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第117話 バルザールを捕獲しました!


「ゴフッ!?」


 重い一撃をくらったバルザールは、吐血しながら吹き飛び下水道の壁に激突する。


「かはっ!」


 衝撃で持っていた試験管の幾つかが破壊された。


「まずはHPをギリギリまで減らして気絶状態にします! みんなも手伝ってください!」


 言いながら、ルッタは馬乗りになってさらに連続攻撃を叩き込む。


「とうっ! はあっ! せいやっ!」


「ごふっ! がはっ! かひゅっ!」


 武術の修行によって、彼の動きは以前よりも洗練されているのだ。早く戦いを終わらせることで苦痛を減らしてあげようという、人を思いやる心も備えている。おそらく。


「あの、ルッタお兄ちゃん……その人……もう気絶してるよ……?」


 その時、見かねたツララが恐る恐る告げた。


「おや?」


 ルッタは殴る手をぴたりと止め、バルザールの目隠しをずらして覗き込む。


「危ないところでした……キャラデザのせいで気絶判定が分かりづらいですね」


 狂気の錬金術師バルザールは、ツララの慈悲によって命を救われたのである。


「悪い人でも使えるから……ころすのは損、だよね……!」


「はい! バルザールを殺すのはダメです! ツララのおかげで助かりました!」


「えへへ……!」


 精霊である彼女もルッタの教育によって少しずつ成長し、人の心を獲得しつつあるのだ。


「とにかく、動かないのであれば後は『ひみつきち』に連れて行くだけですよ! 帰還しましょう!」


 無事に目的を達成したルッタは、皆にそう指示を出す。


「今日はべとべとにならなくてよかった~!」


 安心して頬をゆるめるフロナ。


「ふふん! とんだ拍子抜けだったわね!」


 メルカはここぞとばかりに威張り散らす。


 しかし、上機嫌な精霊たちの背後に、バルザールの持つ薬品が混ざり合ったことで誕生した変異スライムが忍び寄っていた。


「あっ! みんなの後ろに経験値ですっ!」


「へ?」


 ――結局、今回も精霊たちはべとべとになり、主人であるリリアの元へ泣きながら逃げ帰ることになった。


 三人とも心の傷は大きく、リリアによる慰めを必要としているため、しばらくは再起不能だ。


 ルッタはバルザールの捕獲と引き換えに、大切なパーティメンバーを失ったのだった。


 *


 ここは薄暗い地下室。


「ん……?」


 バルザールが目覚めた時、彼は頑丈な椅子に縄で縛りつけられていた。


「なんですかこれは?」


 彼は周囲を観察しながら、困惑の声を漏らす。


 禁忌の実験により常人を越えた目を手に入れた彼は、目隠し越しだろうと全てを見渡すことができるのだ。


 むしろ、見えすぎることによって発生する脳への負担を抑えるため、彼には目隠しが必要だった。


「地下室……か。どうやら、ペンタグラルから随分と離れた場所のようだ」


 彼には直近の記憶がない。


 覚えているのは、下水道の研究室で実験をしていたところまで。


 傷は癒えているようだが、記憶が飛ぶほどの強烈な暴力を受けたことだけは確かだった。


「まったく、腹立たしい」


 バルザールは体を揺らし、縄を解こうと試みる。


 だがすぐに諦め、背後に佇んでいる気配に向かって語りかけた。


「――いい加減姿を現わしたらどうです。一方的に観察されるのは不愉快ですよ」


「おやぁ……ばれていたのですねぇ……!」


 闇の中から、ねっとりとまとわりつくような女の声が響いた。


「お久しぶりですねぇ……バルザールさん」


 長い髪を垂らした陰気な女が、彼の前にゆっくりと姿を現す。


「……誰でしょうか。記憶にありません」


「相変わらず、酷い方ですねぇ……。あれほど私の体を解剖したいとおっしゃっていたのにぃ……もう忘れてしまったのですかぁ?」


 女は右手の一部を液体のように変化させ、再び元に戻す。


「――ああ、ノクト教団のスライム人間ですか」


「セレーヌですぅ……。あなたには何度もお薬の注文をした……いわばお得意様というやつですよぉ? 名前くらい、憶えていてほしいものですねぇ……」


「自分で言わないでください。――それで、壊滅した邪教の死にぞこないが私に何の用ですか? 生きる希望が無くなったので死にたいというのであれば、喜んで協力しますよ。……もっとも、残った死体は好きに使わせてもらいますが」


「いいえ、今の私はあんな邪教など信じていません……! 騙されていたことにようやく気付きましたぁ……!」


「ほう」


「今は……尊きゲーム神様にこの身の全てを捧げているのですぅ……! ゲーム・ピコピコ教こそがこの世の真理なのですよぉ……!」


 両手を合わせ祈るように目を細めるセレーヌを見て、バルザールは深々とため息を吐く。


「……なるほど。都合よく縋る先を変えただけですか。やはり心の弱い人間というものは救いようがありませんね。反吐が出る。……あなたに真理などという言葉は使って欲しくない」


「救いようがない? ……いいえ、私は十分すぎるほどに救われているのですぅっ!」


 セレーヌの瞳が輝く。


「そして……あなたも、これから救われるのですよぉ……!」


 彼女はゆっくりと近づき、液体化させた腕をバルザールに伸ばす。


「……まさか、私にもそのふざけた神を信じさせるつもりか?」


 彼女の持つ洗脳能力を思い出し、縛られた体をのけぞらせるバルザール。


「話が早くて助かりますぅ……!」


 セレーヌは不気味に笑った。


「……おい、待て。やめろ。お前の雑な洗脳で……私の天才的な頭脳に何かあったらどうするつもりです? 世界にとって重大な損失ですよ?」


「安心してくださいぃ! きっちりとぉ……世界のために役立てていただきますよぉ……!」


「くっ……!」


 もはや人の言葉が通じる相手ではない。


「ふざけ――」


「問答無用ぉ……!」


 地下室に、バルザールの絶叫が響き渡った。

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