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第25話 ドロップアイテムを漁りましょう!


「やだぁ……げーむっ、やだぁ……!」


 スライム化したままバラバラになったセレーヌは、まるで幼い子供に戻ってしまったかのように呟きながら、方々へ散り散りに逃げていった。


「あっ……うぁ、げーむぅっ……こわいぃ……!」


 彼女はしばらくの間このままだろう。正気に戻ることができるかどうかは不明だ。


「うーん……?」


 思いがけぬ幸運により洗脳から解放されたルッタは、うめき声を上げながらゆっくりと起き上がる。


 先ほどまでスライム化したセレーヌに取り込まれていたため、体はべっとりと濡れていた。


「うぅ……何だか、まだ纏わり付かれているみたいで気持ち悪いですわ……お風呂に入りたいですの……っ」


 隣で倒れていたイーリス王女は、眉をひそめながら呟く。


「そういえば、セレーヌがいませんね。……どこへ行ってしまったのでしょうか?」


 一方、ルッタは周囲をきょろきょろと見回しながら言った。


 セレーヌはすでに逃走した後である。


「せっかくゲームについてお話しできると思っていたのに……」


 どうやら、自身が原因であることには一切気付いていないらしい。


「………………」


 イーリスは、そんな彼のことを何も言わずにじっと見つめた。


(ゲームがどうのこうのと……言っていましたわね。……おそらく、わたくしの知っている卓上遊戯テーブルゲームとは別のもの……。それを知ってしまうと正気を保てなくなってしまうだなんて、恐ろしい呪いの言葉ですわ……!)


 弾け飛ぶ寸前のセレーヌが発した悲鳴を思い出し、身震いする。


「ところで、イーリス王女はゲームについて知りたくありませんか?」


「え、遠慮しておきますわ……!」


「そうですか……」


 肩を落としてしょんぼりとするルッタ。彼はこのようにして理解者を失っていくのだ。


「――とにかく! まずはここを出る方法を考えなくてはなりませんわね」

 

 ぱん、と手を叩き半ば強引に話題を変えるイーリス。


「その前にまずはドロップアイテムですよ!」


「ど、どろっぷあいてむ……?」


 困惑するイーリスをよそに、セレーヌが脱ぎ捨てた白いローブに近づいて懐を漁り始めるルッタ。


「おお……アステルリンクを取り返しました!」


 彼がまず最初に発見したのは、没収された古代端末であった。


「これがあれば……!」


 ひとまず起動して他の場所へ転移しようと試みるが、「現在は移動できません」と表示されるだけである。どうやら、彼の目論見は外れたらしい。


「……なるほど、イベント発生中は使用不可ということですね……!」


 ――基本的に、結界によって外界と遮断された領域では、アステルリンクによる転移が機能しない仕組みになっている。


 イベントが発生中だからというわけではない。


「ええと、他には……」


「あの……ルッタ? いくら相手が先に罪を犯したからといって、持ち物を奪おうとするのは……王国の法に反しますわよ……?」


 嬉々としてセレーヌの所持品を漁るルッタに対し、イーリスは王女としてそんな忠告をした。


「王国の法よりもゲームシステムの方が上なので大丈夫です! 原作でも主人公たちが捕まっていないので、何ら問題はありません!」


「王女を前に堂々と言い切るその度胸は認めますわ……何を言っているのかあまり分かりませんけれど……」


 ドロップアイテムに執念を燃やす現在の彼を止めることができる者など存在しないのである。

 

「次は……『美肌スライムオイル』を発見しました!」


 その発言に、イーリスの眉がぴくりと動く。


「……使えばお肌がつるつるになると言われる……王室御用達のお化粧品ですわね。……残念ながら、わたくしはまだ使わせてもらえませんけれど」


「それなら、これはイーリスにあげますね!」


「まあ、ルッタったら……っ!」


 どうやら、彼女の持つ正義の心は簡単に攻略されてしまったようだ。


「後は……『魔力回復のポーション』がありますね! これを使えば、僕の魔法で牢屋を壊せるかもしれません!」


「ほ、本当ですのっ?! 魔法でっ?!」


「はい。――これを飲んだら爆破するので、僕から離れてください」


「流石ですわルッタっ!」


 大喜びしながら、ルッタに抱きつくイーリス。


(なんだか……胸がドキドキしますわ……。こんな気持ち、初めてっ……)


(離れてくださいって言ったのに……なぜ……?)


 かくして、脱出の希望が見えて来たのであった。


 *


爆破エクスプロード


 ――ドゴーンッ!


 ルッタの放った魔法により、牢屋の鉄格子は跡形もなく吹き飛ぶ。


(わたくしより年下の男の子が……適性なしでこの威力の魔法を……?!)


 イーリスは内心驚愕していた。


(……なんだかムカムカしますわ。こんな気持ち、初めてっ……)


 だがそれ以上に、ルッタの才能に嫉妬していた。


「大きな音を出しましたが……誰も来ませんね。この場の誘拐犯はセレーヌしか居ないのでしょうか?」


 そんなことなど知らないルッタは、牢屋の外へ顔を出して周囲を確認しながら呟く。


「そもそも、この場所は……一体どこなのかしら?」


「わかりません!」


「……わたくしが、ルッタの前を歩きますわっ!」


 謎の対抗心を燃やし、震えながら先に牢屋の外へ出るイーリス。


「分かりました! もし誰か出てきたら、最初の経験値はイーリス王女に譲ってあげますね!」


 ルッタはそう言いながら彼女の後に続く。


「け、けいけんち……?」


 恐る恐る歩き始めたイーリスが、思わずルッタの方へ振り向いたその時。


 ――ぼふっ!


「んぐっ!」


 彼女は、曲がり角から姿を現した何かに顔から激突してしまう。

 

「おい、ガキどもッ! なぜ外に出ているゥッ!?」


「セレーヌは……どうした……?」


 そこに立っていたのは、全身に刺繍を入れた二人組の大男――ノクト教団執行機関白の背教者(イノセント)の次なる刺客たちであった。


 全てを粉砕する爆腕ばくわんのボグレスと、全てを弾き返す鋼腕こうわんのガルゴルは――原作においては中ボスとして登場する、レベル三十相当の強敵である。


 まるでオーガのような熱気を孕んだ赤肌の腕を持つ大男がボグレス、ゴーレムのように固くごつごつとした腕を持つ大男がガルゴルである。


「あ、あわわわ……!」


 恐ろしい顔つきをした巨体の誘拐犯を前に、なけなしの勇気が消失してしまうイーリス。


「よかった。セレーヌ以外のモンスターもちゃんと居たのですね――」


 一方のルッタは、にっこりと笑いながら拳を握りしめるのだった。


 ――果たして、彼らの運命やいかに。

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