ! 女子供だって……ほんの数人食っただけだッ!」


「ドロップアイテムッ!」


 ――グシャッ!


 鬼の命乞いは一切聞き入れられず、ルッタの棍棒が無慈悲に振り下ろされるのだった。


「あ、あやかしを……これほど容易く仕留めるなんて……!」


 犯行の一部始終を目撃していたオボロは、驚愕の表情で呟く。


 ――ヒサギリにおいて、魔物はあやかしや妖怪と呼ばれている。精霊も妖怪として扱われる場合が多く、人に味方する良い妖怪と悪事を働く悪い妖怪がいるといった考え方をするのだ。


 悪事を働いていた人間が鬼になるようなことも稀に起こるらしく、人と妖怪の境目が曖昧なところがヒサギリの特徴である。


 しかし、ルッタにとっては原作において敵扱いだったか味方扱いだったかが判断基準の全てだ。敵であれば人間も鬼もワームも等しくモンスターであり、言葉を喋っても喋らなくても経験値なのだ。


 命乞いが通用するかどうかは彼の気分次第で決まる。今回はだめだったらしい。


「うーん……ドロップアイテムは棍棒だけだったみたいですね」


 見るも無残な姿に成り果てた鬼の懐を漁りながら、残念そうに呟くルッタ。


 程なくして、鬼はちりとなって消えていく。


「戦闘終了です!」


 その様子を見届けた彼は、達成感に満ち溢れた表情で言った。


「るっ太どのっ!」


 すると背後でオボロの呼ぶ声がする。


「はい? どうかしましたか?」


「拙者に……力を貸して欲しいでござるっ!」


 振り返ると、そこには両手をついて頭を下げるオボロの姿があった。


「なるほど。特殊なイベントが発生したみたいですね!」


 そんな彼女の様子を見て、勝手に納得するルッタ。


「ユキマル様の救出を手伝ってくれるのであれば……拙者、なんでもするでござるっ!」


 必死に頼み込むオボロからは、言い知れぬ覚悟のようなものが伝わってくる。


「でも、僕は秘伝書を入手して分身の術が覚えられればそれで良いのですが……」


 原作にユキマルが登場する以上、オボロの救出作戦が成功することは間違いない。


 スキル習得アイテムが欲しいだけのルッタにとっては、あまり協力する意味がなかった。


「し、忍びの術は秘伝書を読んだだけで簡単に身に付くようなものではないでござるよっ! もし協力してくれるなら、拙者がお主に分身の術を伝授するでござるっ!」


「ふむ……」


 オボロの提案に、少しだけ考え込むルッタ。


(もしかすると、原作にはないオボロルートを発見してしまったのかもしれません! それはそれで面白そうですね!)


 特に悩んでいるわけではなさそうだ。


「分かりました! 僕はオボロに協力します!」


「ほ、本当でござるか……!?」


 恐る恐る顔を上げるオボロ。


「はい! 一緒に鬼幻楼きげんろうを攻略しましょう!」


「るっ太……!」


 少年の心優しさに触れた彼女は、感動で目を潤ませる。


「秘伝書を手に入れて、ついでにユキマルを助けます!」


「ユキマル様を助けるのはついでではないでござるっ!」


 かくして、オボロがパーティに加わったのであった。


「それでは、しっかりと僕の後についてきてくださいね!」


 言いながら、ルッタは鬼によって開け放たれた屋敷の入口へと近づく。


「待つでござるよっ!」


 だが、そんな彼のことをオボロが引き止めた。


「え……?」


「忍び込むのは入口からではなく、屋根裏からでござる! ――とうっ!」


 彼女はいつのまにか取り出していた鍵縄かぎなわを投げ、屋根の瓦に引っ掛ける。


「……なるほど。このダンジョンには隠しルートが存在したのですね!」


 原作にはない新要素に、ルッタは興奮を隠しきれない様子だ。


「拙者が上から縄を垂らすので、それを掴んで登って来るでござる。中に入ったら、くれぐれも音を立てぬように!」


 緊張感のない彼に対して念を押すオボロ。


「任せてください! 僕はいつもお屋敷を抜け出しているので、見つからないようにするのは得意です!」


 ……果たして、ルッタとオボロは見つからずに囚われの若君を助け出すことができるのだろうか。

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