第114話 精霊たちの末路
冒険者ギルドには、ランク制度が存在している。名簿に登録した冒険者には最下位のFランクが割り当てられ、そこから依頼をこなし、その働きをギルド連盟に認められることで、E、D、C、B、A、Sの順に昇格していくのである。
ギルド内のクエストボードに貼りだされている依頼書の大半には、求めている冒険者のランクが記されており、基準に満たないと受付で容赦なく突き返されてしまう。
自分のランクより上の依頼を受けて良いのは、基本的に冒険者ランクの昇格試験をしている時だけである。
これは賞金首に関しても同様であり、バルザールの潜伏先等に関する詳細な情報はBランク到達者でなければ開示されない。半端な冒険者が賞金首に挑んで返り討ちに遭い、ギルドが掴んでいる情報を向こうに知られては困るからである。
従って、まずルッタが目指したのはBランクへの昇格だった。
「……というわけで、今日からは沢山依頼をこなしていきます!」
「わ~! つまんなそ~!」
「べとべと……きらい……」
「まったく、仕方ないから付き合ってあげるわ! 感謝しなさい!」
あまりやる気のない精霊たちだったが、彼女らにはルッタを更生させるという別の使命があるため、ついてくることをやめはしない。
かくして、世界を飛び回りながら地道に依頼をこなしてランクを上げていく日々が始まったのである。
*
ある日、鉱山の奥にて、ルッタは薄暗い坑道の奥をうろつく銀色の影を指さす。
「見てください! メタルゴブリンです! 倒せば経験値が沢山もらえますよ!」
「落ち着きなさい、ルッタ。周りにもゴブリンが居るでしょ! あんな群れの中にいきなり突っ込んだら――」
「逃げられる前に攻撃しなくてはいけません! おーーーーーーーっ!」
「ちょ、ちょっとっ!?」
メルカの制止に聞く耳を持たず、全力で突撃していくルッタ。
「ぐぎゃぎゃぎゃぎゃッ!?」
「経験値! 経験値! 経験値!」
「あぎゃーーーーーーーッ!」
襲い来るゴブリンたちを一掃し、逃げようとしていたメタルゴブリンも粉砕する。
「みなさんも僕に続いてください! 戦いの参加しないとレベルが上がりません!」
彼の通り道は、爆殺された大量のゴブリンの亡骸が積みあがる地獄絵図と化していた。
「ゴブリン……かわいそう……」
「こ、これが人間のすることなの……!?」
「むごいね~! かわいそ~……」
精霊たちは、そんな彼の蛮行を見てただ怯えることしかできなかったのである。
*
「いやーーーーーっ!」
別の日、森の奥で少女の悲鳴が響き渡る。
「フロナーっ! 囮になってくれたのですねーっ! ありがとうございます!」
「ちがうよーーーーっ! たすけてえええぇっ!」
巨大マンドラゴラが、根っこを使ってフロナのことを縛り上げていた。
「今がチャンスです! 皆で葉っぱの部分を切り落としましょう! あれを納品すれば薬草の採取依頼は達成です!」
「……ご、ごめんね……フロナ。今の方が……安全だから……」
「できるだけ早く終わらせるわ……」
悲惨な姿になっているフロナへ憐みの目を向けつつ、容赦なく別の部位へ魔法を叩き込むメルカとツララ。
「うえーーーーんっ! みんな大きらーいっ!」
そんなこんなで大量のドロップアイテムを入手した一行は、無事に依頼を達成するのだった。
ちなみに、囮になったフロナはマンドラゴラの薬草を貰ったことでどうにか機嫌を直したらしい。使用用途は不明である。花の精霊なので植物が好きなのだろう。
*
そのようにして、幾多の依頼を達成した末――
「レッドドラゴンを倒しました! これでようやくBランクに昇格です!」
火山地帯の奥地にて、ツララの魔法によって氷漬けにされた赤い竜を前に、ルッタは拳を突き上げて喜ぶ。
彼らは四人とも炎耐性のアーマーとフルフェイスマスクに身を包み、完全なる炎対策をしていた。
ちなみに、メルカは優秀な炎耐性を持っているが、竜の炎は完全に防ぐことができないため皆と同じように防備を固めているらしい。今後の成長に期待である。
「やった~! 『けいけんち』だね~!」
「これであたしも『れべるあっぷ』ってやつかしら?」
「……『どろっぷあいてむ』……でた?」
――当初はルッタをまともな人間に教育するつもりだった精霊たちも、気づけば立派なゲーム・ピコピコ教徒へと成り果てていた。
精霊は他者からの影響を受けやすいのだ。
「これでようやく、バルザールの出現場所を知ることができますよ!」
「「「おおー!」」」
マスクによってくぐもった声を発する精霊たち。おそらくは歓声である。
「ですが、思ったより時間がかかってしまいましたね。ランクシステムは少し面倒です……」
巨大ワニを討伐したルッタであれば、ギルドマスターとの交渉で一気にBランクへと昇格することができたのだが、それは過ぎた話だ。
「ルッタ! せっかくだから、あんたがいつも叫んでるあれ……やるわよ!」
その時メルカが言った。火山地帯であるためか、彼女はいつも以上に元気である。
「あれ……とは何のことですか? 何か特定の言葉を叫んでいるつもりはないのですが……」
首をかしげるルッタ。
「ルッタお兄ちゃん……自覚、なかったんだね……」
ツララは呆れ気味であった。ちなみに、氷の精霊である彼女は熱気にやられて元気がない。今にもとけてしまいそうである。
「けいけんち~! って、三回叫ぶやつのことでしょ~? フロナもあれやりたーい!」
「なるほど。よく分かりませんが……みんながやりたいのであれば協力します!」
「ツララがとけちゃう前に、さっさと済ませるわよ!」
そうして四人は肩を寄せ合い、互いの顔を見合わせて深く息を吸い込む。
「「「「経験値! 経験値! 経験値!」」」」
気高かった精霊たちはすっかり邪教に染まってしまい、辺り一帯に狂気の合唱が響き渡るのだった。
バッドエンド。




