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第116話 たまには一人で攻略したいです!


 バルザールの潜伏場所がこの都市の何処かであることを知ることができた一行は、人気のない路地裏にて身を寄せ合い、作戦会議を行っていた。


「実際のところ、この町はたった四人で探せるような広さじゃないわよ?」


「メルカの言う通り……バルなんとかって人を見つけるのは……難しいと思う」


「お手上げだね~。いっそ、向こうから出てきてくれないかな~?」


 各々の見解を述べる精霊たち。彼女らの意見は概ね一致しているようだ。


「問題ありませんよ! ほぼ確実に下水道に潜んでいるので!」


 しかしルッタがそう答えた瞬間、皆の表情が一斉に凍りつく。


「べとべとは……いやぁーーーっ!」


 フロナが叫んだ。


「べとべと……こわい……ルッタお兄ちゃん……ひどい……っ」


「あ、あんな場所に隠れるなんて……正気じゃないわ……っ!」


 ツララとメルカも可哀想なほどに怯えている。


 どうやら、未だに下水道での一件はトラウマになったままらしい。


 ゲーム・ピコピコ教の価値観で言えば幸福なひと時のはずだが、邪教に入信しても癒えない心の傷というものは存在するのだ。


「いくつかのポイントを探索すれば発見できるはずです! みんなでスライムを倒しながら探しましょう!」


 一方のルッタは、そんなことなどお構いなしに話を進めようとする。


「ま、まだ下水道と決まったわけじゃないでしょっ! 他の場所から探すべきよっ!」


 メルカは震えながら抗議した。いつも強気な態度だが、彼女は意外と臆病なのだ。


「そういえば、みなさんは下水道のダンジョンが嫌いでしたね」


 そこでようやく気づくルッタ。


「当たり前よっ! 平気なルッタがおかしいのっ!」


「――なるほど。では、今回は僕一人で攻略します!」


 彼は精霊たちにそう言い残すと、全速力で走り去ってしまった。


 近頃はパーティを組んでダンジョンを攻略することが多かったので、たまには一人で気ままに賞金首を追いかけまわしたくなったのかもしれない。


「「「……え?」」」


 かくして、三人の少女は路地裏に置き去りにされてしまったのである。


 *


「とうっ!」


「ぎゅむっ!?」


 町外れの水路から下水道へと侵入したルッタは、拳でスライム達を粉砕しながら突き進んでいく。


 彼の通った道には、経験値となったスライムたちのカラフルな粘液が飛び散っていた。


「それにしても、今日は下水道にスライムがいっぱいですね! バルザールが近くに潜んでいる証拠です……!」

 

 ルッタは期待で胸を膨らませる。


「早くムゲン水を増やしてもらって、みんなにも限界を超えたレベルアップをしてもらわなければいけません……!」


 禁忌の錬金術師バルザールは、禁じられていた「生命の創造」に関する実験を行い、生物兵器によって学院を丸ごと一つ吹き飛ばして賞金首となった狂気の研究者だ。


 彼が実験を行う際は、体の構造が単純なスライムを使う場合が多い。そのため、バルザールが潜伏している場所の周辺は、彼によって改造を施された新種のスライムが複数徘徊するようになるのだ。

 

「早くエンカウントしたいです……!」


 手に持ったスライムを捻じ切って経験値にしながら、楽しそうに笑うルッタ。


「……まったく。はしゃぐのはいいけど、一人で勝手に進まないでちょうだい!」


 そんな彼に対し、背後からメルカが忠告をする。


「ダンジョンは……慎重に進まないとだめだよ……?」


「罠とかにハマっちゃうと大変だもんね~!」


 何故かツララとフロナも居た。


「……ところで、どうして三人ともついて来たのですか?」


 腑に落ちないルッタは問いかける。


「だって、相手は悪知恵の働く賞金首よ! あんた一人じゃ心配だわ!」


 メルカは強がるように胸を張りながらそう答えた。しかし足はガクガクと震えているので、依然として下水道に対する恐怖は残っている様子である。


「いくらルッタちゃんでも、一人は危ないよ~!」


 そんな彼女の言葉に同調するフロナ。


「僕は賢いので問題ありません! レベルもバルザールを遥かに上回っています!」


「そんなこと言わないで……みんなで行こ……? ルッタお兄ちゃん……」


「いえ、僕一人で大丈夫です!」


「だめなの……」


 ツララは冷たい手でルッタの腕をぎゅっと握る。


 どうやら、好感度の上昇させすぎたことによって、パーティを解散するのが難しくなってしまったようだ。


「仕方ないから……最後まであたしが一緒に居てあげるわっ! 感謝しなさいっ!」


「僕の話を聞いてください!」


「本当は嫌だけど……ルッタお兄ちゃんのためだから……!」


「もしもし?」


「ルッタちゃんは優しい精霊に囲まれて幸せだね~! えへへ~!」


「だめだ……みんな完全に自分の世界に入り込んでいます……!」


 自分の主張が一切通じない強敵たちを前に、お手上げ状態のルッタ。


「……ついて来るというのであれば仕方ありませんね」


 皆が制御不能であることを悟った彼は、ひとまず引き下がることにした。


「みんなで頑張ってバルザールを見つけ――」


「おや、私のことを探しているのですか?」


 その時、彼らの背後で男の声が響く。


 一同がとっさに振り返ると、そこに立っていたのは目隠しをした白衣の青年であった。


「あれ、見えてるのかしら……?」


「ヘンな人だね~」


 メルカとフロナはひそひそと囁き合う。


「もしや、ギルドはこんな子供たちに賞金首を探し回らせるくらい人手不足なのでしょうか? ……やれやれ、世の中に悪人が多いと大変ですねえ」


「おぉ……ッ!」


 捕獲対象を発見したルッタの目が、キラキラと輝く。


「バルザールですね! 僕に捕まってください!」


「……いいですか少年。それで大人しく捕まるような人間は賞金首にはならないのですよ」


 言いながら、バルザールは液体の入った試験管を取り出す。


「人間のサンプルが来てくれたのは久々です。とりあえず眠っていてもらっ――」


 彼の腹部にルッタの拳が叩き込まれたのは、まだ話している途中のことであった。

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