第13話 王都リーズフェリア!
身支度を終え一家揃って馬車へ乗り込んだアルルー家は、お昼前には王都へ到着していた。
彼らの利用する馬車は天馬が引く特別仕様であるため、本来なら二日はかかる距離を半日もかからずに移動することができるのである。
ルッタの入手したアステルリンクを使用すれば一瞬だが、存在が家族にバレると没収されて屋敷から抜け出せなくなる可能性が高いため、もちろん使わない。
加えて、フィールドマップ――もとい、屋敷の外の地形もリアルに作り込まれているので、なるべくワープには頼らず移動したいというのがルッタの考えであった。
そうして真っ先に馬車を降りたルッタは、王宮前の通りを行き交う人々を見て歓声を上げる。
「おお! 人がたくさんいます!」
――リゼリノの王都リーズフェリアは、王城を中心とし、そこから街道が放射状に広がる円形の巨大都市だ。
特徴的なのは、そこから延びる五本の主要街道と、それによって仕切られた区画の中間に存在する五つの広場である。
各広場も街道によって繋がっており、都市全体を俯瞰して見ると、複雑な紋章のように入り組んでいた。
リーズフェリアは高度に発達した魔法と埋没した古代遺産の活用によって生活基盤が整えられており、人口は約百万人に上るとされている。
そして地下には膨大な魔力を有する魔素結晶が存在し、そこから抽出された魔力が照明や熱源に変換されたり、水を浄化したりしているのだ。
王都やその周辺に存在する町村のエネルギーは、魔素結晶によって賄われていると言っても過言ではない。
もっとも、アルティマ・ファンタジアの本編開始時には星災禍によって都市機能が壊滅し、大惨事となってしまうのだが、それは今のところ関係のない話である。
(原作だとほとんど誰もいなかったのに……こんなにも活気に溢れているだなんて感動的ですねっ!)
まだ平和だったころの、お祭りムードな王都を目の当たりにして感傷に浸るルッタ。
(わたあめが食べたいです!)
近くから漂ってくる甘い匂いを嗅ぎ取り、そんなことを思う。
しかし本日の目的はお祭りを楽しむことではないので、王宮前の屋台が立ち並ぶ広場へ行くのは我慢しなければならない。
「うふふ、王都なんだから人が沢山いるのは当たり前だわ、ルッタちゃん」
続いて馬車から顔を出したリリアは、そう言ってくすくすと笑った。
「リリア姉さま! 馬車を降りる時は足元に気を付けてくださいね!」
「ええ、ありがとう」
フリルの付いた綺麗な水色のドレスを身にまとったリリアは、裾をつまみ上げながらゆっくりと馬車を降りる。ルッタはそれをじっと見守っていた。
(今回は製作チームのこだわりが発動しなくて良かったです!)
原作において、リリアにはドジっ子属性が付与されており、馬車を降りる際に一定確率で転倒するという謎の仕様が存在する。
それは戦闘においても同様で、何でもこなせる万能なリリアには他のキャラと比べて転倒しやすいという弱点が存在するのだ。
(リリア姉さまには今のうちからなるべく足元に注意してもらって、転倒に対する耐性を付けてもらいましょう!)
彼が見せた姉に対する優しさは、打算によるものであったらしい。
「いいぞ、ルッタ! 女性に対する気遣いは大切だ! 家柄の良さそうな女の子にも、その調子でどんどん優しく話しかけていくといい!」
そして、父も同じく打算的であった。
「……お父さま、式典はいつ始まるの?」
リリアはそんなクロードに冷ややかな視線を向けつつ、髪を整えながら問いかける。
「もうすぐさ。急ぐ必要はないけどね」
「私……初めてだから緊張するわ……」
「大丈夫! リリアに悪い虫がつかないよう、パパが守ってあげるからね!」
「わるい、むし……?」
リリアは首をかしげた後、ワームのことを思い出して身震いした。
「そ、そんなものがいるのね……王宮なのに……!」
「王宮だからこそ、だよ」
そう断言されたリリアは、更に震えあがる。
「じゃあ、そっ、その時はお願いするわ……お父さま……っ!」
そして、素早く父の後ろに隠れるのだった。
「はっはっはっ! パパに任せておきたまえ!」
久々に娘から頼られたクロードは、非常に満足げである。
「むし……こわい……っ」
しかし、二人の間には重大な認識の齟齬が発生していた。
「――ルッタ、あなたもお友達になる相手はちゃんと見極めるのよ。いいわね?」
ステラはそんな二人のやり取りを横目で見ながら、ルッタの肩に手を置き念を押す。
「もちろんです! パーティ構成は今後のストーリー攻略で重要になってきますからね! しっかりと考えなければいけません!」
「…………? ま、まあ……分かってるならそれで構わないわ。ルッタも、もうお兄さんなんだからしっかりするのよ」
「いえ! 僕はもうおじさんだと思います! 人生二週目なので!」
「……こんな可愛らしいおじさんがいるわけないでしょう? おかしなことを言うんじゃありません!」
「あう…………」
ルッタの考えはあっさりと否定されてしまった。
(……ですが、前世の僕は一体何歳まで生きたのでしょうか?)
彼が思い出した前世の記憶の中に、自身が死ぬ瞬間は存在していない。ルッタの生きた年数をまとめた際、彼がおじさんになってしまうのかどうかは神のみぞ知る。
「さあ行こうか、みんな! もちろん式典には王家の方々もご出席なさるから、失礼のないようにね!」
「……あなたこそ、礼儀にはちゃんと気を付けるのよ」
「手厳しいね……ステラ。肝に銘じるよ!」
苦笑いするクロード。
「そうじゃなくて……あなたのこと、頼りにしているの……」
ステラは夫の隣に立ち、小声で耳打ちする。
「ステラ……!」
「クロード……!」
そうして、二人は互いに見つめ合うのだった。
(僕は何を見せられているのでしょうか?)
(あら……まだまだお熱いのね……お父さま、お母さま……)
ルッタとリリアは、そんな両親のことをじっと見つめる。
「……イベントが進まないので、早く出発しましょう! お父さまとお母さまの仲良しシーンはスキップです!」
――かくして、国中の貴族が集まる波乱の式典が幕を開けたのである。




