第28話 第三王女誘拐事件、解決!?
「セレーヌのローブを持ってきました! 魔法防御力が少しだけ上がります!」
牢屋から戻ってきたルッタは、強奪――もとい拝借してきた白いローブを、下着の上から羽織らせた。
「装備完了です!」
「……感謝しますわ」
イーリスはローブの襟元をぎゅっと握りながら続ける。
「ぶかぶか、ですわね」
「それなら僕の服を着ますか? セレーヌの何かでべとべとしていますが」
「……。え、遠慮しておきますわ……っ」
少しだけ顔を背けながら答えるイーリス。なぜか恥ずかしいそうである。
「――では、出発しましょう!」
「…………そうですわね」
かくして、彼らは再び牢獄からの脱出を目指して歩き始めたのである。
(クラウス、セレーヌ、ボグレス、ガルゴルが居たのですから……きっと、他の経験値――ではなく、ボスキャラたちもこの先にたくさん待ち構えているはずですっ! ドキドキが止まりません!)
ルッタはそんな期待に胸を膨らませていた。
「……でも、どうしてわたくしたちは誘拐されてしまったのでしょう? あの人たちは……一体何者だったんですの……?」
その時、不意にイーリスが呟く。
「あれ? 知らなかったのですか? 僕たちを誘拐したのはノクト教団と呼ばれる、魔王復活を目論む怪しげな集団ですよ!」
「ノクト教団……! な、名前は聞いたことがありますわ……!」
「彼らは王族から魔王の封印場所を聞き出そうとしているのです!」
原作知識を元に、そう断言するルッタ。
「で、でも……わたくし、魔王がどこに封印されているかなんて……知りませんわ」
「では、その情報と引き換えにイーリス王女を返す……というような交渉をしようとしているのでしょう!」
「……妙に詳しいんですのね」
「知っていますから!」
その返事は一歩間違えれば教団の人間であることを疑われかねないものだったが、すっかり彼のことを信頼しきっていたイーリスはこう思った。
(さっきの女の人が言った通り……やっぱりルッタには未来が見えているのですわねっ! とってもミステリアスっ!)
どうやら、王女は誘拐の心労によって正気を失ってしまったらしい。
(ひょっとすると……隠し場所さえバレなければ魔王が復活せず、星の終焉も起こらないのでしょうか? もしかしたら、僕の生存ルートが開拓できるかもしれません!)
一方、ルッタはそれなりに真面目なことを考えていた。
「けれど……そもそもお父さまは魔王の隠し場所を知っているのかしら?」
イーリスはそんな疑問を口にする。
「はい! 当然知っていると思いますよ! 何せ、この国を支える魔力の源である魔素結晶は魔王心核と呼ばれる魔王の心臓部が結晶化したもの――いわば魔王復活のキーアイテムですからね!」
「………………え?」
唐突にこの国の真実を教えられたイーリスは、考えるポーズをしたまま固まった。
「あっ、知らされていなかったのですね。そうであれば、王女様にこの情報を教えるべきではありませんでした! ごめんなさい!」
ルッタは慌てて自分の口を両手で塞ぐ。
「今のは忘れてください!」
「む、無理ですわっ!」
――そんなやり取りをしている間に、二人は上階へと続く階段の前へたどり着いたのだった。
「……階段の先から人の気配がします。どうやら、複数人の見張りがいるみたいですね」
ルッタは耳を澄ませながら王女に伝える。
「あの……ルッタ? 本当に先ほどの話を全てなかったことにするおつもりですの……?」
あまりにも強引な話題転換に、イーリスは戸惑いを隠せていない様子だった。
「はい! そんなことより、今はまだ見ぬ経験値ですっ!」
「まだ見ぬ……けいけんち……?」
「きっと、この上に沢山いますよ!」
そう言って、ルッタは希望に満ち溢れた笑みを浮かべて階段を上り始める。
「お、お待ちになって……!」
イーリスは地面に擦れるローブの裾を両手で持ち上げながら、必死に彼の後を追った。
そして、上階へたどり着いた彼らが目にしたものは――
「よぉ、クソガキぃ……久しぶりだなァ?」
見張りをしていた教団の人間たちを今まさに惨殺し、恍惚とした表情で返り血を浴びているラヴェルナであった。
「い、いやーーーーーーーーーーっ!」
あまりにも猟奇的な光景を目の当たりにし、悲鳴を上げてルッタの後ろに隠れるイーリス。
「ラヴェルナ……!」
一方、焼失したはずの経験値と奇跡の再会を果たしたルッタは、感激していた。
「そっちの王女サマには興味ねェ。あたしがぶっ殺してぇのはテメェだ。――会いたかったぜ、ルッタ・アルルーッ!」
「僕も……っ、もう会えないかと思っていました……っ! また会えて嬉しいですよラヴェルナーっ!」
涙ぐみながらそう答えるルッタ。はたから見れば相思相愛である。
「い、一体……どういう関係ですの……? あ、あんな野蛮な方……ルッタにはふさわしくありませんことよ……?」
イーリスは嫉妬と困惑が入り混じった複雑な気持ちになりながら、ルッタの服を引っ張った。
「――ところで、どうして僕の名前を知っているのですか? 前に名乗りましたっけ?」
「あァ? そんなの――テメェを殺した後で家族全員皆殺しにするために決まってんだろッ!」
凄むラヴェルナ。彼女のルッタに対する怒りは相当なものらしい。
「それ、僕の名前を知っている理由にはなりませんよね?」
「……つまらねェ御託は終いだ。――死ね、クソガキィィィィッ!」
彼女は絶叫しながら短剣を構え、目にも止まらぬ速さでルッタに接近してくる。
「いざ、勝負です!」
ルッタも戦闘態勢に入り、嬉々として叫んだその時。
「業炎ッ!」
「あづッ?! ぎゃあああああああああああッ!」
何者かの放った火魔法が、ラヴェルナの全身を焼いた。
「あーーーーーーーーっ!?」
二度も大切な人を失ったルッタの悲痛な叫びが、ダンジョン内に響き渡る。
「無事かルッタっ!」
燃え盛るラヴェルナの背後から聞こえてきたのは、父であるクロードの声だった。
「うっ、がはッ!」
「お、お父さま……」
黒焦げになって膝をつくラヴェルナと、絶望のあまり膝から崩れ落ちるルッタ。
クロードは焔剣を収めて彼に駆け寄り、力強く抱きしめる。
「怪我はなさそうだな。無事で良かった……!」
「おとう、さま……」
経験値を奪われたルッタの瞳から、一筋の涙が零れ落ちるのだった。
「わたしたち……助かったんですのね……」
その様子を見て緊張が解けたイーリスは、ほっと一息つく。
「ひっぐ……うぅ……おーいおいおいっ!」
一方、ルッタは抱きしめられたまま声を上げて泣き始める。
(ルッタ……本当は不安で泣きたかったのに……わたくしのために必死で我慢してくれていたのですわね……!)
そんな彼に対し、イーリスは聖母のような眼差しを向けるのであった。
「――泣くな、ルッタ。お前は強い子だろう?」
「でもっ、こんなのっ……あんまりですよぉっ! おーいおいおいおいっ!」
「まったく……やれやれだな」
かくして、魔導騎士クロードの尽力により第三王女誘拐事件は無事に解決したのである。
めでたしめでたし。




