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第118話 狂気の錬金術師バルザール!


「おおおおおおおおっ!?」


 いつもの洗脳によって、バルザールの頭の中に世界の真実が流れ込んでくる。


(アルティマファンタジア……? この世界は遊びの為に作られたもので、我々は運命通りに動く操り人形に過ぎない……? ……そうか。そういうことだったのか……ッ!)


 今この瞬間、彼は目覚めたのだ。


「なるほど……」


 気付けば、バルザールの目から一筋の涙がこぼれ落ちていた。


「素晴らしい……!」


 常人では決して到達することのできない、この世界の真理。その一端を垣間見た感動が押し寄せてきたのである。


「世界は……そんな姿をしていたのか……!」


 それは神の存在を否定し倫理に背いた彼が、初めて間近で神を感じた瞬間であった。


「おやぁ……ルッタ様の素晴らしさをこんなにも早く理解できた方は、あなたが初めてですよぉ……!」


 覚醒したバルザールの様子を見たセレーヌは、教育の完了を確信し嬉しそうに言った。


「今のあなたであれば……以前よりも仲良くできそうですぅ……!」


 頬に手を当て、恍惚とした表情で言うセレーヌ。


「――いえ、仲良くできませんね」


「…………はいぃ?」


 しかし、バルザールはあっさりと拒絶した。予想外の事態に、セレーヌは困惑した様子で首を傾げる。


「ルッタという少年はあくまでこの記憶の発生元でしかなく、あなたの能力を利用して――いわば記憶の感染を広めているだけです。興味深い存在ですが、崇拝する意味が分かりません。得体の知れない化け物ですよ」


 バルザールはきっぱりとそう言い放った。


「……はい?」


 真顔になるセレーヌ。どうやら、ゲーム・ピコピコ教徒としての洗脳は失敗に終わったらしい。


「……それに、今の衝撃で思い出しました。私に暴行を加えてこんな場所まで連れてきたのは、そのルッタとかいう頭のおかしい少年ですよね? 全くもって腹立たしっ――」


 ――ぼすっ。


 バルザールの腹部に、セレーヌの拳がめり込んだ。


「ごほっ?!」


「あなた……我が主を侮辱するつもりですかぁ……?」


 恐ろしく低い声で問いかけるセレーヌ。


「……野蛮ですね。結局はそれがあなたのほんしょっ――」


 ――ボコッ。ドスッ。バチンッ。


「うっ! ごふッ! いたッ!」


「……あなたには経験値として死ぬまで奉仕してもらう道もあるのですがぁ……そちらの方がよろしいですかぁ?」


 バルザールは決断の時を迫られていた。


 *


「というわけで、これからよろしくお願いしますね! バルザールさん!」


 後日、下水道にあったバルザールの秘密基地から勝手に研究設備を移動させたルッタは、秘密基地に軟禁されている彼に向かって笑顔で挨拶をする。


 ちなみに、セレーヌを含めた数人の教徒たちも協力してくれた。邪教徒の面目躍如である。


「……できればよろしくお願いしたくありませ――「というわけで早速本題なのですが、ムゲン水を複製して欲しいのです!」


「………………」


 彼の言葉はことごとく遮られる運命にあるらしい。話が長すぎるのが悪い。


「確か、ポーションを投げればそれを複製して投げ返してくれるのですよね!」


「何ですかその情報は。事実無根です」


「まずは今から治癒のポーションを投げるので、投げ返してみてください!」


「人の話を聞きなさい」


「えいっ!」


 ――バリンッ!


 ルッタの投擲したポーションの瓶が、バルザールの顔面に直撃してはじけ飛ぶ。


「さあ、『ポーション返し』をお願いします!」


「………………」


 バルザールは状況を理解できず、回復液を滴らせながら頭のおかしい少年のことを無言で見つめていた。


「……何か勘違いしているようですが。私は目が良いので投げられたポーションを受け止めて投げ返すことができるだけです。――今のはあまりにも不意打ちすぎて反応できませんでしたが」


「なんと……!?」


 そう、彼の持つスキル『ポーション投げ』は、単にポーションを投げ返しているだけだったのだ。衝撃の真実を明かされたルッタは、落胆して膝をつく。


「頑張ってバルザールを捕まえたのに……あんまりですっ!」


「人のことを何だと思っているのですか」


「それはもちろん――賞金首ですよ!」


「……それは正しい認識ですね。壊れた頭でもたまにはまともな答えを導き出せるようです」


 彼はため息交じりに言った。内心、はらわたが煮えくり返っていることは間違いない。


「……こうなってしまったのであれば、仕方ありません。ギルドに引き渡して……お金を貰います……」


 がくりと肩を落としながら呟くルッタ。そもそも、それが冒険者として正しい行いである。


「行きましょう、バルザールさん……」


「――できます」


 その時、彼は早口で言った。


「え……?」


「ポーションの複製くらい、簡単にできますよ。当然でしょう。あなたに協力します。そのムゲン水とやらを見せてください」


 必死である。


「ほ、本当ですか……!?」


「もちろんです。私に任せなさい」


「ありがとうございますっ! バルザールさんっ!」


 ルッタは感激で目を潤ませながら言った。


「……やれやれ、これが報いと言うや――「どうぞ! これがムゲン水です! 貴重なものなので、無くさないように気を付けてくださいね!」


「ガキがいい加減にしろよ……!」


 こうして、狂気の錬金術師バルザールが仲間になったのである。

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