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第126話 運命の日がやって来ました!


 精霊を連れ回してべとべとにしたり、錬金術師の作り出した薬を世界中にばら撒いたり、凶悪な賞金首を換金したりしている間に月日が流れ、いよいよその日が訪れた。


 時は聖歴せいれき三千九百九十九年の末。


 本日、大陸全土を揺るがす大災害――星災禍テルストルムが発生し、平和だった世界は終わりを迎えることとなる。


 少なくとも、原作ではそうだった。


(ついにこの日が来てしまったのですね……!)


 早朝、いつも通り目覚めたルッタは、勢いよくカーテンを開く。


 窓の向こう側には、雲一つない青空が広がっていた。あまりにも穏やかな空を見て、ルッタはこう口にする。


「今日もいいグラフィックです!」


 気合いは十分であった。


(ルッタツーには……ひとまずお休みしていてもらいます!)


 いざという時の戦力にするため、ルッタツーには自分の中で休んでいてもらう判断を下すルッタ。


(原作では空が暗くなってからイベントが発生していましたが……念のため準備は済ませておきましょう!)


 手早く着替えを済ませたその時、彼の部屋の扉が控えめにノックされる。


「はい!」


 元気よく返事をしながら扉を開けると、そこに立っていたのは眠そうな顔をしたリリアだった。


「ふわぁ……おはよう、ルッタちゃん」


「おはようございます、リリア姉さま!」


 彼女は軽くあくびをした後、目元をこする。


「昨日はあまりよく眠れなかったわ……」


「夜ふかしですか? 珍しいですね!」


 そう言われたリリアは一瞬だけ言葉に詰まり、それから周囲をきょろきょろと見回す。


「あのね……」


 そして、声をひそめて言った。


「ルッタちゃんはあの噂、本当に信じてるの……?」


「噂とはなんですか?」


「今日……世界が終わるって話のことよ……。お父様もお母様も、勉強を教えてくださっている先生も、みんな『そんなことはありえない』と言うのだけど……近頃ルッタちゃんがそわそわしてるから、何だか胸騒ぎがして……」


 主にゲーム・ピコピコ団の活動によって、本日何かが起こるという噂は大陸全土に広まっていた。


 しかしそれを信じる者は少なく、大抵の人間は根拠のない話だと笑っている。


 当然、皆に星災禍テルストルムのことを説明しているルッタもよく笑われていた。


「……つまり、リリア姉さまは僕の話を信じる気になったということですか?!」


 嬉しそうな表情で問いかけるルッタ。


「いいえ。そういうわけではないわ」


 即答であった。


「ひ、ひどいですっ!」


 彼女はルッタのことを溺愛しているが、何でもかんでも言われたことを素直に受け入れるというわけではなかった。


「ただ、心配になってきてしまったから……ルッタちゃんには責任を取って欲しいの」


 そう言って、ぐいっと部屋の中へ踏み込んで来るリリア。


「……責任とは何ですか?」


 ルッタは一歩だけ後ずさる。


「今日一日、ずっとお姉さまと一緒に居ること。お手洗いの時もお風呂に入る時も夜眠る時も、私の隣で過ごしてちょうだい」


「お手洗いの時は嫌です!」


「……じゃあそれ以外で。いいでしょう?」


 気づくと、ルッタはいつも以上に押しの強い姉によって壁際へ追い込まれていた。


(僕はリリア姉さまの目の前で死ぬみたいなので、一緒に居るのは死亡フラグなのですが……)


 困惑するルッタ。


「そうしていないと、ルッタちゃんがいなくなってしまうような気がするの……」


 もしかすると、リリアも無意識のうちに弟の死期が近いことを感じ取っているのかもしれない。


「うーん……」


 そんな彼女の想いを受け取ったルッタは、しばらく考え込む。


「今日は色々と忙しくなる予定なので、他の日にしてください!」


 そしてあっさりと断った。


「そんな……!」


「リリア姉さまは、今日をもって弟離れするのです!」


「ひ、ひどいわ……!」


 ――かくして、リリアはその場から立ち去り、自室で精霊たちに慰められながら過ごすことになるのだった。


(よし、これで最初の死亡フラグを回避しました!)


 無事に姉を遠ざけることに成功したルッタは、意気揚々と部屋を出る。


 その後は庭で日課のワーム潰しを終えた後、家族で朝食をとった。


「ぐすん……お母様、ルッタちゃんが酷いの……」


「あら、リリアがそんなことを言うなんて珍しいわね。喧嘩でもしたの?」


「今日はずっと一緒に居ようって言ったのに……『お姉さまは弟離れするべきです』って言うのよ……」


「それはルッタが正しいわ」


 食卓でのリリアの訴えは、母によってあっさりと退けられてしまった。


「おいおい、リリアがかわいそうじゃないか。お姉ちゃんには優しくしないと駄目だぞ?」


「お父様……!」


 しかし、父は彼女の味方をしてくれるようだ。


「一緒に居ないのも優しさです!」


 ルッタはそんな反論をする。


「なるほど。深いな」


 一緒に居なければ、目の前で弟の死亡シーンを目撃する可能性がなくなるからである。


「……確かに。リリアの場合はそうかもしれん」


「お父様……?」

 

 かくして、ルッタは姉に完全勝利したのである。

 

 自由の身となったルッタは、屋敷を隅々まで駆け巡り、運命の時に備えたイメージトレーニングをして一日を過ごす。


 日が暮れる頃には完璧に準備が整い、夕食とお風呂を済ませて自室のベッドに入った。


「これで何があっても大丈夫です!」


 そして、満足げな表情で眠り始め――


「すやすや……」


 そのまま年を越すのであった。


 世界は今日も平和である。





 第五章 『新米冒険者は成り上がる』 完

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