第125話 Aランクに昇格しました!
賞金首を四人同時に捕獲したことによって、ルッタは特例的にAランクへ昇格することになった。
その件も含めて色々と話があるらしく、その日ルッタはギルド連盟本部の応接室へと呼び出されている。
「……今日は精霊も一緒か。主人に似て気まぐれだな」
向かいに座るギルドマスターは、ソファーに体をぎゅうぎゅうと詰め込んだルッタ達のことを見て苦笑した。
「リリアお姉ちゃんのお願いだから……気まぐれじゃないもん……」
左端に座る氷の精霊ツララは、不満げに呟く。
「こういう時にルッタを一人で行かせるのは心配だから来たの! 失礼しちゃうわねっ!」
隣の炎の精霊メルカが、腕を組んで威張りながら答えた。どうやら、事あるごとに探りを入れてくるギルドマスターのことを警戒しているようだ。
「お話しするだけだったら、べとべとにならないからね~」
ソファーの右端では、花の精霊フロナが無邪気にお菓子を頬張っている。
「おいし~! あまあま~!」
とても楽しそうであった。
「……あんたはお菓子食べに来ただけでしょ!」
「メルカの分も貰っていい~?」
「ダメ!」
「え~! じゃあ諦める~!」
するとその時、ツララがソファーから少しだけ身を乗り出してフロナの方を見る。
「……私の、一つあげる。……あんまりお腹すいてない」
「ほんと~!? ツララありがと~! だいすき~!」
「ん……うん……」
フロナは立ち上がり、ソファーの後ろを通ってツララの隣に移動する。そんな微笑ましいやり取りを、ギルドマスターは無表情で眺めていた。子供の相手はあまり得意ではないようだ。
めったにお目にかかれるものではない精霊が三体も揃い、目の前で思い思いに騒ぐ様子を不気味に思っているのかもしれない。
「……本題に入らせてもらおうか」
彼がそう切り出すと、ルッタは黙々と頬張っていたクッキーを飲み込んで小さく頷く。
「んぐっ……はい! 精霊の皆さんのことは気にしないでください!」
「お前も似たようなもんだけどな」
「そんなことはありません!」
不満げに眉をひそめて否定するルッタ。
「噂だけ聞くと化け物みたいな功績を残してる冒険者だが、実物を見てみるとただのガキでしかない。そのせいで、かえって底知れない感じがして怖い……ってのが、一般的な冒険者からのお前に対する評価だ」
「ガキという呼び方は失礼だと思います!」
「反論するところはそこでいいのか……?」
ギルドマスターは困惑の表情を浮かべる。ある意味、目の前の少年こそが最も人の理から逸脱した存在のように思えた。深く知ろうとすればするほど、まるで深淵を覗き込んでいるかのような気分になる。
数多くの人間を見て来たギルドマスターにとっても、子供と話をして寒気を覚えるのは初めての経験だ。
「……まあいい。とにかく、今日したいのはお前が捕まえた賞金首たちの話だ」
「そんな気はしていました! 皆さんは牢屋で反省して過ごしていますか?」
その瞬間、ギルドマスターの表情がわずかに硬くなる。
「全員消えたらしいぜ。ある日、忽然とな」
応接室は、一瞬だけ静かになった。
「そうですか。消えてしまったのですね……」
しょんぼりとするルッタ。
――その時は思ったよりも早かった。急ごしらえの分身の術では、所詮この程度である。
「残念です……」
もちろん、分身の術の熟練度が思ったより低くて残念だという意味である。
「単刀直入に聞くぞ」
ギルドマスターは、ゆっくりと身を乗り出した。
「……何でも聞いてください!」
「ルーテ。お前が何かしたのか?」
偽名の方で呼びつつ、じっと射すくめるような目でルッタのことを見る。最悪、この場で事を構えても良いという気迫が感じられた。
「何かというのはつまり、皆さんが消えた理由を――」
「ちょっとッ!」
その時、メルカが強く机を叩いて立ち上がる。
「まさか、賞金首を捕まえてくれたルッタのことを疑うつもりなのっ?! あり得ないわっ!」
精霊たちは事情を知らない。ルッタが心変わりしてバルザールを引き渡したのだと思っている。だからこそ、メルカは純粋に怒っていた。
「いや、あくまで何か知らないかと聞いてるだけで――」
「だいたい、逃げられること自体がおかしいのよっ! ルッタの頑張りを無駄にしたんだから、申し訳ないと思うのが普通でしょっ?! なのに……疑ってかかるってどういうことよ……っ!」
彼女の瞳には悔し涙が浮かんでいた。机に叩きつけた拳が震えている。
「子供だからって……馬鹿にしてるじゃないっ!」
「あの、メルカ? 僕は――」
「大丈夫よルッタっ! 全部……分かってるからっ! 何も言うことなんてないわっ!」
メルカは何一つとして理解していなかった。そこにあるのは、ルッタのことを守らなければいけないという純粋な思いだけだ。
前回バルザールのことを教えた時とは違い、嘘偽りの感じられないその姿を見て、ギルドマスターは深いため息を吐いた。
「……やれやれ。何も知らないなら、聞くことはないさ。脱走に関してはこの都市の騎士団の落ち度だから、俺から謝るようなこともないがな」
「なによそれ……っ!」
メルカの声が震える。
「もういいわっ! 行きましょ、みんな!」
彼女はお菓子を鷲づかみにして頬張り、扉へと向かった。
「お菓子おいしかったよ~! 次はしょっぱいのも欲し~!」
フロナはギルドマスターへ向かって無邪気に手を振る。
「あ、ありがとう……ございました……」
ツララは小さく頭を下げ、二人に続く。
「ええと……色々とごめんなさい!」
ルッタは椅子から立ち上がり、ギルドマスターに一礼するのだった。
「……ああ。こっちこそ疑って悪かったな」
こうして、彼は奇跡的に追求を免れたのである。
「さようなら!」
「……ああ」
皆が去り、部屋に残されたギルドマスターは静かに目を閉じるのだった。




