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第29話 家族と感動の再会です!


 ルッタとイーリス王女は、教団の隠れ家を突き止めた王国騎士団によって無事に保護された。


 彼らの要求はルッタの言った通り――「魔王の封印場所を教えること」だったが、幸いにもその情報は教団の手に渡らずに済んだのである。


 しかし、良いことばかりではない。


 クロードによって倒されたはずのラヴェルナが、いつの間にか姿を消していたのである。


 それだけでなく、セレーヌをはじめとする幹部クラスの者たちの行方も未だに分かっていない。


 投獄されたのはクラウスただ一人だけであり、おそらく他の者たちは未だに王都地下の迷宮内に潜伏しているのだろう。


 いくつかの不安要素は残るものの、こうしてルッタは無事に家族の元へ帰還を果たすことができたのである。


 騎士団から簡単な聞き取り調査をされ、迷宮で起きたことを掻い摘んで説明した後、ルッタは母のステラと姉のリリアが待つ王宮の客室の前まで連れて来られた。


 式典の翌日の昼のことである。


「ただいま戻りました!」


 そう言いながら、扉を開けた彼を出迎えたのは――


「ルッタっ!」


「むぐっ」


 ステラからの抱擁であった。


「よかった……っ! 本当に……よかったわっ!」


 そのまま胸に顔をうずめられ、じたばたと手足を動かしてもがくルッタ。


「……ぷはっ! お母さま! 胸が大きすぎますっ!」


 どうにか顔を引き離して抗議するが、それは聞き入れられない。


「怪我はないっ?! 何もされなかったっ?! 怖い思いをしたでしょうっ? 私がいながら……ごめんなさい、ルッタっ!」


 再び胸の中に顔を押し込まれ、彼は抵抗を諦める。


「むぐー」


 納得いかないような声を漏らしつつも、とりあえずステラの気が済むまで大人しくしていることにした。


「無事に帰って来てくれてよかったわ……っ! これからは……もう絶対に目を離しませんからねっ!」


 涙ぐんだ声で言うステラ。


(そ、それは困りますお母さま……なるべく僕からは目を離していてください……!)


 ルッタにとっては死活問題である。


「……ぷはっ。……僕は無事なので、あまり深刻に考えないでください!」


 ただでさえ厳しくなっている監視の目がこれ以上強まらないよう、頑張って母を宥めにかかる。


「それに僕はレベルが高いので、見守る必要はまったく――」


「ルッタちゃん……っ!」


 母から解放されたと思えば、次はリリアに横から抱きしめられた。


「り、リリア姉さま……近いです……」


 頬がぴったりとくっ付き、そのままめり込んでくる。


「あの、つぶれます……」


「ルッタちゃああああああああんっ!」


 次の瞬間、リリアはわんわんと声を上げて泣き出した。


「生きててよがっだぁっ! うええええええええええんっ!」


 どうやら、彼女も相当ルッタのことを心配していたようだ。


「ご……ご心配をおかけしてすみません」


「もうどこにも行っちゃダメえええっ! うわあああああああんっ!」


 リリアは涙を流しながらそう叫び、抱き着いたまま全く離れようとしない。


「………………」


 今回もルッタは、姉の気が済むまで大人しくしていることにした。


「……二人とも、少しだけ目に隈ができています。寝不足はステータスの低下を招くので良くありませんよ……?」


 彼は何を言うべきなのかわからなくなり、そんな言葉を口にする。


「あなたが怖い思いをしているかもしれないのに……眠れるはずがないじゃない」


 ステラは涙ながらに言った。


「……なるほど、そういうものなのですか?」


「ねえ、ルッタ……。リリアも、お父さまも、私も……みんなあなたのことを愛しているのよ? もし、ルッタがいなくなってしまったら……みんなとっても悲しいの」


「それは……家族だから、ですか?」


「ええ、そうよ。――あなたは大切な家族だから」


「ふむ……」


 ルッタはしばらく黙り込んだ後、リリアとステラの顔を交互に見つめ、考え込む。


(僕もお父さまやお母さまやリリア姉さまがいなくなったら……悲しいと思うのでしょうか? ――そういえば、イーリス王女も泣いていました。あれは……そういうことだったのですね)


 そして、一つの結論を出した。


(つまるところ……家族だから好感度は既に限界まで高まっている――いわばカンスト状態ということなのでしょう。そして、好感度がカンストするとみんなが心配性になってしまう……というデメリットが存在するみたいです! これは前世の記憶にもない新発見ですね!)


 ルッタは人間の心というものを少しだけ理解し、成長した。……と、本人は思っている。


「僕にもだいぶ分かってきました……!」


 しかしその時――


「ぐすっ……ルッタちゃん……今日からは一緒のベッドで寝ましょうねっ! 今度は私が……絶対に守るわ……っ!」


「えぇっ?!」


 姉からの提案を聞き、露骨に嫌そうな顔をするルッタ。


 何故なら、リリアが隣で寝ていると夜中に部屋を抜け出す難易度が跳ね上がってしまうからだ。


(こ、困ったことになりました……! 今回は避けられないイベントでしたが……あまり家族に心配をかけすぎるのは良くないみたいですね!)


 理由はともかく、家族に対する思いやりの気持ちをほんの少しだけ身につけたルッタ。


 今回の事件を通じて、彼もまた一歩、大人に近づいたのだろう。


(こうなったら――僕がいなくなっても、誰も気にしないで済むような方法を考えなければいけません!)


 たぶん。


「ルッタ。今日は……何かしたいことはある?」


 ステラは優しく彼に問いかける。


「うーん……お祭りのわたあめが食べたいです!」


 ――かくして、波乱に満ちた建国記念祭は幕を閉じたのだった。

 

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