第124話 無限賞金首です!
ギルドに賞金首を引き渡し、大金を手にしたルッタ。
満足げな表情で外へ出た彼は、路地をいくつも曲がり、水路の脇から下水道の中へと入っていく。
かつてバルザールが隠れ家にしていた場所へ到着すると、そこにはギルドへ突き出されたはずの賞金首たちが勢揃いしていた。
「あぁ……お戻りになられたのですねルッタ様ぁ……!」
「ご無事で何よりですわァッ!」
セレーヌとラヴェルナは真っ先に彼の元へ駆け寄り、両手を組んで祈りを捧げる。
「はい、ただ今戻りました!」
「経験値! 経験値! 経験値でごぜェますわねェ……!」
ラヴェルナは一度精神が完全に崩壊しているので、恐ろしい女盗賊としての人格が消し飛んでしまったようだ。
「うふふ……その様子だと、上手くいったみたいね」
妖しい笑みを浮かべるアルルネ。
「……これで皆さんは捕まったので、今までの行いをしっかりと反省してくだいね!」
ルッタは眉を吊り上げ、賞金首たちに言い聞かせた。
「はいぃ……! きっと、捕まった私も牢屋の中で反省し、ルッタ様に祈りを捧げる日々を過ごすと思いますぅ……!」
嬉々とした表情で答えるセレーヌ。
「アタシも、ルッタ様にこの身を全て捧げる覚悟ですわァッ! 反省! 反省! 反省ェッ!」
彼女らが反省の意味を理解しているかは不明である。
「……まあ、今回ばかりは私も感謝しておきましょう。お陰様で自由の身ですよ」
バルザールは飛び抜けて頭のおかしい二人から露骨に距離を取りつつ、腕を組んで言った。
「感謝ではなく反省をしてください!」
「……反省? 研究結果の反省なら毎回していますよ。当然でしょう」
ルッタの言葉は誰にも届かない。賞金首も相応の曲者揃いなのである。
「それにしても、私達にこのような力を授けてくださるなんてぇ……流石はルッタ様ですぅ……!」
「まさか、東の国のニンジャが使うとされる分身のジツを覚えさせられることになるとは思わなかったわ」
――賞金首たちがこの一ヶ月で習得させられたのは、分身の術であった。
ルッタはヒサギリのダンジョンを巡って秘伝の書をかき集め、オボロに協力してもらって彼らに分身スキルを習得させたのである。
分身を引き渡すことで、賞金首を仲間にしたまま依頼を達成するという、あまりにも凶悪な手法であった。
「……でも、皆さんの分身は素直に言うことを聞くので良いですね! 僕はルッタツーが代わってくれるまでの間、ずっと聞いてくれなくて大変でした!」
ルッタは分身の自分が我慢できずに屋敷を抜け出した時のことを思い出しながら、しみじみと語る。
「傑作ですね。実に面白い話が聞けました。……自制心を持ち合わせていないからそうなるのですよ」
何故か嬉しそうなバルザール。
「だけど、私たちの分身はそのうち消えてしまうのよ? それでも良かったのかしら?」
アルルネは問いかけた。
「そうなった場合は再び懸賞金をかけられる可能性が高いので、もう一度分身を引き渡すことでお金を貰えるかもしれません! 無限お金稼ぎですね!」
あまりにも最悪な案を口にするルッタ。
「……素敵な考えね。そんなことをしたら、ルッタも牢屋へ入ることになると思うけれど」
「それではやりません!」
どうやら、ギルド連盟が懸賞金によって破産する未来は免れたらしい。
「……何にせよ、あなたが捕まえた四人が一斉に消えることになるのだから、疑われるのは確実よ? 大丈夫なの?」
アルルネの指摘はもっともであった。
「疑われても関係ありませんよぉ……」
対して、そんな返事をしたのはセレーヌだ。
「関係ないって……どういうことかしら?」
「何故ならもうすぐ……運命の日がやって来てしまうのですからぁ……!」
原作におけるルッタの死亡日――星災禍が発生するまでの時間は、すでにあと一年を切っている。
「世界が混乱に陥ってしまえばぁ……ギルドはルッタ様のお力に頼らざるを得ませんのでぇ……全てはうやむやになりますぅ……!」
――というのが、セレーヌの推測であった。
「……ああ、そういえばそうだったわね」
「ゲーム・ピコピコ教における運命の日のことを忘れるだなんて、信仰心が足りてねェですわよォッ?!」
怒るラヴェルナ。どうやら、洗脳のされ具合にも個人差があるらしい。
「ルッタ様はぁ……そこまで考えていらっしゃるのですぅ……! そうですよねルッタ様ぁ……?」
「特に考えていませんでした! セレーヌは賢いですね!」
「あぁ……そんなぁ……っ! 作戦を考えた手柄まで私に譲ってくださるのですねぇ……っ! ルッタ様はどこまで寛大でっ、慈悲深いお方なのでしょうかぁ……っ!」
全身をぶるぶると震わせながら、感動の涙を流すセレーヌ。
「天に昇るような気持ちですぅ……ッ!」
信仰心が極まるとこうなるらしい。無敵である。
「……貰った賞金はオボロとユキマルにお礼として渡す予定ですが、皆さんもそれで構いませんか?」
「もちろんですわァ! ルッタ様のお言葉に反対する人間なんて、この場所にはいねェですわよ……!」
頷くラヴェルナのことを、バルザールだけが複雑な表情で眺めていた。
「邪教が勝つか、魔王が勝つか……どちらにせよ終わりですねこの世界は。最悪な時代に生まれてしまったものです」
彼には信仰心が足りていないようだ。




