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第14話 魔法適性の診断でやってしまいました!?


 リゼリノ王国の建国記念式典は、王宮の中央広間にて行われる。


「えー、まずは私から、開会の挨拶をさせていただきます」


 開会の挨拶をしたのは、王立魔法学園の代表として招かれていた学長の老人だった。


「えー、今から四千年ほど前……つまり神話の時代、女神フェリアと共にこの地を支配していた魔王を封印し、リゼリノ王国の礎を築いたとされる大聖女のリーズ女王陛下は、本日を建国日と定めました……そして――」


(お、お話が長すぎます……っ!)


 いきなり始まった学長の長話攻撃に、ルッタは苦しんでいる様子である。彼は何よりも退屈を嫌うのだ。


「えー、そのような経緯で、初代女王陛下はこの地を王都とし、ご自身と女神様の名前を付けたわけでありまして……それ以来――」


(フルボイスなのに……メッセージスキップができないなんて……っ!)


 両手の拳をぎゅっと握りしめ、時間が過ぎ去るのを待つルッタ。


「えー、ご存知の通り、建国記念の日には、王国全土の貴族が王都へ集まるように定められています。これは、初代女王陛下が魔王封印の際に――」


(あのおじさま……まだお話を続ける気なの……っ?!)


 それまで大人しく座っていたリリアも我慢の限界を迎えてしまったらしく、絶望の表情をしていた。


「……ごほん。……というわけで、以上をもって開会の挨拶とさせていただきます」


(や、やっと終わりましたっ! 魔法の修行より苦しかったです……!)


 ――結果的に、学長の挨拶はその後にあった国王の演説よりも遥かに長かった。


 その場にいた子供たちの忍耐力を大きく削ったことは言うまでもない。


 その後は順調に式典が進行していき、いよいよ貴族の子供たちの魔法適性診断を行う時がやってきた。


 この儀式の対象となるのは、主に七歳から十二歳の子供である。


 ルッタは少しだけ早いが、リリアと一緒に申請を行ったので参加することになっていた。原作では参加する前に魔物に食べられてしまうので、かなりタイミングが早まったと言える。


(前に簡単な診断をやった時は何の適性もありませんでしたが……より詳細に判別できるこの方法なら、ルッタの隠された才能が明らかになってしまうかもしれません!)


 そんな期待を胸に、緊張するリリアの隣に並ぶルッタ。


 やがて、王宮の中央に無色透明の巨大な宝玉――元素エレメンタル宝玉オーブが乗った台座が置かれ、その前に子供たちが整列させられる。


「えー、それでは、一人ずつ元素適性の診断を行います」


 最初に長い挨拶をした学長が、宝玉の隣に立って言った。


 この適性診断の結果によって、次代を担う子どもたちの命運が決まると言っても過言ではない。


 貴族の家系に生まれておきながら何一つ適性を持たない子供は、間違いなく嘲笑の対象となるだろう。


 かつては一家の恥として追放されることすらあったようだ。


「えー、まず始めに――イーリス・リズ・フェリア王女。どうぞ前へ」


「はい」


 最初に名前を呼ばれたのは、美しい金色の髪と瞳を持つ少女――王国の第三王女であった。


 周囲よりもひときわ目立つ豪華なドレスに身を包んだイーリスは、ゆったりとした優雅な足取りで宝玉の前へ進み出ると、そっと手をかざす。


「おお……ッ!」


 すると、宝玉は美しい金色に光り輝いた。


「これは……光元素に対する素晴らしい適性を示しておりますな……! 元素エレメンタル宝玉オーブをここまで綺麗な金色に光り輝かせることができる者は、イーリス王女様の他に存在しないでしょう……!」


「お褒めいただき光栄ですわ」


 イーリスはそう言って得意げに微笑む。


 彼女が元の立ち位置に戻ると、貴族たちから盛大な拍手が湧き起こった。


(王女として、このくらいは当然ですわ! さあ、もっとわたくしを褒め称えなさい……!)


 全身で賞賛を浴びながら身震いするイーリス。


 基本的に、王族の人間は式典より前に診断を済ませた上で参加するかどうかを決めている。万が一適性がなかった場合、王家の威信に関わるためだ。


 彼女がこの場に立っている時点で、このような結果になることは決まっていた。


(うーん……イーリスは光属性の攻撃魔法と回復魔法を両方使えますが、加入させられる時期が遅くて、あまりパーティ入りできない不憫なキャラです……。今のうちから関わっておけば、活躍させることも可能……でしょうか?)

 

 しかし、原作におけるプレイヤーからの評価は微妙の一言に尽きる。


 設定だけは優秀だが、実際に仲間になると大して使えない。


 そんな彼女に対してプレイヤーたちが付けたあだ名は――あまりにもかわいそうなので、ここでは伏せておく。


「えー、続いては……グラン・デラ・ヴァレット。前へ」


「はい」


 王女の次に出てきたのは、真っ黒な髪をしたつり目の少年――王国三大貴族の一つであるヴァレット家の長男である。


 彼が手をかざすと宝玉は輝きを失い、真っ黒に変色した。


「ほう……これは、闇と土の元素が混ざり合った時に起こる特殊な反応ですな。二つの元素を遜色なく操ることができる、優秀な複合属性型であると言えるでしょう……!」


「ふん」


 グランは当然だと言わんばかりに鼻を鳴らし、威張ったまま元の立ち位置へ戻る。


(分かり切ったことばかり……つまらない儀式だ!)

 

 彼はアルティマ・ファンタジアの本編にて、主人公の前に立ちはだかる極悪非道な悪役貴族として登場する。


 自身の才能に溺れ、魔王と契約して眷属である魔人に成り下がり、最後は誰からも見放されて主人公に討たれる哀れな存在なのだ。


 行く先々で現れては主人公たちの妨害をしてくるため、プレイヤーからは嫌われている……かと思いきや、倒した際の経験値やドロップアイテムが毎回美味しいので別の意味で好かれている。


 ストーリー上で主人公たちを裏切ってからはフィールドマップにも登場するようになるため、見かけたらとりあえず討伐される不憫なキャラだ。


 そんなグランを目の当たりにしてしまったルッタは――


(経験値だ……! まだ、成長しきっていない経験値です……っ!)


 彼に熱い視線を送っていた。


(まだ……っ、今はその時じゃありません……! もっと成長して……立派な経験値になってからです……っ!)


 拳を握りしめ、必死に衝動を抑えるルッタ。


(まだ……っ、経験値にするのは……がまんです……っ!)


 式典が始まってから、彼はずっと我慢させられてばかりだった。


(がまん……っ!)


 ――その後も順番に子供たちの診断が進んでいき、いよいよ二人の番が回ってくる。


「リリア・アルルー。前へ」


「……はい」


 名前を呼ばれたリリアは、緊張した面持ちで宝玉の前に立つ。そして深呼吸をした後、ゆっくりと手をかざした。


「…………あら?」


 すると次の瞬間、宝玉が七色に光り輝き、その場に居た人間たちがざわつき始める。


(わ、私……何かいけないことをしてしまったのかしら……?)


 不安になり、おろおろするリリア。


「これは珍しい……! 全ての元素を意のままに操れる全属性型ですな……! 七色に光り輝く元素エレメンタル宝玉オーブを見たのは私も初めてです……!」


 学長は驚いた様子で宝玉を眺めながら続ける。


「ですが……前例が少なく非常に難しい適性であると言えます。この素質を生かすも殺すも、あなた次第でしょう……。魔法の習得を頑張ってくださいね」


「……は、はい、頑張ります」


 リリアは小さくお辞儀をすると、緊張しきった表情で戻ってきた。おそらく言われた言葉はほとんど耳に入っていないだろう。


 ――そうして一通り拍手が収まった後、いよいよルッタの番が回ってくる。


「えー、最後に……ルッタ・アルルー。前へ」


「はい!」


 誰よりも元気よく返事をし、軽やかな足取りで宝玉の前へ進み出るルッタ。


(何かしら起きてください!)


 彼は期待を込めて手をかざし、宝玉へ魔力を送り込む。


「………………」


「………………」


 しかし案の定、色が変化することはなかった。いつまで経っても無色透明のままである。


「……適性なし。無属性型ですな」


「ショックです!」


「……ごほん。えー、あまり気を落とさないように…」


「はい! ありがとうございました!」


 ルッタは一礼し、そのまま元の立ち位置に帰還した。


「ルッタちゃん……」


 リリアは、そんな弟の背中にそっと優しく触れる。


「出涸らしか……かわいそうに」


「姉の方に才能を持っていかれたんじゃないか?」


「アルルー家の恥晒しだな。やはり父親が平民では――」


 他の貴族たちの反応は様々であった。ルッタを憐れむ者や、馬鹿にする者たちの声で一時だけ広間がざわつく。


「ふんっ!」


 経験値候補のグランは、そんなルッタのことを横目で見て鼻で笑った。


「……それでは、これにて診断を終わりに――」


 学長が場を閉じるための挨拶をしようとした次の瞬間。


「おっと……」


 パリン、という音と共に宝玉が割れて粉々になる。


「……どうやら、宝玉が古くなっていたようですな。危ない危ない……。皆さま、お騒がせしました」


 一瞬どよめきが起きたが欠片はすぐに回収され、ひとまず式典は終了するのだった。


 *


「ルッタ君、か……」


 人のはけた会場にて、学長は回収された粉々の元素クリスタル宝玉オーブを見て呟く。


「なかなか面白い子ですな」


 ――あの場に居たごく少数の人間だけが、宝玉を割った子供がルッタであることを見抜いていた。


(……適性はともかく、魔力量で王族を上回るのはちとまずい。少しだけひやっとしましたな……)


 この診断で分かるのは魔法の適性だけではない。むしろ魔力量の測定の方が本命である。


 だがこの国では、とある理由から王族の人間を魔力で上回ってはいけないという暗黙の掟があった。


 そもそも努力で上回ること自体が非常に難しいため半ば形骸化しているが、少なくとも公の場では王族の示した実力に忖度しなければいけないのである。


 つまるところ、レベル上げを続けたルッタは既に規格外の存在となりつつあったのだ。

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